映画FILM

銀幕の精神#9 ROH:孤立した恐怖

ファラ・アフマド演じる母親。ファラの実娘であるミーア・ファルハナが娘アロン(右端)を演じる

Roh: The Horror of Isolation

 『Roh』(マレー語で「魂」)は、VFXアーティスト(ビジュアル・エフェクツ・アーティスト)であるエミール・エズワンの長編監督デビュー作です。町外れで平穏に暮らす母親と、娘アロン、弟アンガの3人家族を描いた物語。ある日、アディッという謎の少女が無言で彼らの前に現れ、彼らの周りに厄災、死をもたらします。アディッはただ、「満月の夜、あなたたちは皆死ぬ」と言う。母親は迫りくる恐怖から家族を守ることができるのでしょうか。

 本作は、マレーシアで人気のホラー映画を手がける映画製作会社クマン・ピクチャーズによる3作品め。クマンは、製作に莫大な資金をつぎ込むことはせず、良質の物語を大切にしています。また、年に2回脚本を公募し、脚本家の著作権も守る。興行収入やテレビ放映権収入はクルー全員に平等に分配するなど、できるかぎり会社の透明性を維持し、これまでの製作会社とは一線を画したマレーシア映画界の改革に努めています。

 実生活では夫婦のナムロンとジュナイナ・M・ロジョンが、我が子を殺した犯人を探す父親役とミステリアスなシャーマン役として登場し、素晴らしい演技を見せています。ほかにもマレーシア映画界の名だたる役者、最高のクルーが結集し、限られた予算や撮影日数で完成させた作品。ビックリするような仕掛けはないものの、映像は、照明、メイク、美術などプロダクション・デザインを通して、身の毛がよだつような恐怖感が物語全体に流れています。2019年には、シンガポール、インドネシア、イタリアの国際映画祭に参加。今年8月6日にマレーシア全国70カ所のシネマで公開され話題になっています。

文/A・サマッド・ハッサン A Samad Hassan
翻訳/上原亜季 Aki Uehara

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