タイガー・ストライプス:リアリズムと現実の交差




2023年に公開されたマレーシア映画『Tiger Stripes』は、アマンダ・ネル・ユー監督による初の長編作品です。これまでこのコラムで紹介してきた他の監督のデビュー作とは異なり、“ボディホラー”である本作は、公開時に高い評価を受ける一方で、物議も醸した作品として注目を集めました。

物語は、宗教学校に通う12歳の主人公ザファン(ザフリーン・ザイリザル役)の生活を描いています。(マレーシアでは学校が国民学校、中国系学校、インド系学校、イスラム学校(宗教学校)に分かれています。)ザファンは学校の人気者で、TikTokでダンス動画を投稿することを楽しみ、卒業後は名門寄宿学校に進学することを夢見ています。

しかし、初めて月経を迎えたことで、彼女の周囲の世界が大きく変わり始めます。母親は彼女を「穢れ」と呼び、親友のファラ(ディーナ・エズラル役)とマリアム(ピカ役)までもが激しく彼女の陰口を言い始め、クラスやコミュニティ全体がザファンを非難するようになります。初潮がまるで災難であるかのように扱われてしまうのです。

初潮によって変化するのはザファンを取り巻く世界、社会の反応だけではありません。彼女自身の身体も、ゆっくりと「虎のような存在」へと変貌していきます。マレーの文化では、女性が「虎の守護霊(サカ)」を受け継ぐことがあり、それは家系の女性に代々伝わるとされています。自然の存在が限られたクアラルンプールのような大都市において、サカは“自然が現代社会とつながろうとする力”として語られてきました。
実は、筆者の親族も女系に虎のサカを受け継いでいます。私の祖母が亡くなった際、何人かの子どもが「祖母の家の横に二階建ての建物ほどの背丈の虎を見た」という話が残っています。筆者の母は、そのサカが妹(叔母)に受け継がれるのではないかと心配したといいます。叔母には娘がおらず息子しかいないため、それも問題になるかもしれないと考えたのです。
話を本作に戻しましょう。映画の中でザファンは、まず身体に発疹や斑点が現れ、排せつのコントロールを失い、やがて爪が伸び、生きた鶏を食べるようになります。これは、ザファンが向き合わなければならない“異質な世界”の象徴として描かれています。彼女は家を出てジャングルで暮らしたいと訴えますが、家族は彼女をベッドに縛りつけます。

本作の独特なマジックリアリズムは国際映画祭で高く評価され、2023年、第76回カンヌ国際映画祭批評家週間にて長編部門のグランプリを受賞しました。これはマレーシア、そして東南アジアの映画として初の快挙です。その後もBFIロンドン映画祭、ロサンゼルスの映画祭「AFI Fest」など、数多くの映画祭に出品されました。
一方、母国マレーシアでは映画検閲委員会(LPF)によって大幅なカットが施され、アマンダ監督は「これは自分が母国の観客に届けたかったバージョンではない」と公式声明を出しています。国内ではさまざまな声がありましたが、その後、無修正版がマレーシアのアカデミー賞公式出品作品に選ばれました。
『タイガー・ストライプスTiger Stripes』は、2026年8月1日から日本でも公開されます。
イスラム教の女子学校に通う12歳の少女、ザファン。伝統的な規範に縛られながらも、時に羽目を外した言動で、無邪気に日々の学校生活を送っていた。 ある日、ザファンは友人たちの中で誰よりも早く初潮を迎える。しかしそれをきっかけとして、周囲からは遠ざけられ、孤立を深めていってしまう。さらに戸惑う彼女に追い打ちをかけるように、身体は異様な姿へと変貌を遂げていくのだった。周囲の大人たちはザファンの暴走を抑え込もうとするものの、彼女の狂気は増大の一途をたどっていく。 やがて彼女は自分自身を受け入れ、そのすべてを解放する──
【STAFF・CAST】
監督:アマンダ・ネル・ユー 出演:ザフリーン・ザイリザル、ディーナ・エズラル、ピカ
2023 年/マレーシア・台湾・シンガポール・フランス・ドイツ・オランダ・インドネシア・カタール /カラー/ビスタ/5.1ch/95分/G/マレー語/原題:Tiger Stripes/日本語字幕:関 千幸/配給: JIGGY FILMS
【公式サイト】 タイガー・ストライプス