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マレーシアの太鼓図鑑

Musical Instruments in Malaysia: Drums in Malaysia

 マレーシアの伝統音楽、伝統芸能、宗教行事や祭事で使われている太鼓の数々。今回はとくに半島側の西マレーシアの太鼓に注目します。

 マレーシアでは、民族ごとにさまざまな楽器編成のアンサンブルがありますが、打楽器を使用することがとても多く、太鼓はその代表的な楽器。形や演奏される音楽形態は様々で、その多くはマレーシアに生息する木々、牛、ヤギの皮など天然素材を使って作られています。たとえば木材としては、ジャックフルーツの木が使われることがもっとも多く、次はヤシの木。また、太鼓の皮をピンと張ったり、締めるために籐が多用されることも特徴の一つです。

 歴史的に関係の深い中国、インド、中東などから音楽と楽器が伝わったことから、諸地域との関係を感じられる太鼓も多くあります。


マレー系の音楽で使われる太鼓


Kompang コンパン

13世紀頃、中東からマレー半島にもたらされた伝統楽器。アラーの神や預言者ムハンマドを讃えるイスラム教の詩の朗唱や歌の伴奏などに使われる。直径20〜30センチの片面太鼓で、木製の浅いフレームの片側に雌ヤギの皮でできた面が張られている。左手で太鼓を持ち、右手で面を叩く。3つに分けたグループのリズムが重なり、アンサンブル全体のリズムが生まれる。
また、コンパンは、結婚式やイスラムの宗教行事、公の催しでよく使われる楽器のため、課外活動として生徒に教える学校も多くある。

コンパンは大人数で演奏されることが多い

Rebana Ubi ルバナ・ウビ

おもにクランタン州で演奏されているマレーシア固有の楽器。直径約70センチ、高さ約55センチの大型の片面太鼓。牛や水牛の厚い皮を使用した太鼓の皮は、籐の蔓を細く加工したひもで引っ張り、さらに皮をピンと張るために太鼓下部に約40センチの大きな木製のくさびが差し込まれているのが特徴。太鼓は色鮮やかな花や幾何学模様が描かれ装飾されている。通常、屋外で6台以上のグループで盛大に演奏される。雷鳴のようにとどろき渡る大きな太鼓の音は、祭りや行事に活気を与える。また、ルバナ・ウビの技術と創造性を競う競技大会も開催されている。

2人1組で太鼓の両脇に立ち、素手かバチを使って叩く

Rebana ルバナ

木製のフレームにヤギの皮を張った片面太鼓。打面は、直径約25センチ。フレームは、高さが25センチほど。フレームの素材は、主にジャックフルーツやヤシの木。膝の上で、打面が正面を向くように構え、左腕で支えながら、両手を使って演奏をする。面の中心を叩くか、ふちを叩くかで、違った音色を叩きわけ、リズムを構成する。このルバナが使用される代表的な音楽は、民謡「ムジク・ムラユ・アスリ」である。

ケダ州の村に伝わる伝統芸能Mek Mulungメッムロンでは、面が大きいルバナを使用

中国系 の音楽で使われる太鼓


Toa Ko トゥアコ

チャイニーズ・オペラや人形芝居「布袋戯 Potehi」で使用される両面の中国太鼓。皮は胴に鋲留めされている。打面が上向きになるように置き、2本の木製のバチで叩く。高さが30センチ前後と中型で、獅子舞に使用される太鼓と形は違うが、こちらも「Guグ」と呼ばれることもある。そのほか、「Kóo ク」「lô-kóo ロ・コー」「Tanggu タング」など地域によって異なる名称で呼ばれる。


Gu グ

樽型の片面太鼓。打面の直径は約60センチで、木製の胴の高さも約60センチと大型。内部には金属のスプリングが3つほど取り付けてあり、打面をバチで叩くと地面を揺らすような轟音とともにビリビリとした音が響くのが特徴。

二十四節気ドラム

「グ」のみを24台集めた「二十四節気ドラム」は、1988年にマレーシアで作られ、主に学校などの中国系コミュニティーで演じられている芸能。太鼓には「夏至」「冬至」「小寒」など二十四節気の季節名が記されている。

獅子舞

中国本土からマレーシアに伝わった伝統舞踊、獅子舞のパレードで「グ」を使用。獅子舞がパレードに参加する際は、移動しながら演奏できるよう、特製の台車に設置。

インド系 の音楽で使われる太鼓


Mridangam & Urumi Melam ムリダンガム & ウルミ・メラム

ヒンドゥー教の祭り「タイプーサム」では「ウルミ・メラム」や「ムリダンガム」などの両面太鼓を多く見かける。歩きながら演奏ができるように、奏者はストラップで太鼓を肩から吊り、演奏しながら信者とともに歩く。この太鼓部隊は寺院まで行進する信者を取りかこみ、激しいビートで気分を高揚させ信者はトランス状態へとなっていく。

Tavil タヴィル

ヒンドゥー教の日々の礼拝や宗教儀礼、結婚式の伴奏音楽としても太鼓が使用される。こちらは、ペナン島のスリ・マハマリアマン寺院にて演奏されていた両面太鼓「タヴィル」。寺院で演奏されるのは、リード管楽器「ナーガスワラム」とともに、このタヴィルを中心に構成されるアンサンブルが多い。タヴィルの小さい打面はバチを使って叩き、大きい面はキャップをはめた、親指以外の4本の指で叩く。高くて乾いた高速の音が印象的。


影絵芝居 「ワヤン・クリッ」に使われる3種の太鼓


クランタン州のやケダ州の影絵芝居「ワヤン・クリッ」の伴奏には「グドゥンバッ」「グドゥッ」「グンダン」の3種の太鼓が使われる。いずれも大小1組で演奏される。大きい方は「イブ(母)」と呼ばれ、少し音が低く、小さい方は少し音が高く、「アナッ(子)」と呼ばれる。また、太鼓以外では、メロディを奏でるリード楽器「スルナイ」、ゴング(銅羅)、小さな銅羅「チャナン」、小型シンバル「ケシ」などが使用され、打楽器の金属音や太鼓の温かみのある音など、さまざまな音色が交じり合った上にチャルメラのようなスルナイのメロディーが響く。

Gendang グンダン

円筒型の両面太鼓。奏者は床に座り、水平に構えた太鼓を足で固定し、両手の手のひらや指先を使って鼓面を叩く。おもに歌を伴うシーンで伴奏に使われる。また、ワヤン・クリッ以外では舞踊劇「マヨン」や、伝統武術「シラット」の伴奏に用いられる。

Gedumbak グドゥンバッ

ゴブレット(足つきの杯)型の片面太鼓。奏者の膝に水平に乗せ、片手で打面を叩く。もう一方の手で、打面の反対側の穴を閉じたり、開いたりすることで音色を変える。

Geduk グドゥッ

長胴型の両面太鼓。床に置かれたグドゥッは、鼓面がすこし奏者の方に傾くように太鼓の胴に足が付けられている。奏者は床に座り、2本のバチで太鼓を叩く。戦いなどのシーンの伴奏によく使われる。


「和太鼓と見た目がそっくりなGedukグドゥッ」


日本でもっともポピュラーな和太鼓、「長胴太鼓(宮太鼓)」と、クランタン州やケダ州の影絵芝居に使われる両面太鼓「グドゥッ」は一見するとよく似ています。しかし、内部の構造や楽器に使われている素材などが違い、音にも違いがでるのです。

和太鼓

長胴太鼓(宮太鼓)の胴の主な木材は、ケヤキ、タモ、楠、杉などの天然木。中でもケヤキが最適といわれます。面には国産牛の皮が使われることが多く、皮にびょうを打ち、固定させます。長胴太鼓は、重低音の振動がお腹に響くような音が特徴。

Geduk グドゥッ

グドゥッの胴材にはジャックフルーツの木が使われます。雄ヤギの皮でできた面は、竹など天然素材のペグで固定されています。ペグは約9センチあり、太鼓を叩くと内部でこのペグが振動し、シャープな音色を作り出す仕組みになっています。


文・写真/上原亜季 Aki Uehara
取材協力/ Wak Long Music & Art Centre

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