インタビュー:マレーシア大使館モハマド・タキウディン・ザカリア参事官
Interview with Mr. MOHD TAQIUDDIN ZAKARIA, Counsellor (Agriculture), Embassy of Malaysia Tokyo, Japan
日本とマレーシアは、農業の分野で深い友好関係にあります。近年は、イスラム教徒を含む多様な人々を海外から日本に迎えるグローバル関連事業、とくに「ハラル」分野において両国は協力することで合意しています。また、2018年、2019年には、新宿にてマレーシアをPRする大規模なイベント「マレーシアフェア」が開催されました。今回は、その立役者で、東京のマレーシア大使館内、農務部(ACO: Agricultural Counsellor Office)に勤務されているモハマド・タキウディン・ザカリア参事官に、現在の日本とマレーシアの関係、今後の展望などを伺いました。
農業分野の発展を支える
私が勤務する東京の農務部(ACO)は、「マレーシア農業・食品産業省(注1 MAFI)」の世界8カ所に設置されている海外オフィスの一つです。マレーシアの農業生産量の増加、食品の安全性の担保、そして、農業、漁業、畜産業関係者の収入向上の3つの柱で事業を展開しています。私は2018年に来日し、日本の省庁など関係各所とのネットワーク強化、マレーシア製品の日本市場への進出サポート、プロモーション、そして、農業に携わる人材育成など様々な事業を行ってきました。
日本の最先端技術をマレーシアに導入することも私たちの大きな役割のひとつです。「IoT(モノのインターネット)」やICTの活用により、マレーシアの限られた農地を最大限有効利用し、生産性を向上させることで農業従事者の収入アップにもつながります。
未来を担う若手起業家の育成
昨年は、5人の若手起業家を日本に招き、大田市場での「せり(競売)」見学や、地方の市場視察などを含む《技術交流プログラム》を開催しました。日本の商工会議所などのビジネスコミュニティとの交流では、互いの知識を共有し、視野を広げてもらえたと思います。現代社会においては、インターネットを通じて海外の状況や最新の動向をある程度つかむことはできますが、実際に目にすることで、より大きなインパクトや気づきを彼らに与えることができると考えています。
日本人にとって身近な「菊」
マレーシアから様々な農産物が日本向けに輸出されていることをご存じでしょうか? もっとも多いのは「植物油脂」です。また、実は、蘭や仏花用の菊など、日本で売られている切り花の約15%はマレーシア産なのです。皆さんが家で飾っている切り花はマレーシアから届いたものかもしれませんよ。今後は、魚介類の輸出にもさらに力を入れていきます。とくにブラックタイガー、バナメイエビなどのエビは種類豊富で味もいいので、輸出の増加に大きな可能性を感じています。
日本におけるハラル市場
イスラムの教えで許されたものを指す「ハラル」。マレーシアは、イスラム教徒の生活全般に関わる「ハラル」分野の重要な拠点です。2018年、「ハラル協力に関する覚書(MOU)」を日本と締結しました。ハラル関連のアドバイザー役として、日本で開催されるオリンピックに向けて業界関係者やサービス事業者らとディスカッションを重ねています。
また、日本の製品がハラル認証を取得し、世界のイスラム諸国に輸出できるよう協力もしています。一例として、北海道の「とかち製菓」は、マレーシア・ケダ州の食品メーカーにてハラル認証を受けた工場での和菓子の委託製造(OEM)を行い、「ハラルもち」の生産を始めました。日本産のハラル製品を世界に広げるために、我々も日本の商工会議所やJICA、JETROとコラボレーションをしていきます。
マレーシアをブランディング
「マレーシア」というブランドを強化し、日本でのマレーシアの知名度を上げることも重要になります。そのための事業として、2018年、2019年には東京で初の「マレーシアフェア」を開催し、多くの来場者がありました。
このように、日本とマレーシアの友好関係はとても緊密でユニークです。ご存じの方も多い「東方政策(注2)」の一環である留学制度により、多くのマレーシア人が日本で学び、マレーシアには流暢な日本語を話す有能な人材がいます。これは両国にとってとても有利だと思います。これからも様々な成功ストーリーが生まれることでしょう。
注1:MAFI:Ministry of Agriculture and Food Industry
注2:東方政策(Look East Policy): 1981年、当時のマハティール首相が日本および韓国の成功と発展の秘訣が国民の労働倫理、学習・勤労意欲、道徳、経営能力等にあるとし、そうした要素を学び、マレーシアの社会経済の発展を促そうと提唱した政策。
MAFIマレーシア農業・食品産業省の取り組み
{1}日本での開催
Malaysia Fair Tokyo
マレーシアフェア
2018年、マレーシア大使館が中心となり、ALL ABOUT MALAYSIAのスローガンで初開催された「マレーシアフェア」。多彩な文化、食品、物産品を紹介し、東京でマレーシアを体感できる注目のイベントとなりました。2019年は、マレーシアから多くの起業家も参加し、さまざまな物産品を紹介したほか、ラクサ、ナシレマ、ロティチャナイなど、マレーシアの人気料理も提供。「オープニングにはマレーシア国王陛下もご臨席されました。3日間で約5万人の来場者があり、日本の方のマレーシアへの関心の高さに、主催した私たちも驚きました」とタキウディンさん。
{2}日本へ輸出強化
Fruits from Malaysia
日本に輸出されるマレーシアのフルーツ
南国フルーツが豊かに実るマレーシア。日本に輸出されているマレーシア産のフルーツは、パイナップル、ドリアンです。とくに注目は「マレーシア農業研究開発研究所(MARDI)」のもと、多品種のドリアンが開発されるなか、現地でも人気の高級品種「ムサンキング」が昨年より冷凍で日本向けに販売スタート! 今後は、独特な香りと甘さが特徴のジャックフルーツの流通も検討されています。
{3}マレーシアでの開催
MAHA [Malaysia Agriculture, Horticulture & Agrotourism]
マレーシアの農業・園芸・農業観光見本市
セランゴール州セルダンにて隔年で開催される、MAFI主催の食品、農業、畜産業、水産養殖関連の大規模な見本市「MAHA」。各州の特産品やフルーツ、最新農業技術の展示のほか、若い起業家たちの情報交換の場として彼らの意欲を刺激する目的もあります。また例年、マレーシアだけでなく、周辺諸国10カ国以上から500社以上の出展があります。
「マレーシア経済の推進力としての農業」をテーマとして掲げる今年の “MAHA2020”は、新型コロナウィルス感染症対策のため、通常の11日間から4日間に規模を縮小し、会場とオンラインのハイブリッドなプログラムで開催予定です。
【開催日程】2020年11月26日〜29日
【場所】MAEPS (Malaysia Agro Exposition Park Serdang)
セランゴール州セルダン+オンライン開催
COLUMN:マレーシアの視察団、和牛飼育の現場を訪問
2019年11月、MAFIのプログラムの一環として、マレーシアの畜産農家10名が来日。参加者は、マレーシア全土からMAFI本部にて選考された30代から50代の畜産業実践者。宮崎県小林市で、最高級和牛の代表的な品種「黒毛和種」を生産肥育している「西ノ原牧場」を視察訪問しました。ここでは、ハラル認証を取得した「なかにし和牛」の販売もしています。このプログラムでわかったのは、牛の飼育管理で大事な給餌法、肥育、水の管理などに日本とマレーシアでは様々な違いがあること。「マレーシアでは、牛に与える水の質にまでこだわることはあまりありませんが、この『西ノ原牧場』では、ミネラル豊富な霧島高原の地下水だけを飲むように管理されていることに驚きました」とタキウディンさん。
モハマド・タキウディン・ザカリア
Mr. MOHD TAQIUDDIN ZAKARIA
–
マレーシア大使館(農務部)
Counsellor (Agriculture),
Embassy of Malaysia Tokyo
–
マレーシア防衛省、マレーシア人事院(JPA)などを経て、2014年にマレーシア農業省(現・マレーシア農業・食品産業省)に入省。2018年より、在日マレーシア大使館農務部、参事官として勤務。東京での「マレーシアフェア」の開催やドリアンのプロモーション、農業分野における人材育成プログラムなどに注力。マレーシアと日本をつなぐ橋渡し役として様々な事業を担当。
取材・文/上原亜季 Aki Uehara
取材協力・写真提供/マレーシア大使館(農務部)Agricultural Counsellor Office