独自の切り口でマレーシアと日本の2つの土地の感性をハックし、アートとして昇華させる連載企画。第1弾はマレーシア華人の「紙銭」文化と、それを使って制作した現代アート作品の紹介から。

華人の伝統行事のたびに紙銭を燃やす光景(写真:TANJC)

華人の伝統行事のたびに紙銭を燃やす光景(写真:TANJC) マレーシア華人が寺院や道端でキャンプファイヤーのように紙の造形物を盛大に燃やす光景をマレーシアで目撃したことはありますか?紙幣を模った紙片から、色とりどりの服、牛馬、一部の骨組みは竹でできていますが、豪邸まですべてが紙で作られています。「現世で果たせなかった豊かな暮らしをせめてあの世で」という願いが込められた調度品の数々は、やがて炎の中で、故人と同じく灰と化して姿を消し、別の世界に届くというわけです。この道教的な世界観の中で、「紙銭」はいわば二つの世界を媒介する役割を果たしています。  想像力で補完するこの伝統行事は、1960年代に世界的に広がった「コンセプチュアルアート」の概念に似ていることから、私は、2001年から紙銭を使って「存在のリアリティー」をテーマにした作品をシリーズ化し、アート展に出品しています。

『めいど・イン・ジャパン』「hope -社会・地域とアート-」展@名古屋市民ギャラリー矢田

『めいど・イン・ジャパン』「hope -社会・地域とアート-」展@名古屋市民ギャラリー矢田

2008年には、名古屋「hope -社会・地域とアート-」展にて、冥土への配送サービスに見立てた参加型インスタレーション『めいど・イン・ジャパン』を発表しました。荷物伝票の宛先と送りたい内容物を自由に書けるというアート作品です。来場者は人生を振り返り、自分が執着するものが何かを気づかされたのか、感慨深げにみえました。

『神戸中央信託地蔵』@神戸ファッション美術館 KOBE ART COLLECTION 2009

『神戸中央信託地蔵』@神戸ファッション美術館 KOBE ART COLLECTION 2009 神戸ファッション美術館の「KOBE ART COLLECTION 2009」には、紙銭を貼り合わせた大小16体の『神戸中央信託地蔵』を建築家の長野良亮とコラボレーションして出品しました。願いが込められた絵馬のような自撮ポラロイド写真を、見ず知らずの体験者と交換して持ち帰ることができるインタラクティブな仕掛けが、観光スポットのように人気を博しました。


『神戸中央信託地蔵』@神戸ファッション美術館 KOBE ART COLLECTION 2009日本人が慣れ親しむ宅配サービス、地蔵、絵馬やおみくじなどの様式をつかい、異文化を織り交ぜる手法はある種のグロースハックであり、日馬両方の文化に触れて相互に理解を深める狙いがあります。今後も両国を媒介するようなアートをお届けしたいと思います。


TANJC文・撮影 TANJC (陳維錚。デザイナー、現代アート作家。<WAU>創刊号からデザイン担当。76年生まれ、96年来日。山形の東北芸術工科大学映像専攻と京都精華大学芸術学博士課程出身。京都を拠点に国内外にてメディアアートを中心にクリエイティブ活動中。)


[この記事はWAU No.11(2017年3月号)の記事から転載しています。]