中国「漢王朝」の時代から雨乞い、厄払い、病気、事故などを回避するために演じられてきた歴史ある龍舞(ドラゴンダンス)。龍は、強さ、吉兆、幸運、天の加護など、神秘的なシンボルであり、中国系の文化では大切な存在。霊獣、神様として崇拝されています。 移民とともに世界各地の華僑・華人社会においてドラゴンダンスは継承されてきました。日本には14世紀頃に長崎に伝来。国の重要無形民俗文化財に指定されている「長崎くんち」の奉納踊りの一つ「龍踊り(じゃおどり)」として演じられています。 マレーシアには、18世紀後半に中国から伝わり、不運、病気にならないための重要な儀礼の一部として中国正月や寺院の祭事、イベント、新店舗の開店などで演じられ、継承されてきました。近年は、バティック布で龍を作ったり、LEDの電飾を使用するなど新しい要素を取り込み、また技や演技の美しさを競う競技としても演じられています。中国正月や中秋節には、パレードなどでドラゴンダンスを見ることができます。
ドラゴンダンス
龍は、国際基準では長さ18メートル、10人の舞い手によって操られるのが基本。全体をリードする「真珠の玉」を追いながら龍が舞います。龍の体につけられた長い棒を9人の舞い手が持ち、全員で連携しながら上下左右に棒を動かします。龍は円を描いたり、ジグザグに進行したり、中国文化で縁起の良い「8」の字でポーズを決めたり。舞い手は棒を動かしながら、足元に回ってくる龍の胴体を飛び越えるなど、激しく動き、龍が生きているかのように踊らせます。
伴奏に使われる楽器
伴奏に使用される楽器の基本は、中国の太鼓や銅羅、シンバルなどの伝統楽器(写真)。龍は音楽や打楽器のリズムに合わせて動くため、伴奏も重要な役割を担っています。マレーシアでは、伝統音楽ガムランの楽器も加わるなど、楽器編成はフレキシブル。音楽も伝統的なリズムパターンに西洋的なメロディーを合わせるなど、自由にアレンジされています。
光るルミナス・ドラゴン
夜間、照明を落としたステージで、舞い手は黒い衣装を着て、蛍光塗料を塗った龍の体にブラックライトを当て、龍だけが暗闇に浮かび上がるように演じる「夜光龍/ルミナス・ドラゴン」。競技会や夜のイベントで人気です。夜の野外パレードでは、LEDの電飾できらびやかに輝くドラゴンダンスも人々を惹きつけます。
インタビュー:ドラゴンダンス師範、クア・ベンチャイ
ドラゴンダンスに関わるようになったきっかけを教えてください。
7歳の頃、叔父が描いた龍の絵にとても惹かれ、僕は龍が大好きになりました。龍は力強く、美しく、中国文化の象徴です。ドラゴンダンスのパレードが通れば、駆け寄って見ていました。通常、龍の全長は18メートルですが、初めて見たパレードの龍は当時マレーシアで最長で135メートルもありました! 13歳の頃、中華校友会で活動に参加するようになり、1997年から教え始めたので、もう20年以上ドラゴンダンスに関わっていることになります。
現在は、マレーシア国内のほか、海外でも指導をされていますね。
ペナン島の3つの中学校と幼稚園、他の州でも三カ所で教えています。海外は、シンガポール、台湾、オーストラリア、タイなどで教えています。舞踊も教えますが、海外ではドラゴンダンスの伴奏に使われる楽器の演奏指導が多いです。
ドラゴンダンスは中国で発祥し、アジア諸国に広がったのですか?
もともと中国の福州の大工さんたちが自分たちでドラゴンを作り、始めた芸能でした。起源には諸説ありますが、皇帝が夢で龍を見て、縁起物として作らせた、という説もあります。福州からマレーシアやシンガポールに伝わりました。福州南部と北部で少し龍の特徴も違います。マレーシアには北部の小さめのドラゴンが伝わりました。小さいと言っても、全長は18メートルあります。香港では南部の重量もある大型のドラゴンが演じられています。
ドラゴンは、色鮮やかでインパクトがあります。マレーシア国内で作っているのですか?
ドラゴンは、中国やシンガポールから購入することが多いです。葬儀に使われる黒白以外の様々な色のドラゴンを使います。演技に使用される龍の製作には、1週間から3週間ほどかかります。デザインは、注文の際にあまり細かい指示は出さず、お任せしています。マレーシアらしさを表現するために、バティック布の龍を作ったグループもあります。
大会での「競技龍舞」も盛んですね。ベンチャイさんは審査員も務めていますが、審査のポイントは?
競技は採点式で、演技時間は7〜9分です。演技内容と要素、スピードなどが審査の対象です。演技には、約20の難しいパターンを組み込む必要があります。ポーズの美しさ、龍の回し方などもポイントになります。龍の胴体が床につくと減点の対象となります。演技を見ているとドラゴンの動きに目を奪われがちですが、操っている舞い手は、龍を動かしながら、他の舞い手の間をくぐり抜けたり、上下に回される龍の胴体を飛び越えたりしています。そんなアクロバティックな動きにもぜひ、注目してください。
ベンチャイさんにとってドラゴンダンスとは?
私の人生にとってドラゴンダンスはとても重要です。人生最後までともに歩み続けます。伝統的な技は基礎として必ず教えますが、新しい要素を取り込みながら自分の演出で演技を構成できることが楽しいです。他のグループが技を盗みたくなるような演技をして大会に勝つことが最高の喜びです。
柯明财/Quah Beng Chye/クア・ベンチャイ
ペナン島の中学校在学中にChung Hwa School Unionの獅子舞、龍舞の活動に参加。以後、ペナン島を拠点に国内外で演者、指導者として活躍。受賞歴も多数。現在は、競技会の審査員長なども務める。「二四節気ドラム」の指導者としても活躍。
ペナンチャイニーズ幼稚園
Penang Chinese Kindergarten
ペナンチャイニーズ幼稚園では、2000年頃から課外活動の一環としてドラゴンダンスを取り入れています。「ITが発達した現代社会の中で、子供達には中国の様々な伝統文化にも触れて欲しいと考えています。また、集団の中での規律性を育むことも目指しています。先日、中秋の祭事で演じたばかりです。現在は、2020年に迎える学校の100周年記念行事に向けて練習中です」と園長のオン先生。楽器の演奏は子供達にはまだ難しいため、伝統的な楽器と西洋音楽を合わせたモダンな曲のCD音源を使って演じています。