書籍

マレーシアを知りたいあなたに、専門家がすすめるブックガイド

マレーシアと聞いて、どんなイメージを思い浮かべますか。さまざまな顔を見せるマレーシアを理解するのはなかなか難しいもの。 そこで今回は、政治、文学、旅、言語など幅広い分野にわたって、マレーシアの専門家がすすめる日本語書籍を紹介します。

※おすすめしてくださった専門家 ::: 新井卓治さん(公益社団法人日本マレーシア協会専務理事) /  内山深さん(神田神保町「内山書店」店長)/ 川端隆史さん(ユーザベース・アジア・パシフィック チーフアジアエコノミスト) / 左右田直規さん(東京外国語大学勤務) / 瀧井龍馬さん(マレーシア専門旅行会社「エムアールシージャパン」代表)/ 戸加里康子さん(『旅の指さし会話帳 マレーシア』著者)/ 舛谷鋭さん(立教大学観光学部教員)

※紹介している本は、東京・神保町の 「内山書店」やインターネットなどで購入可(一部ウェブ閲覧のみもあり)


ポスト・マハティール 時代のマレーシア
政治と経済はどう変わったか

中村正志 熊谷聡(編)
アジア経済研究所

政治経済の変化を掴む
マレーシアの政治経済の変化をどう把握すればよいのか。本書は、改革の試みと挫折、反動化という政治の動きと、それに対応した経済構造・政策の変化を諸側面から説明し、アブドゥッラー/ナジブ時代の政治経済の見取り図を示す。本書出版後に実現した政権交代の背景を理解するためにも役に立つ良書。(左右田さん推薦)


マハティール政権下の マレーシア
「イスラーム先進国」をめざした22年

鳥居高(編)
アジア経済研究所

発展の礎を築いた政治分析
国の特徴を知るためにおさえておくべき1冊。上で左右田さんが推薦している『ポスト・マハティール時代のマレーシア』の前身となった研究書。マハティール前政権期、すなわち1981年〜2003年という、マレーシアが中進国として大きく飛躍した時代に、政治や経済に何が起こっていたのかを第一線の専門家が分析。(川端さん推薦)


マレー・ジレンマ

マハティール・ビン・モハマッド(著) 高多理吉(訳)
勁草書房

マハティール哲学に触れる
現首相のマハティールが1969年に総選挙で落選、ラーマン首相批判、UMNO除名、という試練の時期に書き上げ、1970年に出版された。国民が直面する問題と課題を大胆に突き、当時は国内で発禁処分となったが、その後、広く読み継がれた。マハティール哲学の根本に触れることができる書。(新井さん推薦)


マレーシア国民のゆくえ

多民族社会における国家建設

モハメド・ムスタファ・イスハック(著) 岡野俊介ほか(訳)
公益社団法人日本マレーシア協会

未来予測のための歴史考察
1970年以降のマレーシアにおける国家建設、とくに1991年のマハティールによる2020年構想で打ち出された「バンサ・マレーシア(統合されたマレーシア国民)」という概念の変遷をたどり、マレーシアにおける国造りの力学の変化を分析。今後のマレーシアのゆくえを考える上で多くの示唆をもたらす書。(新井さん推薦)


国境を生きる
マレーシア・サバ州、 海サマの動態的民族誌

長津一史
木犀社

海の国境の意味を問う
海域世界に生きる人びとにとって、生活圏を横切る国境はどのような意味をもつのか。フィリピンやインドネシアと海の国境を接する、マレーシア・サバ州の海サマ(バジャウ)の日常世界における開発とイスラームをめぐる変化を丹念に描き出しながら、国境や国家の意味を問い直した渾身の力作。(左右田さん推薦)


周縁を生きる人びと
オラン・アスリの開発と イスラーム化

信田敏宏
京都大学学術出版会

周縁世界の葛藤を描く
現代マレーシアを特徴づける開発とイスラーム化のなかで、少数民族はどう生きているのか。半島部のオラン・アスリの村を舞台として、開発がもたらした階層化とイスラーム改宗政策が引き起こした軋轢を緻密に分析し、マレーシア社会の重層的な「中心-周縁」関係を浮き彫りにした先駆的著作。(左右田さん推薦)


プラナカン

太田泰彦
日本経済新聞出版社

謎の民の素顔を描く
16世紀ごろ海を渡ってきた中国人の祖先をもつプランカン。華僑とも異なる、固有の歴史をもつ人々のインタビュー集。本に登場する彼らの生い立ちはまるでドラマだが、これまでいまひとつ掴みどころのなかったプラナカンの歩んできた道をリアルに感じることができる。美しい衣裳や料理への想いにも注目。(編集部・古川推薦)


ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして
人類学者が考えたこと

奥野 克巳
亜紀書房

ボルネオ島から学ぶ新常識
人類学者がボルネオ島の狩猟民族プナン人と長年暮らして体験したこと、考えたことを軽快なエッセイで紹介。たとえば誰よりもみすぼらしいふうをしている人がビッグマンとよばれ尊敬されること、生年月日を覚えている人が誰一人いないこと。それらの理由も丁寧に解説。独特の世界観にハッとさせられる。(編集部・古川推薦)


ハラルを よく知るために

ユミ・ズハニス・ハスユン・ハシム(編) 岡野俊介ほか(訳)
公益社団法人日本マレーシア協会

食だけではない「ハラル」
昨今、食分野における「ハラル」への関心が高まってきたが、本来は、生活全般を対象とする概念である。本書は、マレーシア国際イスラム大学の専門家が、ハラルに関する法学と認証、食品と加工、化粧品、日用品、医薬品、ツーリズムと接客業、銀行と金融など、ハラルの事例を数多く紹介する貴重な資料。(新井さん推薦)


東南アジアのイスラーム

床呂郁哉・西井凉子・福島康博
東京外国語大学出版

一般向けイスラームの解説書
マレーシアはイスラームを国教とするため、国を理解するにためにはイスラームについて知ることが必須。本書は東南アジア全体のイスラーム実情について16人の専門家が分析。マレーシアに関連する項目としては、ハラル産業、イスラーム金融、政治とイスラームについて取り扱った章がおさめられている。(川端さん推薦)


海の帝国
アジアをどう考えるか

白石隆
中央公論新社

地域の成り立ちに迫る
マレーシアを含む「海のアジア」をどう捉えたらよいのか。本書は、「地域」を安定した構造としてではなく、生成、発展、成熟、崩壊するプロセス——「地域化」——として把握する。比較国家史、国際関係史のマクロな視点から、地域の形成と変容のダイナミズムを伝える、知的刺激に満ちた作品。(左右田さん推薦)


ASEAN企業地図第2版

桂木麻也
翔泳社

経済を動かす財閥とは
マレーシアの経済やビジネスに大きな影響を与えている財閥。多数の事業を手がけるマレーシアの財閥は、ベルジャヤ、クォック、ホンリョン、ウサハ・テガス、ゲンティン、YTLなど。本書にはそれらの資本関係や財務データが解説されていて、マレーシアをはじめアセアンでビジネスを考えている人の必読書。(川端さん推薦)


多民族〈共住〉の ダイナミズム
マレーシアの社会開発と生活空間

宇高雄志
昭和堂

空間からひも解く共生
建築学という視点で、多民族国家マレーシアにおける民族共住の動向を解説した貴重な本。1990年と2010年代の著者のフィールドワークをもとに、村や世界遺産都市、開発フロンティアの新都市、団地、新首都造営地などに焦点をあて、経済発展や開発とともに変貌する生活空間を描きだしている。(内山さん推薦)


住まいと暮らしからみる 多民族社会マレーシア

宇高雄志
南船北馬舎

住まいからみる多様な文化
隣人の暮らしを覗いてみたい欲求は、誰にもある。民族が違えばなおのこと。本書は、まちと村、郊外、市場と屋台、伝統家屋と団地の暮らしを細かいスケッチとともに紹介。マレーシア滞在経験を持つ著者の建築学的視点による語りは、生活音や匂い、人々の会話まで聞こえてくるほど想像力をかき立てる。(編集部・上原推薦)


東南アジア文学への 招待

宇戸清治(編) 川口健一(編)
段々社

今も唯一の東南ア文学入門
2001年出版から20年近く経っているため、巻末日本語作品リストも古びたかと思いきや、マレーシアについてはそうでもない。『東南アジア文学』年刊(東外大)や馬華文学「台湾熱帯文学」4巻くらいか。とはいえ20世紀で途絶えた章末文学年表くらいは更新しておきたいものだ。(舛谷さん推薦)


東南アジア文化辞典

信田敏宏(編)
丸善出版

アジアの文化を幅広く紹介
東南アジア研究者が結集して執筆。タイトルは文化となっているが、教育、言語、宗教、食、政治経済、観光など幅広いジャンルで解説。少々値ははるが、マレーシアだけでなく東南アジア全体の知識を得ることで、それらのつながりも感じられる貴重な一冊。(川端さん推薦)


アジア・映画の都
香港~インド・ムービーロード

松岡環
めこん

アジアの映画交流史
多くのマレーシア人に愛される大スター、P.ラムリーが活躍したマレー映画黄金時代の1950~60年代、その基礎を作った黎明期、製作の拠点シンガポールにはアジア各地から映画人が集まった。その足跡を追う著者と一緒に旅をしているようなワクワク感を味わいながら、マレー映画の歴史を知ることができる。(戸加里さん推薦)


カンポンボーイ

ラット(著)左右田直規(監訳) 稗田奈津江(訳)
東京外国語大学出版会

絵で見る村の少年の世界
マレーシアの国民的漫画家Latの代表作。1950年代、ペラ州のカンポン (村)に暮らすちょっとやんちゃなラット少年の生活を、のびやかな独特のタッチで描いている。ちょっと昔のマレーシアの村の生活を理解するためにもよい本だし、絵を見ているだけでも楽しい。続編『タウン・ボーイ』もあわせて是非。(戸加里さん推薦)


スロジャの花は まだ池に

アディバ・アミン 松田まゆみ(訳)
段々社

マレー女性の青春小説
西洋流の教育を受けた中流階級の女性が、恋に悩みながら独立後のマレーシアで、自らのアイデンティティを模索。英字紙のコラムニストとして活躍したAdibah Amin。併録の自伝的小説「ほろ苦い思い出」とともに独立前後のマレーシアで、若い女性が葛藤しながらも成長する姿が生き生きと描かれている。(戸加里さん推薦)


黄金諸島物語

アンワル・リドワン 小野沢純(訳)
紀伊國屋書店

マレー語の幻想文学
政治的、経済的に混乱する、太平洋に浮かぶ架空の国「黄金諸島」にまつわる話を、日本の漁船の乗組員が聞き集めて、語る。1997年~2000年、マレーシアで起きた、副首相(当時)の罷免と逮捕という出来事に着想を得た小説という。「黄金諸島」はどこにもない国であり、どこにでもある国のような気がする。(戸加里さん推薦)


アブドゥッラー物語
あるマレー人の自伝 アブドゥッラー

中原道子(訳)
東洋文庫

自伝という歴史の証言
19世紀前半、英領時代のマラッカで教師としてマラッカ在住の西洋人らにマレー語を教え、ラッフルズやイギリス人駐在官とも交流があった著者が、自らが見聞きしたことを自らの言葉で書き記した本書は、マレー近代文学の先駆的作品と評されている。当時のマラヤ人自身がマラヤ社会を描いた貴重な記録。(新井さん推薦)


ある女の肖像

S・オスマン・クランタン 小野沢純・加古志保(訳)
大同生命国際文化基金

激動の時代を生きる女性
マレー半島東海岸のクランタン州において、英領マラヤから日本軍占領を経てマラヤ連邦独立へと向かう激動の時代の中、一家の大黒柱として、力強く生き抜いた女性の姿を描く。「おしん」に通じる女性の逞しさ、母親の献身的な愛の姿は、国境を越えて、読者を感動させる。非売品だがウェブ上で閲覧可。(新井さん推薦)


リマ・トゥジュ・リマ・ トゥジュ・トゥジュ

こまつあやこ
講談社

帰国子女が主人公の小説
主人公の沙弥(サヤ)はマレーシアからの帰国子女。「マレーシアのそういうところが好きだった。みんな同じ、ではない。ちがいがあること、それがふつう」という沙弥の言葉のように、マレーシアと日本の文化の違いをやさしい言葉で紡ぎつつ、子供の成長を描く。講談社の児童文学新人賞受賞。(編集部・古川推薦)


週末シンガポール・ マレーシアで ちょっと南国気分

下川裕治
朝日新聞出版社

街角の風が漂う旅エッセイ
下川さんの人気の「週末旅」シリーズ。マレー系、中国系、インド系の違いをみて多民族国家の歴史に思いを馳せたり、ビールがなかなか飲めなくて途方にくれたり、格安航空会社エアアジアについて考えたり。気取らない下川さんの文章を読むと、1度しか行ったことのないマレーシアがなぜか身近に感じられる。(内山さん推薦)


カラフルなプラナカンの街 ペナン&マラッカへ

丹保美紀
イカロス出版

世界遺産の街に輝く文化
私もどこに行こうか、と何度もページをめくった旅の案内書。パステルカラーの器に眩いほどの美しい刺繍が施された民族衣装クバヤ、色鮮やかなお菓子の数々、雑貨に建築、ホテルまで、オールカラーの美しい写真で紹介。本格的なニョニャ料理を味わえる店や珈琲店、プラナカン文化の魅力が満載。(編集部・上原推薦)


地元で愛される 名物食堂 マレーシア

古川音
ダイヤモンド社

おいしいもの満載のグルメ本
安くてウマい食堂が街中にあふれている。こちらではサテーが、あちらでは点心が、向こうではインドカレーが食べられる。これが多民族国家の魅力。地域密着の繁盛店を古川音さんが熱い気持ちで紹介するとともに、マレーシアの食文化、マレーシア人の人柄、マレーシアの風俗・習慣なども紹介されている。(内山さん推薦)


旅行ガイドにはない アジアを歩く マレーシア(増補改訂版)

高嶋伸欣・関口竜一・鈴木晶
梨の木舎

各地に残る戦跡ガイド
太平洋戦争が始まって間もない1942年3月。マレー半島を占領した日本軍は中国系の人々の虐殺を始めた。生き残った人の証言、各地に残る追悼碑などの史跡をつぶさにたどり、日本ではあまり語られることのなかったもうひとつのマレーシアの歴史を詳しく紹介した本。住民虐殺の追悼碑45カ所を紹介。(内山さん推薦)


NEXTRAVELER vol.04
クアラルンプール

高城剛
セブン&アイ出版

独自の視点のKLガイド
世界で動き回る高城剛さんが執筆したクアラルンプールのガイド本。マレーシアの旅ガイドは多数あるが、本書は「現地をよく知っているなあ」と思わせるスポットが満載。地元の店を集めたSCパブリカやヒップスターならぬミップスターの登場など大きく変貌するクアラルンプールの見どころを知ることができる。(川端さん推薦)


深夜特急2
マレー半島・シンガポール

沢木耕太郎
新潮文庫

ひとり旅必携の旅エッセイ
旅といえばパッケージツアーが主流の約20年前に、この本では、ツアーではとうてい遭遇することのできない人々に出会う。それぞれの生活を持ち、そこで生きている人々。現在、マレー鉄道は電化されて寝台列車は廃止されているが、この本を片手に令和時代の明るい深夜特急で疑似体験してみては。(瀧井さん推薦)


旅の指さし会話帳
マレーシア

戸加里康子
情報センター出版局

旅の出会いに会話を
挨拶、買い物、食事、トラブルと状況別にイラスト、写真とともに紹介。基本的な文法や、日・マレー語の単語集も充実。華語(マンダリン)やタミル語のページもあり、多民族国家マレーシアでの交流をさらに広げるツールに。初心者でも安心。本書を片手に、現地の人々との会話を楽しもう。(編集部・上原推薦)


国民食ナシレマッという1つの料理からマレーシアの多様な食文化をひも解いた『ナシレマッ!』。
「内山書店」またはamazonにて販売中。(古川音)

7年開催したマレーシア料理教室でマレーシア人の先生から習ったレシピをまとめた『マレーシア人に習った50のレシピ』。
「内山書店」にて販売中。(古川音)

マレー語のテキスト、辞書紹介:最初のテキストには、基本的な文法から会話も学べる『ニューエクスプレス マレー語』『まずはこれだけマレーシア語』がおすすめ。『オマー・アズーのマレー語講座』は、じっくり勉強したい人向け。また、日本語・マレーシア語の辞書として頼りになるのは『マレーシア語学習辞典』。(上原亜季)


専門家おすすめWebサイト

川端さん推薦
■ JETROアジア経済研究所ウエブサイト内「アジア動向年報」

アジア経済研究所の専門家が毎年アジア各国の情勢をふり返り執筆している書籍のWeb版。1970年代から最新まで閲覧可。マレーシアの出来事を時系列で把握する資料として便利。

■ Yeo Bee Yin氏 公式Facebookページ

マハティール内閣で活躍するエネルギー・科学技術・環境・気候変動相のYeo Bee Yin氏。36歳と若い女性で国民から熱い支持を得ている。現代のマレーシアの課題と今後の可能性を理解する手がかりに。

■ Hannah Yeoh氏 公式Facebookページ

マハティール内閣で活躍する女性・家族・共同体開発副大臣のHannah Yeoh氏。女性の地位向上やダイバーシティの促進に向けた活動を見ることができ、現代マレーシアを理解する良い素材。

瀧井さん推薦
■ Malaysia Guide
Tony Kansai(トニー寛斎)氏が2002年より発信している情報サイト。ご本人がマラッカ在住なのでマラッカ情報が特に詳細。その他、全国の観光・情報・公共交通なども満載。


※本文中のカタカナ表記(イスラーム、イスラム、ハラル、ハラールなど)は書籍名、専門家コメントに合わせて記載

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