伝統芸能

新しい影絵人形「スター・ウォーズ」から伝統芸能の継承へ

Fusion Wayang Kulit 創設者/デザイナー、Tintoy Chuo ティントイ・チュオ氏 インタビュー

マレーシアではおもにクランタン州やケダ州、ジョホール州などでスタイルの異なる影絵人形芝居ワヤンクリッが演じられてきましたが、上演の機会が限られるため、特に若い世代ではあまりこの芸能に触れたことがない人が多いようです。伝統芸能として、現在も現役で活動を続ける人形師(ダラン)や音楽を演奏する楽師、人形を作る職人の数はとても限られています。「スター・ウォーズ」や「ウルトラマン」などを題材にした新しい影絵人形を通して、伝統的なワヤンクリッをより多くの人に知ってほしいと、新風を吹き込むティントイ・チュオさんに、どのような人形を、どのような想いで作っているのか聞きました。

— いつからフュージョンの人形を作り始めたのですか?きっかけを教えてください。

私はデザイナーとして仕事をしていますが、2012年に知人からアート展に誘われました。そこで、世界的に知られるスター・ウォーズのキャラクターをマレーシアの伝統芸能の一つであるワヤンクリッの人形として表現することを思いつき、「ルーク・スカイウォーカー」と「ダース・ベイダー」をデザインした2体の人形を作り出展しました。これが「フュージョン・ワヤンクリッ」の始まりです。

Fusion Wayang Kulit の “ダース・ベイダー” 人形 (Photo courtesy of Tintoy Chuo)

— もともと伝統的なワヤンクリッに興味があったのですか?

いいえ。実は、ほとんどこの芸能について知りませんでした。以前、一度、クアラルンプールでワヤンクリッの上演を見かけたことがありました。道化のやりとりが面白く、興味を惹かれたのを覚えています。

— 現在は、ティントイさんのマスターとしてPak Dain パッ・ダインと共に活動をされていますが、 どのように活動が始まったのですか。

実は、2012年のアート展に出展していたスター・ウォーズの影絵人形をパッ・ダインが見に来たのです。視線は鋭く、口数は少なく、まさに品定め (*Tintoyさんは “inspection”と表現)にやってきた、という感じでした。このチャイニーズの若者はクランタンの伝統的なワヤンクリッの人形を新しくデザインして、一体何をしようとしているのか、と思っていたのでしょう。そこでは挨拶を交わした程度でした。

その後、この影絵人形を使った表現をもう少し模索してみたいと思いましたが、そのためには伝統的なワヤン・クリッに詳しい実践者の協力が必要でした。クアラルンプールを拠点とする私は数カ月かけて、クランタンに暮らすパッ・ダインとメールや電話などを通じて少しずつ対話を重ねていき、新しいフュージョンの人形を作ることでワヤン・クリッの継承に貢献していきたい、というこちらの意図を理解してもらいました。伝統芸能の実践者は突然吹き込んでくる新風をすぐに受け入れてはくれません。とても慎重に、丁寧に関係を築き、事を進めなくてはなりませんでした。

— 新しい人形のデザインをパッ・ダインに確認してもらい伝統的な要素を残すとのことですが、具体的にどんな点ですか?

例えば、人形の姿勢やポーズ、体の傾き、そして手の形などです。伝統的な人形では、善悪のキャラクターによって手の向きやポーズが違っています。そのため、新しいキャラクターのデザイン画をもとにマスターにキャラクターの性格などを説明して、そのキャラクターにあった手の向きやポーズを教えてもらいます。

初めの頃は、人形の細かいところまであちこち直され、時間がかかりました。そのプロセスを通して、私は伝統的なワヤンクリッ・シアムの人形の特徴を理解してきました。10年経った今は、指摘されるところも減りました。

Fusion Wayang Kulit 人形の手 (Photo courtesy of Tintoy Chuo)

— 新しい人形は職人の方が作るのですか?素材は皮ですか?

ワヤンクリッの人形は伝統的に牛やヤギの皮から作られますが、最初にアート展のために作った人形は素材にボードを使い、レーザーカッターで加工しました。現在は、私がデザインをし、職人が皮を使用して人形を制作しています。人形には細かい彫りを施して装飾するのですが、コンピューターカッティングで加工すれば早くて、整然とした仕上がりになります。しかし、やはり人間の手で彫りを施した方がずっと味があります。一つひとつの穴は大小不揃いですが、光の当たり方で影に動きがでます。

— 人形を作る職人さんがいるのですね。

私たちのグループ(Fusion Wayang Kulit)には人形師、楽師、テクニカルスタッフのほか、人形作りの職人が3人います。若い彫り師もいます。彼らは、依頼があれば伝統的な人形も作ります。新しいキャラクターをデザインして、人形を作るということは、職人たちにも仕事を依頼できるということ。彼らのために仕事を生み出すことも大切なことです。

— フュージョン・ワヤンクリッの上演の機会について教えてください。

スター・ウォーズのフュージョン・ワヤンクリッの上演を依頼されることもありますが、結婚式やイベントでそれぞれの機会にあった内容の上演を頼まれることもあります。例えば、新郎新婦の出会いを描いた話とかね。私以外のメンバーはクランタンにいますので、上演の前に何度かクランタンを訪問して準備を進めます。

— スター・ウォーズのフュージョン・ワヤンクリッの上演について教えてください。

2013年に初めて上演をすることが決まってから、どんなキャラクターが必要なのか、どんなストーリー展開にするのか、パッ・ダインと検討しました。伝統的な物語とは全く違うので、まずはスター・ウォーズについてDVDで映画を観て研究してくれるようにパッ・ダインに頼みました。でも、マスターの頭は余計に混乱してしまったようです(笑)そこで、私が絵コンテを作ったりして新しい作品をみんなで作り上げるのに10カ月くらいかかったと思います。

まず、影絵人形芝居ですから大切なことは、ダラン(人形遣い)が人形を操って、それぞれのキャラクターの台詞を語ることです。その上で、ダランには出せないロボットの声などはコンピューターのボイスチェンジャーを使ったり、戦いのシーンなどは雰囲気を出すために伝統的な上演には用いられないプロジェクターやライティングなど、テクノロジーを採用します。

— 日本のアニメやキャラクターにも興味があるのですね。スター・ウォーズ以外の新しい人形もデザインしていますね。

私は、子供の頃からウルトラマン、仮面ライダー、マジンガーZなど、日本のアニメが大好きで、絵を描いていました。スター・ウォーズにこだわらず、最近はさまざまなキャラクターの人形もデザインしています。ウルトラマンの人形は、マレーシアのアニメ『Upin & Ipin (ウピンとイピン)』から登場した「ウルトラマン・リブット」の人形です。「仮面ライダー1号」の人形は、少し人形に工夫を凝らして「ライダーキック」ができるようになっているんですよ。

ただ、新しい影絵人形を作る上でこれらのキャラクターは何でもいいのです。大事なのは、あくまでも伝統的なワヤンクリッの要素を大切にし、この伝統芸能の存続につながることです。

Fusion Wayang Kulit の「ウルトラマン・リブット」人形 (Photo courtesy of Tintoy Chuo)

私にとってパッ・ダインの存在はとても大切です。彼は伝統的なワヤンクリッ・シアムの実践者ですから、この伝統芸能の大切な要素を理解しています。私は、新しい人形を作るにあたって、自由に、好き勝手にデザインをしてはいけないと思っています。それでは、この伝統芸能を壊してしまうことになりますから。伝統的な要素を大切に残し、敬意を払って、その上で新しい人形をデザインします。フュージョン・ワヤンクリッを継続する一つの目的は、この芸能を知らない人たち、特に若い世代がマレーシアの素晴らしい伝統芸能を知るきっかけを作ることです。スター・ウォーズやウルトラマンなどのキャラクターが大事なのではなく、伝統芸能であるワヤンクリッについて興味を持ってもらうことが大切なのです。そうすることで次世代にこの芸能を受け継いでいきたいと願っています。

海外から興味を持ってもらえるのはとても嬉しいことです。東京のトークでは、実際に人形をお見せしながら、フュージョンの人形とワヤンクリッ・シアム(クランタン)の特徴をご紹介したいと思います。

2023年7月9日(日)
マレーシア文化講座「マレーシアの影絵人形芝居とフュージョン・ワヤンクリッ」
ティントイ・チュオさんをゲストに迎え、実際の人形に触れながら、新しい影絵人形を通して伝統的なワヤンクリッについて知るトークセミナーを開催します!
トークの詳細はこちら: https://hatimalaysia.com/8519

7/9 トーク「マレーシアの影絵人形芝居とフュージョン・ワヤンクリッ」

 Tintoy Chuo ティントイ・チュオ
Fusion Wayang Kulit 創設者/デザイナー
新しい影絵人形制作に情熱を注ぐ、マレーシア出身のマルチアーティスト。Fusion Wayang Kulitの創設者であり、全ての人形のデザインとチームを統括、監督し、この伝統芸術をより多くの人々に広めることに尽力する。

FUSION WAYANG KULITは、2012年にTintoy ChuoとTake-Huatが伝統的なワヤン・クリッの人形師 Pak Dain 氏と共同で設立したマレーシアのグループです。スター・ウォーズ、DCスーパーヒーロー、日本のメカといったポップカルチャーやSFのアイコンと融合させ、伝統的な影絵人形芝居を継承することに注力。これまでにさまざまな賞を受賞し注目を集めています。

ウェブサイトにて多様な人形をご覧いただけます: https://www.fusionwayangkulit.com/ 

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