ひと言でコレ!と説明がつかないのがマレーシアの音楽。 それは、ポルトガル、オランダ、イギリスによる統治や、 マラッカ、ペナンを中心に、交易の拠点や文化の 交流地点として発展した歴史的、地理的な要素など、 様々な影響を受け、多様な芸能とともに発展してきたからです。
かつて夜の帳が降りた頃、村人たちを物語の世界に引き込んだのは、太鼓や弦楽器「ルバブ」、「ゴング(銅鑼)」などの伝統楽器による演奏をたずさえた影絵芝居「ワヤンクリ」や舞踊劇「マヨン」、語り部などの芸能でした。大人も子供も演者たちを取り囲み、長い夜を楽しんだのでしょう。19世紀末から20世紀初頭、都会の民衆を熱狂させたのはマレーオペラ「バンサワン」。チケット制で、舞台装置を配したステージで演じられるバンサワンは、西洋の影響をおおいに受けて発展したのです。そのなかで、マレーの太鼓「ルバナ」やゴングと、バイオリンやアコーディオンなどの西洋楽器を合わせた編成で奏でられるマレー民謡も発展しました。「ザピン」「ジョゲッ」「アスリ」など、踊りによって違うリズムや音階、メロディーには中東や西洋の影響が見え隠れします。
50〜60年代、マレーシア映画の黄金期が新しいポップ音楽の始まりとなりました。マンボやルンバ、外国の音楽要素も取り込みながら陽気な歌が増えるなか、1970年代頃からRTM(Radio Television Malaysia)のラジオやテレビ番組がさらに新しい時代のマレーシア音楽を発展させます。
春節には、中国伝来の獅子舞の軽快な太鼓とシンバルの音が鳴り響き、夜な夜な道路脇の特設ステージで京劇が演じられます。煌々と漏れる明かりと大音量の歌。観る人はまばらでも、その京劇は神々に捧げられているものなのです。ヒンドゥー教の祭り「タイプーサム」では、インド系の太鼓の乾いた音、激しいビートが行進する信者の高揚感を煽り、トランス状態へと引き込みます。宗教儀礼や祭事とともにある音楽もマレーシアの彩りの一つです。
ボルネオ島側では様々な先住民族がそれぞれの文化、言語を保持しています。ロングハウスを訪れると、西洋音楽とは少し違った音階の伝統楽器「クリンタンガン」とゴングの演奏に迎えられます。サラワク州では、アイヌのトンコリによく似た弦楽器「サペ」も演奏されます。
「ルバブ」、「クリンタンガン」、「サペ」など、一度聞くと忘れられない独特な音色の伝統楽器。多種多様な音楽があふれるマレーシアの魅力は、ひと言で言い表すことはできない奥深い世界なのです。
[この記事はWAU No.13(2017年9月号)から転載しています。]