建築

奥に続く長〜い建物をのぞいてみます ショップハウス アジア諸国に広がる住まい

 マレーシアの人々の暮らしと歴史が溶け込んだショップハウスに注目。2008年、ユネスコ世界文化遺産都市として登録されたペナン島のジョージタウンとマラッカ。この2つの町並みを特徴づけているのがショップハウスです。1階に昔ながらのカフェ「コピティアム」、布地屋、ラタン製籠や家具店などのショップが入り、2階は店の店主や街に暮らす人々の部屋がある店舗兼住居。ショップハウスのデザインや装飾は一棟ずつ異なり、町の表情を豊かにしています。
 今回は、都市や建築空間にみる多様性と調和をテーマに、30年以上にわたりマレーシアの町並みやショップハウスの変化を追い続けている宇高雄志先生に、自らのスケッチとともにその魅力もお伺いしました。

ショップハウスの歴史・地理的要素

アジア各地でみられるショップハウス。18世紀から20世紀にかけて中国南部から台湾、ベトナム、インドネシア、マレーシアなどアジア諸国に広がった都市型の建築であり、地理的な広がりがある建築形態というのが主な説。マレーシアでは、イギリスの植民地化の中で中国南部の伝統的な建物に西洋の要素も融合されて建てられたと考えられています。

1階は食堂、2階は安宿の構造。1階の左端の入口から、店舗、奥側に経営者の寝室、沐浴室、トイレ、厨房が設置されている様子がよくわかる

ショップハウスの特徴

■ 一階は「店舗(ショップ)」、二階以上は「住まい(ハウス)」として利用されている店舗兼住宅。住宅だけの住居専用や店舗のみの物もある。
■ 間口が狭く、奥行きが長いのが構造の特徴。これは、イギリス植民地時代に「間口課税」といって、間口の幅で課税されていたためで、長いものになると50m以上の建物も。
■ 隣家と壁を共有する長屋式。建物の両側の壁はレンガや鉄筋コンクリートで作られ、構造として荷重を支えているだけではなく、防火壁としても優れる。建物の屋根の多くは、柿色のテラコッタ瓦葺き。
■ 中に入ると、店舗などの接客空間の奥にプライベートな空間があり、建物の中央には自然の採光と通風のための「エアウェル」とよばれる吹き抜けの中庭がある。
■ 建物の奥部に台所やトイレ、沐浴室など水場が設置されている。
■ ショップハウスが並ぶ街路に面して歩廊がある。日よけ、雨よけの機能をもつ歩行者用の公共通路がある。5フィート(約1.5m)の幅のため英語で「ファイブ・フット・ウェイ」とよばれる。

ジョージタウンにあるインド系サリー屋さんの「ショップ」部分。スケッチ上部の入り口から奥に長く、壁側の棚やカウンターに色とりどりの布地が整然と陳列されている

インタビュー:宇高 雄志 教授 [兵庫県立大学環境人間学部]
Interview with Prof. Yushi Utaka

1
ショップハウスは、
マレーシアの多民族性や
歴史を良くあらわす建物

 ショップハウスの意匠は、宗主国であったイギリスや中国の影響も受けています。また、東南アジアという熱帯の気候にも適し、熱気がこもらないような構造になっているなど、いろいろな要素が集まって成立しています。まさしく熱帯のマレーシアの土地に適した建築だと思います。
 中国系、マレー系、インド系、それぞれの住人が自由にデザインして、しつらえを変えたり、増改築を繰り返したりして各々のビジネスをしています。たとえば中国系の廟としても、クリニックとしても使えるショップハウスはある意味とても包容力のある、面白い建物だと思います。

2
遍在的な都市型住宅

 いわゆる伝統的な形態のショップハウスは、ペナンに最も多いですが、地理的にも広がりがあり、今も作り続けられています。ジョホールのバトゥ・パハ、イポーなど、マレーシア各地の町にあります。

3
風通しのいい町、ペナン
地理的条件が作り上げるKLの町並み

 わたしはペナンの町が好きです。リトルインディアなど中心市街地の辺りは、格子状に街路を配置しているので、町並みの見通しがよく、海からと山からの風が抜けていく。
 一方、町の構造でいえば、クアラルンプール(KL)は平坦地が少なく、高低差があるのであまり見通しがききません。地理的条件に合わせて作られた町で、都市研究者によれば時に「迷宮都市」とも呼ばれます。クアラルンプールのダイナミズムはあの迷宮性に表れていると思います。もちろん中心部はショップハウスが街の主役でした。
 私にとって民族が混じり合って住み、隣人とは民族の枠を超えた人間関係を築く「多民族混住」がいちばんの関心事でもあります。

4
観光開発という
新しい流れと変化

ジョージタウンやマラッカでは、ユネスコ世界文化遺産への登録を機に、観光客向けのさまざまなビジネスが展開され、ショップハウスもブティックホテルや新しいカフェなどに改築されるなど、目まぐるしく変化しています。ある種の観光開発圧を受けているわけです。ただ、変化を否定的に捉えているだけではなく、新しい形に生まれ変わっていく可能性もあると思っています。ショップハウスにはある意味、時代を超えるタフさもありそうです。その変化がどのように起きるか、歴史的な町並みと観光との関係を今後も追っていきたいと思います。


中国系の乾物屋さん。入口前の歩廊「ファイブ・フット・ウェイ」、その先にはさらにテントを設置して様々な商品を並べている

PROFILE
宇高 雄志(うたか・ゆうし)
兵庫県立大学環境人間学部・教授

「マレーシアでは外国人として暮らしましたが、嫌な思いはしたことがなく、住み心地が良かった。必要な時は手を差し伸べてくれるが、ちゃんと距離も取ってくれる、人付き合いをする上ですごくカッコ良い人が多いと思いました」

建築学、都市計画学。広島大学勤務、シンガポール国立大学、マレーシア科学大学にて研究員などを経て、兵庫県立大学勤務。都市や建築空間にみる多様性と調和について研究。
学生時代から、いろんな形の建物を求めてアジア諸国を放浪。マレーシアでは古い建物から新しい建物までを見て、そのカタチと暮らしに興味を持ったのが始まり。1993年にジョホール・バルに半年ほど、その後、ペナンに合計3年間滞在。人との出会いも多く、今でも家族のように思える人間関係が続いている。

マレーシア関連 著書

 『住まいと暮らしからみる多民族社会マレーシア』
(南船北馬舎/2008)

『マレーシアにおける多民族混住の構図 生活空間にみる民族共存のダイナミズム』
(明石書店/2009)

『南方特別留学生ラザクの「戦後」:広島・マレーシア・ヒロシマ』
(南船北馬舎/2012)

『多民族〈共住〉のダイナミズム:マレーシアの社会開発と生活空間』
(昭和堂/2017)


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「マレーシアの暮らしと住まい」
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詳細:https://hatimalaysia.com/3557


取材・文/上原亜季 Aki Uehara
スケッチ(表紙含む)/宇高雄志 
協力/ 南船北馬舎

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