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まるで本物! 万博マレーシア館の“食品サンプル”を専門家視点で解説

開催中の大阪・関西万博のマレーシア・パビリオン。当初予想していた期間中の総来場者数150万人をすでに突破したほどの人気ぶりで、なかでも話題なのが、マレーシア料理の食品サンプル。多様な食文化を表現した展示で、並んでいる料理は全55種。まるで“食べられない屋台街”のような食欲をそそる展示について、注目ポイントを解説します。

見ているだけで、お腹がなる

ナシレマッ、サテー、チキンライス(ナシアヤム)、ラクサ。顔を近づければ、まるで香りが漂ってきそうなほど精巧に作られた食品サンプル。眺めていたら、味の記憶もよみがえってきて、お腹がぐぅとなりました。

サンプルとは思えない見事な再現度。右はナシレマッ、左はサテー
マレーシアのおやつの食品サンプルがショーケースに並んでいる。この陳列方法も、現地の店と同じ

どこまでそっくりなのか。リアル度チェック

葉っぱの焦げ具合、麺や海老の焼き色、野菜のツヤ感やハリ。現地のリアルな料理写真と比較してみると、その再現度の高さは一目瞭然。

・ 「オタオタ」(魚のすり身を葉に包んで焼いたもの)

食品サンプル
ジョホールで食べたオタオタ。すり身の赤色がサンプルとそっくり。ちなみに、赤色は唐辛子によるものだが、辛くはない
ジョホールのオタオタ専門店の焼き場。炭火で焼かれ、このような焼き台を使うと、線上に焦げた色がつく。ここもサンプルで再現されている

・チャークイティオ(幅広の米麺を炒めたもの)

食品サンプル
ペナンで食べたもの。海老のサイズ感とぷりっとした見た目、中華ソーセージの断面のこんがり感が、サンプルで見事に表現されている
クアラルンプールで食べたもの。バナナの葉に盛り付けられていのが、サンプルと同じ

・ナシレマッ(ココナッツライスとサンバルのコンビ)

食品サンプル
コタキナバルで食べたもの。そっくり過ぎて、どっちが食品サンプルかわからないほど

もうひとつ、SNSで話題になった“食べかけ”のナシレマッ。

・ナシレマッ(持ち帰り用、食べかけバージョン)

食品サンプル

持ち帰り用のナシレマッの包みを開いて食べているところが、食品サンプルで表現されています。

注目ポイントは、油紙とバナナの葉の2枚を使ったダブル包みなこと。現地でよくみかけるタイプです。赤いのはサンバルソースで、ご飯全体にかかっているだけでなく、油紙の上側にちょっと垂れています(リアルすぎる!)。また、ご飯の中央、キュウリの下に小さなバナナの葉があるのもすごい。これは、キュウリとサンバルが混ざらないように置かれた仕切りで、たしかに現地にもあり。そして、白いスプーンのぺらぺらで軽い感じも、使い捨てのカトラリー感が出ていていい。

現地の写真はこちら。とても近いですよね。

イポーで食べたもの。これは油紙ではなく新聞紙が使用されているが、構成は同じ
イポーで食べたもので、三角ごはんをほぐしたところ。ちなみに、サンプルのようにちょっとずつご飯を崩して食べるのではなく、先にぜんぶ平らにほぐすのは私流

なぜこの料理が展示されているのか

さて、ここからは、私の妄想も含めて、展示内容を俯瞰して考察してみます。

展示されていた料理は全55種。多いといえば多いのですが、マレーシア料理はもっともっとあります。なぜ、この55種なのか。

まず、展示は地域ごとに分かれていました。
・南部地域(ネグリスンビラン、マラッカ、ジョホール)
・東部地域(パハン、トレンガヌ、クランタン)
・北部地域(ペルリス、ケダ、ペナン、ペラ)
・ボルネオ(サバ、サラワク)

この4つの地域別に加えて
・名物料理
のコーナーがあり、ぜんぶで5つ。

「名物料理」のコーナーは、マレーシア人なら誰もが知っている料理であり、ほぼすべてがマレーシア全土で食べられるものが選ばれていました。そのため「マレーシアに旅をしたら、ぜひ食べてね」という、マレーシア・パビリオンからのメッセージでは、と感じます。

名物料理のコーナーにあった20種の料理名一覧

・Kuih Keria クエケリア
・Kuih Koci クエコチ
・Bahulu バフル
・Kuih Bakul クエバクル(Nian Gao)中国系
・Putu Mayam プトゥマヤム
・Keropok クロポ
・Kari Papカレーパフ 
・Buah Melaka or Ondeh-Ondeh オンデオンデ
・Laddu ラドゥ
・Kuih Bakar クエバカール
・Kuih Seri Muka クエスリムカ
・Putu Mayam プトゥマヤム
・Nasi Lemak ナシレマ
・Roti Canai ロティチャナイ
・Ketupat Lemakang and Rendang クトゥパット、ルマン、ルンダン
・Sate サテ
・Mee Kolok ミーコロ
・Kuih Cinchinクエチンチン
・Nasi ayam ナシアヤム

この一覧をみて気づいたのは、全20種のうち、12種がおやつ(甘いもの、スナック)だ、ということ。おやつは、食事とは別に小腹が空いたら食べるもので、マレーシアでは、ときに軽い食事としても活用されています。想像してみてください。もし、私たちが名物の和食を20種ピックアップしよう、と考えたとき、半分以上におやつを選ぶ、ということはあまり無いような。つまり、マレーシア人にとっておやつは、日本人の私たちが考えるよりもずっと大事なもので、食生活に無くてはならない存在のようです。

次に、地域の分類に注目です。
・南部地域(ネグリ・スンビラン、マラッカ、ジョホール)
・東部地域(パハン、トレンガヌ、クランタン)
・北部地域(ペルリス、ケダ、ペナン、ペラ)
・ボルネオ(サバ、サラワク)

よくみると、首都クアラルンプールと、その近郊のセランゴールが入っていません。

地域別コーナーは、その土地ならではの料理が展示されていたので、この2つの地区にはローカルの料理があまりない、と考えられているのかな。ただ、セランゴールには名物料理「バクテー」があるので、それは入れて欲しかったな、とは感じました。

全55種は、カレー、煮込み、肉料理、野菜料理、ご飯もの、また調味料に発酵食品というように多岐に渡っていました。これは、多角的な視点でマレーシア料理を知ってもらいたい、という想い。そして、食の多様性こそ、マレーシアの多文化性を象徴するもの、とあらためて実感した次第。いろんな味があって、いろんな味があるから、それがマレーシアなのです。


マレーシア料理オタク向け、料理名メモ

さて、この章は、マレーシア好き&料理好きのみなさんに向けた食品サンプルの料理名メモです。興味がある方だけどうぞ。

カッコ内は、食べてみたい人に向けて、情報を追記してみました。わからないモノは不明にしています。マレーシアを旅したことがある人は、食べた料理があるか、チェックしてみてくださいね。

◆マレーシア南部地域 Southern Region
・ジョホール
Laksa Johor ラクサ・ジョホール(マレー料理、麺、スパゲティのラクサ)
Botok Botok Ikan ボトボト・イカン(マレー料理、魚、ハーブ蒸し)
Otak Otak オタオタ(マレー料理、ニョニャ料理、魚、すり身)

・マラッカ
Inche Kabin インチ・ケビン(ニョニャ料理、鶏、唐揚げ)
Kari Kapitan カリー・カピタン (ニョニャ料理、カレー、ココナッツ風味)
Cencaluk チンチャロ(マレー料理、ニョニャ料理、調味料、発酵アミ海老)
Cencaluk Goreng チンチャロ・ゴレン(マレー料理、不明)
Masak Assam Pedas マサッ・アッサムプダス(マレー料理、魚、スープ)

・ネグリ・スンビラン
Gulai Lemak Lada Padi  グライ・レマ・ラダパディ(マレー料理、煮込み、唐辛子とココナッツミルク)
※展示右下、バッドに入った具だくさんカレーのようなものの料理名はメモ漏れ

◆Eastern Region 東部地域
・パハン
Gulai Asam Rom グ ライ・アッサムロム(不明)
Gulai Tempoyak Ikan Patin グライ・トンポヤ・イカン・パティン(マレー料理、煮込み、なまずのドリアン味)

・クランタン / トレンガヌ
Budu ブドゥ(マレー料理、調味料、発酵魚)
Sotong Santan Ketupat? ソトン・サンタン・クトゥパ?(マレー料理、ご飯もの、イカ飯)
Solok Lada ソロラダ(マレー料理、おかず、唐辛子と魚のすり身コンビ)
Ikan Rebus Kering  イカン・ルブス・クリン(マレー料理、味は不明)
Sata サタ(マレー料理、おかず、魚のすり身)
Nasi Tumpang ナシ・トゥンパン(マレー料理、ご飯もの、細長い三角状)
Nasi Dagang ナシダガン(マレー料理、ご飯とおかずのセット)

◆北部料理 Nothern Region
・ケダ
Tempoyak トンポヤ(マレー料理&先住民、調味料、発酵ドリアン)
Pekasam プカサン(マレー料理、魚、炊いた米で発酵させたもの)

・ペナン
Char Kway Teow Pulau Pinang チャークイティオプラウペナン (中国系、麺、炒めたもの)
Nasi Ulam ナシウラム(ニョニャ料理、ご飯もの、ハーブ混ぜ)
Laksa Asam ラクサ・アッサム(マレー料理、中国系、ニョニャ料理、麺、魚だしのラクサ)
Rojak ロジャ(インド系、おやつ、厚揚げや天ぷらを混ぜたもの)

・下記不明、ペルリス?
Sup Belut スプベルッ(マレー料理、味は不明)
La Tiang  ラ・ティアン(不明)

◆ボルネオ地域(サバ、サラワク)
Jeruk Tumis ジュルッ・トゥミス(不明)
Umai / Hinava ウマイ/ヒナヴァ(先住民、おかず、刺身を柑橘でしめたもの)
Ambyat アンブヤット(先住民、主食、サゴヤシの澱粉をねったもの)
Sayur Midin Goreng サユール・ミディンゴレン(先住民、野菜、山菜の炒めもの)
Manok Pansoh マノパンソ(先住民、不明)
Sagu  サグゥ(マレー料理&先住民、おやつ、サゴヤシの澱粉を粉状に)
Mi Kolok ミーコロ(サラワク人、麺、汁無し麺)

◆名物料理

Kuih Keria クエケリア(マレー系、おやつ、イモのドーナツ炒めたもの)
Kuih Koci クエコチ(マレー系&ニョニャ、おやつ、もち)
Bahulu バフル(マレー系&ニョニャ、おやつ、ふかふかのスポンジ)
Kuih Bakul クエバクル(Nian Gao)(中国系、おやつ・祝い料理、もち米を甘くねったもの
Putu Mayam  プトゥマヤム(インド系、おやつ・主食、そうめん状の見た目)
Keropok クロポ(全民族、おやつ、魚チップス)
Kari Pap カレーパフ(全民族、おやつ、カレー味のじゃがいも入り)
Buah Melaka or Ondeh-Ondeh オンデオンデ(ニョニャ料理、おやつ、ココナッツまぶし餅)
Laddu ラドゥ(インド系、おやつ、甘いスパイスの香り)
Kuih Bakar クエバカール(マレー系、おやつ、パンダンカスタードケーキ)
Kuih Seri Muka クエスリムカ(マレー系、おやつ、もち米とカスタードの2層)
Nasi Lemak ナシレマ(全民族、ご飯、ココナッツライスとサンバル)
Roti Canai ロティチャナイ(インド系、パン、カレーと薄焼きパン)
Ketupat Lemakang and Rendang クトゥパット、ルマン、ルンダン(マレー系、ご飯)
Sate サテ(マレー系、肉、串焼き)
Mee Kolok ミーコロ(サラワク、麺、汁無し)
Kuih Cinchin クエチンチン(サバ、おやつ、かりんとう味)
Nasi ayam ナシアヤム(中国系、ご飯、チキンとご飯のコンビ)


最後に、見た目100点の食品サンプルで思い出したこと

マラッカのチキンライスの展示がありました。食品サンプルのご飯は丸いボール型で、そうそう、これが特徴です。でもこれ、丸い状態なのは初めだけ。食べるときはスプーンの裏でやさしく押して、平らにほぐして食べるんです。そこにチリソースをちょっと垂らし、チキンと一緒にほおばる。あぁおいしかったな~。

ペナンのコーナーにあったアッサムラクサ。この料理は海老の調味料の匂いがけっこう強烈。それが、風に吹かれながら屋台で食べると、匂いは風にのってふわっと飛んでいき、口のなかにはミントやショウガの花の香りがさわやかさが残ります。匂いが気にならなくなる、というより、その匂いが、おいしさを予兆させる心を躍らせる前座のような存在で、その強烈な匂いが好きになるのです。

見ためが本物そっくりが故に、脳内に味の記憶がどんどんよみがえってきます。この味に、あの味に。知らない味も食べてみたい。そのためにまたマレーシアを旅しよう。そう思わせてくれた食品サンプルの展示でした。

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