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WAU編集部が注目する マレーシア映画 2018年>>>現在 Malaysian Films from 2018 to current

マレーシアでヒットした作品、国内外の映画祭で賞を受賞した映画に注目。日本では、マレーシア映画に触れられる機会は国際映画祭が中心でしたが、ここ数年、オンラインの動画配信サイトで鑑賞できるマレーシア映画が増えてきています。

多くの注目作品が世に出た
2018年から2021年

マレーシアのFINAS(国立映画振興公社)歴代興行成績ランキングによると、2018年に公開されたホラー作品『Munafik2』、ホラーコメディ『Hantu Kak Limah』、ミリタリーアクション『PASKAL: The Movie』の3作品は、興行成績歴代上位3位にランクイン。2018年はヒット作が豊富で、多くの人が劇場での映画鑑賞を楽しんだ、映画業界が大いに盛り上がった年でした。
 興行収入は及ばなかったものの、闇社会のバイオレンスに恐怖心をあおられる犯罪スリラー『Fly by Night』は、ストーリー構成、役者の演技ともに完成度の高い作品でした。また、警察の汚職を描いた『One Two Jaga』(2018)、作品全体に静かな恐怖感が漂うホラー『Roh』(2019)は、マレーシア映画祭[※1]第30回、第31回でそれぞれ最優秀作品賞はじめ多くの賞を受賞し、マレーシア国内で高く評価。この2作品は動画配信サイト「Netflix」で世界各国に配信され、日本でも視聴することができます。そして、海外で高く評価されたのは、伝統武術シラットをテーマにしたアクション映画『Geran』(2019)。ニューヨーク・アジア映画祭で優秀なアクションシネマに贈られる、Daniel A. Craft賞を受賞し、米国では一般上映もされました。

 一方、エンタメ要素の強いアクションやホラー映画とは違った、物語性のある作品も見ごたえのあるものが公開されました。自閉症の兄とその弟の暮らしを描いた物語『Guang』(2018)、女優の道に挑みつつ自身と向き合う女性を描いた『Barbarian Invasion』(2020)。後者は、2000年代半ばの「マレーシア新潮[※2]」の中心的存在の一人であったタン・チュイムイが監督、主演を務めています。また、タイとの国境にあるマレーシアの村を舞台に、民間信仰やマレー、中国系の混成文化を背景とした『The Story of Southern Islet』(2021)など、深いテーマを扱った映画も注目したい作品です。

コロナ禍での映画業界の動き

 2020年にコロナ禍が始まり、同年3月以降は「活動制限令」によって映画撮影、劇場での映画上映がストップするなど、マレーシア映画界は大きな影響を受けました。しかし、2021年から経済回復計画の一環として、政府の助成を受けた映画人が新たな作品の撮影をスタート。また、さまざまな動画配信サイトでもオリジナル映画やドラマシリーズが制作されているとのこと。今後また2018年のような多数のヒット作品が世に出ることを期待しています。

※1 マレーシア映画祭 [Festival Filem Malaysia (FFM)]…1980年から毎年開催されている映画祭。映画界がもっとも注目するアカデミー賞のような祭典。
※2 マレーシア新潮 [Malaysia New Wave]…2000年代、低予算でデジタル映画製作が可能になり、アミール・ムハマド監督のデジタル長編映画を皮切りにマレーシアの若い映画人の作品が国際映画祭で注目を集めるようになった。この新潮流を牽引したのは故ヤスミン・アフマド監督。


人気を集める国産アニメ

 近年、国産のアニメシリーズが子供たちの心を掴んでいます。根強い人気を誇るのが国民的キャラクター、双子の男の子『Upin & Ipin』。邪悪な宇宙人から地球を守るために戦う『BoBoiboy』※。そして、未来都市でハイテクデバイスを使った秘密のスパイとなった少年と仲間たちの物語『Ejen Ali』は、マレーシア以外、約50カ国で放送された大人気のアニメシリーズです。
 長編アニメ映画として2019年に公開された『Upin & Ipin: Keris Siamang Tunggal』、『Boboiboy Movie 2』、『Ejen Ali the Movie』は、いずれも歴代興行成績ランキング10位以内に入るなど、アニメ作品の勢いは止まりません。
※Netflix Japanにて『BoBoiBoy』シリーズ配信中


日本で注目される
マレーシア人監督と作品

リム・カーワイ監督[Lim Kah Wai]
“シネマ・ドリフター(映画流れ者)”を自称し、日本、香港、バルカン半島などで作品を制作。旅をしながら映画を作るリム監督ならではの視点で社会を映し出す。『新世界の夜明け』(2011)、『恋するミナミ』(2013)に続き、大阪を舞台に、多国籍、多様な言語を話す人々の日常をパラレルワールドで描いた『COME & GO (カム・アンド・ゴー)』(2021)は、日本各地を巡回上映中。

エドモンド・ヨウ監督[Edmund Yeo]
オーストラリア、日本に留学経験があり、早稲田大学大学院時代から日本文学に着想を得た短編映画『手紙』『金魚』などを制作。社会問題にも切り込んだ長編デビュー作『破裂するドリアンの河の記憶』(2014)発表後、東京国際映画祭を含め、世界から注目を集める実力派監督に。日本で制作された最新作『ムーンライト・シャドウ』(2021)はNetflix Japanでも配信中。


PICK UP
MOVIEs
WAU編集部が厳選!

マレーシアで人気を誇るホラーやアクション映画に加え、ミリタリーもの、犯罪スリラー、テーマ性のある物語など、2018年以降、様々なジャンルの作品が話題を呼びました。日本でもいくつかの作品を鑑賞できます。

Munafik 2
『ムナフィク2』(2018)
監督:Syamsul Yusof
Netflix:Malaysia & Japan
悪魔、超常現象と宗教をテーマにしたホラー映画。2016年製作の『Munafik』に続く2作目。歴代興行成績1位。

Hantu Kak Limah
『ハントゥ・カッ・リマ』
(2018)
監督:Mamat Khalid
Netflix:Malaysia
亡くなったリマ姉さんの霊が村のあちこちに現れ、右往左往する村人たちをコメディータッチで描いた作品。ママッ・カリッド監督は2021年急逝。

PASKAL: The Movie
『PASKAL:マレーシア海軍特殊部隊』(2018)
監督:Adrian Teh
Netflix:Malaysia & Japan
マレーシア海軍の特殊作戦部隊「PASKAL」。海賊によるハイジャックを阻止するための危険な任務を描く、実話を元にした軍事アクション。

One Two Jaga
『それぞれの正義(十字路)』
(2018)
監督:Namron
Netflix:Malaysia & Japan
正義を貫こうとする警官と汚職に手を染める警官、搾取される外国人労働者を描く意欲作。第30回マレーシア映画祭にて最優秀作品賞、監督賞など多数受賞。

Fly By Night
『フライ・バイ・ナイト』(2018)
監督:Zahir Oma
Netflix:Malaysia
裕福な乗客を狙い恐喝を企てる兄弟を含む4人のタクシー運転手。弟が別の犯罪に手を染めたことから闇組織と警察に追われ、事態が悪化していく犯罪スリラー。

Roh
『ロー』(2019)
監督:Emir Ezwa
Netflix:Malaysia & Japan
人里離れた山で暮らす母と姉弟の3人家族。謎の少女が現れたのをきっかけに、奇妙な現象が起こり出す。第31回マレーシア映画祭にて最優秀作品賞など6部門受賞。

Geran
『ゲラン』(2019)
監督:Areel Abu Bakar
MUBI:Malaysia
伝統武術「シラット」格闘家の3人兄弟。犯罪組織から父親の土地の権利を奪い返すために戦うアクション映画。ニューヨーク・アジア映画祭にてDaniel A. Craft賞を受賞。

Guang
『グアン/光』(2018)
監督:Quek Shio Chuan
自閉症の兄と、その弟の暮らしを描いた物語。弟に仕事を探すよう促されるが、グラスを集めるばかりの兄。実は音楽的才能を秘めていた。アジアフォーカス・福岡国際映画祭2018にて熊本市賞を受賞。

Barbarian Invasion
『バーバリアン・
インベージョン』(2020)
監督:Tan Chui Mui
元女優が離婚後に、武術を扱う主役として撮影現場に戻るチャンスを得るが…。Pete Teoや Bront Palaraeなどベテラン俳優が出演。上海国際映画祭で審査員賞を受賞。

The Story of Southern Islet
『南巫』(2021)
監督:Keat Aun Chong
タイとの国境の村を舞台に、病の夫を助けるため、治療法を探し求める妻が超自然的な現象と出会っていく物語。台湾の金馬奨で最優秀新人監督賞受賞。


マレーシア映画を知るための書籍とDVD

『躍動する東南アジア映画
多文化・越境・連帯』
石坂健治・夏目深雪 編著
国際交流基金アジアセンター 編集協力
(論創社/2019)
東南アジア映画の巨匠たちの特集のほか、各国の映画史、活躍する監督とその作品に焦点をあて、東南アジアの文化、社会情勢を映画から読み解くエッセンスが凝縮された一冊。

『マレーシア映画の母
ヤスミン・アフマドの世界』
山本博之 編著
(英明企画編集/2019)
ヤスミン監督の長編全6作、短編1作を社会的背景も踏まえて、多角的に考察。ヤスミン・ワールドを支え、遺志を継ぐ映画人の言葉や資料も貴重なガイド。

“Malaysian Cinema in a Bottle:
A Century (and a bit more) of Wayang”
Hassan Abd Muthalib 著
(Merpati Jingga, 2013)

マレーシアにおける映画の始まりから2000年以降の多言語化、多様化するマレーシア映画まで年代順に、各時代の作品を社会文化的・政治的背景と共に紐とく。

※現在、在庫切れのため入手不可

DVD

『タレンタイム 〜優しい歌〜』
【原題】Talentime(2019)
【監督】ヤスミン・アフマド
【発売元】ムヴィオラ
ある高校を舞台に、民族や宗教、家庭環境が異なる学生たちの交わりを通して、恋、葛藤、悲しみ、青春時代のさまざまな感情を描き出した作品。


取材・文/上原亜季 Aki Uehara
取材協力/A. Samad Hassan 

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