風習文化

熱帯林に住む先住民の暮らしを知る

熱帯林で暮らす狩猟採集民バテッ、スマッ・ブリ

マレー半島に暮らす先住民「オラン・アスリ」には、暮らしも文化も、言語も異なる18の民族が含まれます。なかでも、タマンネガラ国立公園とその周辺のクアラ・コ(Kuala Koh)と、スンガイ・ブルア(Sungai Berua)の周辺で暮らすオラン・アスリ、バテッ(Batek)とスマッ・ブリ(Semaq Beri)の人びとの生活をとらえた写真展が東京で開催されます。

バテッの人びとは、雨期が明けるとタマン・ネガラ内のルビル川 (Sg Lebir) 上流の森へ移動し、スマッ・ブリは東南アジア最大の人工湖、ケニル湖 (Tasik Kenyir)の島へ移動して過ごします。森の中を移動しながら果実やキノコなどを採取し、吹き矢で獲物を捕らえて暮らす彼らの自然体の姿を知ることができる写真展です。

オレンジ色の美しい花飾りでおめかしした女の子に、見慣れない果実をたわわに実らせた木の枝を手にする少年。筏で川を移動する女性の姿や、小舟で生活する人びとなど、これまで私が見てきたマレーシアとは違った魅力を放つ写真ばかりです。

政府によって設立された村(保留地)に定住の家があっても、ドリアンの季節にはドリアンの木々の周辺に移動して暮らしたり。特に男性は、お金を稼ぐためにツアーガイドの仕事をしたり、ラタン(籐)を採ったりするために村を離れることも多いといいます。

今回の写真展の企画者である河合文さんは、大学院生時代に環境の認識と動植物の利用やその知識などに関心をもち、マレー半島のクアラ・コを訪問。バテッの人々と出会い、2010年から2012年8月まで約2年間、彼らと生活を共にするなど、現在まで10年以上にわたり研究を続けています。

果物の季節には、バテッの家族と一緒に森の中を移動し、朝起きたら薪でお茶を沸かして、ゆっくり過ごしてお腹が空いたら森で食糧を採る。そんな生活を経験したからこそ見えてきた世界を知ってほしい、と語る河合さん。

「オラン・アスリというと、イメージが先行し、ものめずらしく、気を引くような画像や映像、“物語”がメディアにあふれていると感じ、実際の人びとの様子や暮らしを伝える必要があると考えました。狩猟採集民というと、別世界の人びとのように感じたりしますが、実は、同じ地球に暮らす人びとで彼らの生活も日本と繋がっていたりします。生活様式は日本と異なりますが、こんな生き方もあるということを感じてほしい」と、フィールドで出会った写真家Domeさんの作品を紹介する写真展を企画しました。

日本とのつながりとは、具体的にはマレーシア全土で広がるプランテーションで採れたパーム油が日本でもさまざまな食品に含まれていたり、日本でも重用されている東南アジアが産地の貴重な香木「沈香」を彼らが採取していたりします。逆に、日本の「味の素」や船外機のYAMAHA、バイクのHONDAなどはオラン・アスリの人びとの生活にも浸透しているとのこと。急に身近に感じられてきました。

「プランテーションの拡大などによって、移動をともなう生活を続けられる森は減少しています。この写真展を通じて彼らの生活がひとつの「生き方」として認められるきっかけになったら」との願いも込められています。

今回の写真展の特徴の一つは、バテッとスマブリの人びとの暮らしを詳しく紹介したサイトページに、会場を訪れることでアクセスできる仕掛けです。ぜひ、この機会にバテッとスマブリの世界に触れてみてください。


【会場】ピクトリコショップ&ギャラリー
   (両国駅より徒歩約3分 東誠ビル5F)会場サイトはこちら

最終日(28日)14:00~15:00
会場にてスモールトーク(参加申込不要・無料)
[スピーカー]Dome(写真家、Suzairi Zakaria)
   河合文(人類学者、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

ウェブサイト: https://www.batek-semaqberi.com/


【プロフィール】

作家) Dome(写真家)

1976年マレーシア・クアラトレンガヌ生まれ。1996年より写真の世界に入る。風景写真をはじめとし、2009年からはオラン・アスリのバテッやスマッ・ブリなど先住民の日常生活を撮影。バテッについては、ナショナル・ジオグラフィック、Canal+、RTMなどのメディアチームと共同でドキュメンタリー番組を制作。また国内外の写真コンテストで数々の賞を受賞。マレーシアの写真雑誌Fotografikaのレギュラーライターを務める。現在の新たな関心は、旅行写真、特にアジア諸国での少数民族に焦点を当てた写真など。

Website: digitaldome

企画) 河合文(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

人類学者。主な研究テーマは人と環境の関係、狩猟採集民​研究など。主な著書に『川筋の遊動民バテッ:マレー半島の熱帯林を生きる狩猟採集民』(京都大学学術出版会、2021)がある。


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