映画FILM

日々変化するリアリティーを追い求めて

写真提供・国際文化会館

マレーシアのドキュメンタリー作家、Lydia Lubon(リディア・ルボン)さんにインタビュー。

リディア・ルボンさんは、アジア諸国から集まった様々な分野の専門家6〜8名が日本に約2カ月間滞在し、セミナーや現地視察などのプログラムを通して対話や共通の体験、知的共同作業を行う《ALFP:アジア・リーダーシップ・フェロー・プログラム》(共催:国際文化会館/国際交流基金アジアセンター)のフェローとして来日しました。

個別のフィールド・トリップで広島、宮島、京都、奈良を訪れて、東京に戻ってきたばかりのリディアさん、宮島の美しさに心を奪われたこと、広島の平和記念公園で感じた悲しみなど、印象に残った旅のシーンからお話を始めてくれました。そして、アメリカ人とサラワク州の先住民イバン族の両親を持つリディアさんは、私たちが今年6月に発刊した《WAUサラワク州特集号》を見て「私の故郷の文化が日本語で紹介されている!」と、大感激してくれました。すでに約1カ月間、東京に滞在しているリディアさんは、「サラワクのごはんが恋しいわ。私もサラワク・ラクサを作れるわよ、スパイスを煮込んだり、完成までに5時間かかるけど!」とサラワクの美味しい食事の話でひとしきり盛り上がり、本題のドキュメンタリー作品についてお話を伺いました。

HEART of TAIKO(太鼓の心)』

まずは、石川テレビと共同で製作された『HEART of TAIKO(太鼓の心)』(2015年)について、日本の文化庁とマレーシア側で公募された企画のマッチングから共同製作に至った経緯、実際の撮影での苦労などについて語ってくれました。この作品では、マレーシアのペナン島で活動する女性太鼓グループの3人が、石川県を拠点に国内外で活躍する女性のみの和太鼓チーム《焱太鼓》を訪れ、6日間の太鼓強化練習合宿を行い、最終日に発表をする、というストーリーの中で彼女たちが経験したことや、心の変化などが描かれていると言います。9月には、マレーシアで開催された”Japanese Film Festival”(主催:国際交流基金)で上映があり、「日本とマレーシアの文化交流の一環である本作が大きなスクリーンで上映されたことは本当に幸せでした」とリディアさん。波乱で始まった撮影が、最終的にどうなったのかは実際に作品を見てほしい、と彼女は願っていましたが、残念ながら今回の日本滞在中には上映会の機会はありませんでした。日本とマレーシアのクロスカルチャー的なプロジェクトですので、いつか日本でも上映の機会が訪れることを願っています。

『HEART of TAIKO(太鼓の心)』トレーラー


『スマトラサイの住む森へ』

                ボルネオ島に残された絶滅危惧種スマトラサイ、最後の2頭を追ったドキュメンタリー『スマトラサイの住む森へ(原題:Operation Sumatran Rhino)』(2016年)は、ナショナルジオグラフィック・ワイルド(U.S.A.)で初めて取り上げられたマレーシアの野生動物ドキュメンタリーで、150カ国以上で放映されたといいます。本作は、環境問題にも通じる作品で、上映会では質疑応答の際、地球環境や国の政治に関しても話が及ぶそうです。なかなかメディアで環境問題や政治批判をすることが難しいマレーシアで、リディアさんは、ドキュメンタリーをツールに様々な課題について問いかけをしているのです。

『Operation Sumatran Rhino』 トレーラー


《マレーシア・ドキュメンタリー協会(MyDocs)》

リディアさんは、約200人のドキュメンタリー作家から成る《マレーシア・ドキュメンタリー協会(MyDocs)》の事務局長も務めています。メンバーのうち、国際的に活躍する作家は10~15人。MyDocsでは、上映会やトークを開催したり、海外から専門家を招聘して台本の書き方など、様々な技術を学ぶ場を設けることでマレーシアのドキュメンタリー業界の成長を促進させているそうです。

MyDocs Facebook page: https://www.facebook.com/mydocs.my/

歴史、政治、音楽、文化、食など様々なテーマでドキュメンタリーを撮っているリディアさんですが、特に「リアリティーを追求した作品を作りたい。今、現在起きていること、日々変化する様子、その一瞬一瞬を逃さず捉えることにワクワクします。それは難しいことだけれど、頭をとてもシャープにして、『アクション・ドキュメンタリー』を今後も撮り続けたい」と語ってくれました。

これまで、なかなかマレーシアのドキュメンタリー作品を見る機会はありませんでしたが、環境問題、政治、人権問題などに限らず、美しい自然、豊かな食文化、伝統文化など、幅広いテーマで作品が作られていることを今回の取材を通して知りました。日本との共同製作プロジェクトなども含めて、今後も注目していきたいと思います。

文・上原亜季  取材・Hati Malaysia (上原亜季、古川音)
(インタビューは、2018年10月15日に《国際文化会館》にて行いました。)

『スマトラサイの住む森へ(原題:Operation Sumatran Rhino)』が放送予定!
2018/10/26 19:00
2018/10/27 12:00
https://natgeotv.jp/wild/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/2230

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