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— 本作では、外国からやってきたのではなく、マレーシアで生まれた主人公の2人、兄・アバンと弟・アディが ID を取得できずに苦しい生活を強いられているのですよね。
— 彼らは負のスパイラルから抜け出せなくなるわけですね。子供は親を選ぶことができませんから、制度的な問題が大きいと感じます。とくにアバンのように、火事で出生証明書が焼け、両親も亡くなっていると自身の出自を証明することが難しく、とても厳しい状況ですね。
— プドゥ地区は、昔から混沌としたエリアですが、クアラルンプールの中心街にあり、日本人も多く訪れる場所です。劇中では、街の新しいシンボル「Merdeka 118」などの高層ビルが立ち並ぶ様子も映し出され、多様な背景を持った人たちが過酷な環境で暮らすエリアとの格差が浮き彫りになっています。
Jackさんは、この映画に出演する前、プドゥ地区には外国人労働者や移民など、さまざまな事情を抱えた人たちが厳しい環境の中で生活を築いている状況を知っていましたか?
— この映画に関わって、プドゥの印象が変わりましたか?
生と死を分かつ「食」
日常生活を映し出す食事シーン
— 食べ物や食事のシーンが多く描かれていたのも印象的でした。食事をする姿や食べている物には、その人物のキャラクターが表れます。「食」もこの映画のキーだったように感じました。
— アバンとアディを深く想い、愛情をもって母親のような存在として血縁ではない兄弟を見守ってきたトランスジェンダーのマニーと兄弟が食卓を囲むシーンや料理をするシーンは、「疑似家族」の大切な時間を映し出していました。
— また、物語終盤、刑務所でアバンが「食べること」を拒否するというのは、彼の「生」への抵抗だったと思います。
あふれ出した魂の叫び
— アバンが収監されてから、アディは兄のために弁護士を探し回りますが、結局見つけることができません。もしも弁護士を立てることができていたら状況は変わったと思いますか。
— 刑務所の刑務官も「君が悪い人間ではないことはわかっているよ」と言っていたように、弁護士が見つかって、受刑者に更生の余地があると判断された場合、救われる可能性はあったのだろうかと考えてしまいます。
— 刑務所で教誨師の僧侶がアバンと対面するシーンがありました。マレーシアの刑務所では教誨師の存在は一般的ですか?
— アバンはずっと自身の境遇を受け入れ懸命に生き、弟を守ってきましたが、教誨師の言葉を受けて初めて感情を爆発させます。彼の魂の叫びに強く心を打たれました。監督の想いが詰まったシーンだったのではないですか?
取材: 上原亜季
公式ページ 『Brotherブラザー富都(プドゥ)のふたり』