映画FILM

銀幕の精神#16 ある「マレーシア家族」の世界

“Spilt  Gravy  Ke  Mana  Tumpahnya  Kuah”

Jit Murad(右)と人気コメディアン Harith Iskanderが演じる死の天使

 本作は、舞台監督兼俳優のザヒム・アルバクリの映画監督デビュー作で、ブラックコメディです。タイトルは、親の特性は子供に遺伝することを意味するマレーの古い諺“Ke mana tumpah kuah, kalau tidak ke nasi”に由来します。本作は、劇作家、俳優として活躍したジット・ムラドの同名演劇作品がベースとなっています。

本作は、今年6月9日にマレーシアの劇場にて公開予定。

 死の天使に夕食後に死ぬことを告げられた父親は、亡くなる前に疎遠になっている5人の子供たちと対立関係を解消しようとします。宗教心の強いザック、父親に人生を台無しにされたと考えているダルウィス、同性愛者のフスニ、考える前に発言してしまうカルソム、父親の言葉を信じ込むザイトゥン。彼らは全員母親が違い、強い個性をもつため、それぞれに父親との確執があるのです。

 昨年、政府は、マレーシアが多様な文化や宗教が共存する多民族国家でありながら、国民が同一民族であるかのような、「Keluarga Malaysia(マレーシア家族)」という政策を打ち出しました。しかし、この映画の登場人物は、大学の講師から麻薬の売人まで多様です。「Golden Rain and Hailstones」や「The Storyteller」など、古典ともいえる演劇作品を手がけたジットは、マレーシア史上最悪の民族衝突事件「5月13日事件」の暗い歴史の描き方を含め、様々なタブーをしなやかに描いてきました。機能不全に陥っているような人々も大家族の一員であることを訴えていた彼は、残念ながら今年2月に急逝しました。私たちは“理想的な家族”ではないかもしれません。でも、彼の物語は、多様な立場を持ちながらも、思いやりのある心優しい人物を描くことでそれを実現していたのです。

父親役のベテラン俳優 Rahim Razali

文/A・サマッド・ハッサン A Samad Hassan
翻訳/上原亜季 Aki Uehara


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