ヒンドゥー寺院で演奏されるリード管楽器「ナーダスワラム」

マレーシアの町を歩いていると、ボリウッド映画のサウンドが大音量で流れ、スパイスの香りを感じ、色とりどりの生地が目に眩しく、インドの街角に彷徨い込んだかと錯覚するような瞬間があります。全人口の約1割を占めるインド系住民によって、マレーシアには豊かなインド文化も花開いています。マレーシアに渡ってきたインド音楽はどのように発展してきたのでしょうか。

マレーシアに根付いた多様なインド音楽

 インドからの移民や商人の交易の歴史とともに、インドの音楽や舞踊などの芸能はマレーシアに伝わり発展を続けてきました。マレーシアにおけるインド音楽には、伝統的な民謡、古典音楽、主にヒンドゥー教の祭事や寺院で重要な役割を担う宗教音楽、舞踊の伴奏音楽、テレビ、ラジオ、映画における、より商業的、大衆的な歌謡曲など、様々な形態があります。

 ヒンドゥー寺院を訪れると、リード管楽器「ナーダスワラム」と両面太鼓「タビル」が鳴り響いていますし、奇祭として知られるタイプーサムでは、トランス状態で歩みを進める信者を取り囲み、激しく太鼓を打ち鳴らす音楽部隊にこちらも気持ちが高揚させられます。

ヒンドゥー寺院で演奏される両面太鼓「タビル」

南北インド古典音楽

 インド古典音楽は、インド北部で発展したヒンドゥスターニー音楽と南インドのカルナータカ音楽に大別できます。日本でも馴染みのあるシタールやタブラが演奏されるのは、ヒンドゥスターニー音楽です。

 マレーシアでは南インド出身者が多数派であったため、1930年頃からカルナータカ音楽の人気が高まり、クアラルンプールのブリックフィールズにインド系の音楽協会※1が設立されインド音楽や舞踊が教えられますが、1960年代頃までその中心はカルナータカ音楽や古典舞踊バラタナーティヤムやオリッシーであったようです。当時は、インド本国から師範らが指導にきていました。ヒンドゥスターニー音楽がマレーシアで広く受容されるようになったのは、1970年代以降。主にシタール音楽を通して広がったと言われています。1981年には、テンプル・オブ・ファインアーツ(Temple of Fine Arts※コラム)が設立され、南北インドの古典音楽や古典舞踊を学ぶ重要な場として活動を広げてきました。

 伝統的な要素を守りつつ伝承されてきたインド古典音楽は、マレーシアに渡り、西洋楽器との共演やアラブ音楽、中国音楽などの要素も取り込みながら、新たな方向でも発展をしてきました。また反対に、インド古典音楽も、マレーシア現地のポップ音楽やフュージョン、ジャズ音楽に影響を与え、受入れられてきたのです。


テンプル・オブ・ファインアーツ

Temple of Fine Arts

1981年に設立され、現在はクアラルンプール、ペナン島、ジョホール、マラッカの国内4カ所に活動を広げています。シタール、タブラ、ムリダンガム、ヴィーナ、声楽などのインド古典音楽や、バラタナーティヤム、オリッシー、カタックなどのインド古典舞踊のクラスのほか、ヨガのクラスもあり、インド芸能を学ぶ拠点となっています。外国人でも受講することができ、現在は、タブラを習う日本人もいるそうです。

 一般に公開される公演などもあるので、マレーシアを訪れる際には、ぜひウェブサイトで情報をチェックしてみてください。事前に相談すれば、プライベートな上演とインド料理の食事会、ワークショップの開催なども特別に依頼できるとのこと。マレーシアで本格的なインド芸能に触れる貴重な機会になりそうです。

住所:116, Jalan Berhala, Brickfields, 50470 Kuala Lumpur

ウェブサイト: http://www.tfa.org.my