演劇

表現者として幅広く活躍するシャリファ · アマニさん、イデル · プトラさん

Interview with Sharifah Amani & Iedil Putra

今、マレーシアを代表する表現者として映画、舞台、テレビドラマと幅広く活躍するシャリファ・アマニさんとイデル・プトラさん。共演作品も多く、舞台作品『NADIRAH』や昨秋の『BEAUTIFUL WATER』ではそろって日本公演に参加。アマニさんが監督した短編映画作品にイデルさんが出演するなど、お互いの活動を刺激し合う2人に、国を越えた共同制作や昨年の政権交代がアート界に与えた影響などを聞きました。

表現者としての 《共通の言語》
支え合う仲間
新政権におけるアート界の変化

■2018年秋に上演された日本・インドネシア・マレーシア共同制作『BEAUTIFUL WATER』では、3カ国から演出家3人と12人の役者が集い、一つの舞台を作り上げました。公演では、環境汚染や自然災害、大量消費など、あまり直視したくない現実を見せられ、胸に突き刺さるものを感じました。

イデル: 本作では、異なる文化的背景を持った役者が、異なる言語とエネルギーをぶつけ合いながらアイデアを出し、演出家とともに積極的に創作に参加しました。環境汚染や自然災害、政治的な問題は、どの国も経験していることで、共通した過去の苦しみの経験が、我々役者にとっては《共通の言語》となるのです。観る人にとって解釈は様々なので、公演のたびに違った見方をしてもらえる面白い作品に仕上がり、私自身驚きました。日本での異文化体験も含め、この舞台製作を通して表現者として多くのことを学び、新しい観点を身につけることができました。

■アマニさんは、日本の国際交流基金アジアセンターと東京国際映画祭の連携事業として製作されたオムニバス映画『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』の『鳩 Pigeon』(行定勲監督、2016)にも出演しています。日本人監督や主演の津川雅彦さんらとの経験について教えてください。

アマニ:素晴らしい経験でした。津川さんはマレーシアでの撮影現場では、完全に頑固な老人の役柄に入り込み、とても威圧感がありました。私はおじいちゃんのお世話役のヤスミンを演じましたが、二人の関係は愛と恐れ、脅迫感、全てが入り交じったものでした。

■行定監督から撮影中は津川さんの人を寄せ付けない雰囲気をアマニは恐がり、涙まで流したと伺いました。

アマニ:もし年下の役者なら、何が問題なのよ、落ち着きなさいよ、仕事なのよ、って叱り飛ばすと思うの。それが私のスタイルだから。でも、津川さんはベテランの俳優だし日本の役者さんだから、そんなことできないでしょ。自分のシーンの撮影が終わると宿に戻ってしまい、私は一人で演技をしなければいけないこともあり、撮影が進むにつれて、フラストレーションとプレッシャーが私を泣かせたの。でも、あとから、それが津川さんの役柄を重んじるスタイルだと知りました。それは日本の映画人との撮影だからこそできた貴重な経験でした。

 息子役の永瀬正敏さんはスーパークール! 彼の演技に込められたエネルギーは静かなものだけど、とてもパワフル。息子が父親に怒りをぶつけるシーンでは家全体が震撼して、私は本当に怖かった。とっさにおじいちゃんを抱きしめて守ろうとしたの。演技する必要もありませんでした。

 行定監督も、撮影監督の今井孝博さんも大好きです。マレーシアの現場にあわせて、二人ともオープンにコミュニケーションをとってくれました。言葉は通じなくても、同じ映画人、俳優として同じ「言語」を共有しているからお互いを理解し合えたのです。

■マレーシアでの最近の活動について教えてください。イデルさんが主役を演じた、アマニさんの最新監督作『5Minit』(短編、2018)は、タブーとされてきた性の問題を扱った作品ですね。

アマニ:本作は、16歳の未婚の娘が妊娠判定を待つ、「果てしない5分間」を描いた父娘の物語です。イデルが、自身も主人公である娘を未婚のまま授かった父親役を演じています。テーマは、10代の若者の妊娠と性教育。マレーシアでは、赤ちゃんの置き去りや新生児の死体遺棄、少女の出産など、様々な問題があり、私はとても胸を痛めています。アジアの国々では、性について話しをしないけど、現実には私たちの生活と密接に関わる事柄です。親は子供たちが必要としている情報を与え、もっと対話をする必要がある。タブーだからと話しをしなければ、問題はより大きくなり、悪循環は断ち切れません。子供も大人の選択をするのなら、大人と同じように責任も持たなくてはいけないと思うのです。

■マレーシアの若者社会の暗部を描いた作品で二人が出演している『PEKAK』(2015)や、移民問題や警察の汚職などを描いた  『One Two Jaga』(2018)など、社会的なテーマを扱った映画作品が増えているようですが、そのような流れがマレーシア映画界にあるのでしょうか?

イデル:メインストリームのトレンドではありません。でも、(インド系社会の苦境を描いた)『JAGAT(世界の残酷)』(2015)や『Adiwiraku(私のヒーローたち)』(2017)、政権交代が起きた2018年5月9日の総選挙を描いた作品『RISE – INI KALILAH』(2018)など、確かに社会政治的な構造について触れる作品は増えています。マレーシアでは、警察や当局に関する表現にはとても気を付けなければいけません。『One Two Jaga』は、スクリプト作成から資金確保、撮影、再撮影と本当に長いプロセスを経て完成しました。

■プロデューサーのブロント・パラレさんは、何度もPDRM(マレーシア王立警察)を訪れ、台本を見せて協議を重ねたそうですね。

イデル: 総選挙が終わった後というタイミングもよかったと思います。前政権下では、映画を公開することもできなかったと思います。

■2018年5月に政権が交代してからまだ数カ月ですが、それほどまでに違いがありますか?

イデル: とても違います。政権交代後、様々な変化が起きていて、いろんな事に影響が出てきています。特にアートやクリエイティブな分野ではこれまでこんなに自由を与えられたことは一度もなかったので、今は試行錯誤の時期だと思います。やりたいと思うことは何でもやってみる。そこで、それはダメだと言われれば他のやり方を試してみる。

アマニ:前政権のときは、ダメなものは、ダメだった。何か聞き返せば投獄されてしまうことさえあった。でも、今は「なぜダメなのか?」と問うことができます。私は2013年頃から、あるアーティスト協会の委員として何度も会議に参加してきましたが、今までアートは個人的なことだ、という理由で全く何も変わらずとても残念な思いをしてきました。変化のプロセスには時間がかかりますが、今は政治家も大臣も聞く耳を持ってくれている。私はとても希望を感じています。

イデル: 少なくとも、僕たちの仕事が軽んじられていないのは事実です。マレーシアには、多くの語るべき物語がある。ですから、秘められた能力を見いだし、クリエイティブな力を育み、何かを生み出す必要があると思うのです。きちんと教育して育むための環境が新政権下で整うことを願っています。

Theatre / 舞台

『Beautiful Water(ビューティフル・ウォーター)』(2018年) 構成・演出:多田淳之介、Bambang Prihadi(インドネシア)、Jo Kukathas(マレーシア)。マレーシアからは、Sharifah Amani、Iedil Putra、Thian Siew Kim、Tung Jit Yangが役者として参加。


シャリファ・アマニ

イデル・プトラ

Iedil Putra。俳優。9歳の頃に初舞台を経験。カレッジ卒業後、イギリスに留学。医学部で3年間勉強したが、俳優の道に進むため2007年に帰国。その後、パフォーミングアーツの世界に入り、映画やテレビドラマ、舞台にて本格的に活動。主な出演映画作品に、『ノヴァ〜UFOを探して』(TIFF2014上映)、『Pekak』(2016)、『Interchange』(2016)、『One Two Jaga』(2018)ほか。舞台作品『NADIRAH』(2016年秋)、『BEAUTIFUL WATER』(2018年秋)など。2019年2月18日から3月3日まで舞台『Ola Bola the Musical』に出演中。

Films / 出演映画

5 Minit

(Sharifah Amani監督、2018)

妊娠が疑われる高校生の娘と父親の物語。10代の若者の妊娠と性教育に焦点を当てた作品。


Pekak

(Mohd Khairul Azri Mohd Noor監督、2015)

聴覚障害者で麻薬密売人のウダと少女ダラの恋を通して描く、暴力、麻薬、セックスなどに侵された若者社会。


One Two Jaga(邦題:それぞれの正義)』

(Namron監督、2018)

正義感あふれる新米警官が直面する不法移民や警察の汚職の問題など、社会の闇を描いた作品。

取材・文: 上原亜季 Aki Uehara 
取材協力: 富士見市民文化会館キラリふじみ、国際交流基金アジアセンター
写真(舞台):松本和幸

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