建築

国の文化遺産 ザ・マジェスティック・ホテル・クアラルンプール

創業当時の5階建てで復活を遂げた「マジェスティック・ウィング」

 クアラルンプールには一流のホテルが多くあります。そのなかで、ひときわ瀟洒なたたずまいで人々を魅了しているのが、ザ・マジェスティック・ホテル・クアラルンプール。1932年に創業し、一時期は国立美術館として保存され、2012年にヘリテージホテルとして復活。2017年にはマレーシア初の高級ホテルコレクション「オートグラフ・コレクション」に加盟が認められました。マレーシアの歴史を映しだす、伝説のホテルを紹介します。


 マレーシアの英字新聞『The Star』のオンラインニュースに、こんな書き出しの記事が掲載されました。「毎日が良き日である。しかし今日という日は、ホテルマジェスティックのかつてのオーナー・リム氏、そしてYTL   コーポレーションのヤオ氏にとっては、ことさら特別な日であろう」。マレーシアの歴史を物語るホテルが、28年という長い沈黙を経て、ふたたび扉を開いた記念すべき日、2012年12月8日の記事です。

 今から85年前の1932年、ホテルマジェスティックは、クアラルンプールの交通の要であった中央駅の向かい、スルタン・ヒシャムディン通りに建てられました。当時マレーシアはイギリスの支配下にあり、西洋の様式をとりいれた建造物が町を彩っていました。ホテルマジェスティックもそのひとつで、設計はオランダの建築事務所キーズ&ダウズウェルが担当。ネオ・クラシックとアールデコを融合させ、玄関を中心に左右対称に窓が並ぶコロニアル様式。真っ白な外壁にアーチ形の窓枠など、丘の上にたたずむ優美な姿に、誰もが魅了されたそうです。

 内部も、目を見張る豪華さでした。51の部屋にはすべて特注の家具がしつらえられ、レストランのテーブルにはイギリス製の銀食器。お湯の出るシャワーを全室に完備し、18の部屋にはバスタブまで整えるという、当時最先端の設備。屋上にはダンスフロアがあり、社交パーティーが開かれるなど、世界各国から要人がおとずれ、贅沢でとっておきの時間を過ごしたといいます。


衰退と復活の道のり

 しかしながら、1970年代になると、新しいホテルが次々に誕生し、そのあおりをうけて、華々しい時代は徐々に衰退していきます。幸いにも建物の解体はまぬがれ、1983年、歴史的建造物として国が登録。それとともにホテル事業をクローズし、翌84年から98年までは、国立美術館として保存されました。

 1995年、マレーシア最大級の財閥YTLコーポレーションが、ホテルの復元プロジェクトにのりだします。国立美術館の民営化協定を政府と締結。そして2012年、「ザ・マジェスティック・ホテル・クアラルンプール」(以下、ザ・マジェスティック)として、歴史的なホテルはとうとう現代に復活。ふたたび名門ホテルとして、新しい歴史を刻み始めたのです。

現代によみがえる姿

 ザ・マジェスティックの見どころは、創業時の建物の構造をそのまま利用した「マジェスティック・ウィング」。国の文化遺産として登録されている5階建てのヘリテージホテルで、47室すべてがスイートタイプ。浴室の白黒のタイルや壁紙は当時のデザインのままで、ノスタルジックな空間を醸しだしています。

 2012年のリニューアルの際に新設された15階建ての「タワー・ウィング」でも、贅沢な滞在が味わえます。コロニアル・カフェでは、植民地時代にうまれた洋食風の海南料理を提供。チキンチョップやプロウンカクテルが当時の人気メニュー。午後限定の英国スタイルのアフタヌーンティーも、マレーシア流のセイボリーと英国スタイルのスコーンなど、歴史の融合を味わうことができます。プールは2つあり、とくにムーア式の旧クアラルンプール駅を目の前に臨むプールが、最高のロケーションです。

ザ・マジェスティックが今語るもの

古きよき時代とよばれる、歴史がうんだ贅沢なひとときを体験できるホテル、ザ・マジェスティック。過ぎ去った過去をいつくしみ、そして新しい明日への一歩を応援してくれる、そんなホテルです。時は歩みをとめません。昔はよかった、と感じることは、誰にでもあるでしょう。でも、このホテルに訪れると、いつも思うのです。そうやって嘆くことはない。なぜなら、ザ・マジェスティックのように、時が満ちればかならず、復活を遂げるのですから。

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[この記事はWAU No.14(2017年12月号)をもとに作成されています。]

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