現実と虚構が入り混じる「自己を探す旅」。
タン・チュイムイの監督作『私は何度も私になる』の上映が〈ポレポレ東中野〉にて始まりました。「自分とは何か」を武術・アクションに挑戦することで身体的に体感していきます。何度も何度も、自分を見つめ直しながら進む人生の一場面を切り取った、タン監督の半自伝的作品です。「武術は自分を探求するためにやるもの」とは、劇中の武術の師範の言葉。自己の内面に向き合い、「私は何者なのか」を精神的に探すため、タン監督自身が主演女優として文字通り「体当たり」で挑んだ意欲作です。

物語の主役は結婚、出産、離婚を経て一度は女優業から離れたムーン・リー。かつて主演作品を共に製作した映画監督ロジャー・ウーからは、「君は最高の役者だ」と絶大な信頼を得ています。じっとしていられない息子を抱える母親となったムーンは、女優復帰をかけて武術の特訓を受け、どんどんと鍛えられていきます。あっという間に物語は展開し、、。これ以上はネタバレになるので語りませんが、最後には「そういうことか〜」と観るものを納得させます。
また、マレーシア映画らしく、劇中ではさまざまな言語が使われています。主役ムーンは息子とはマレー語、映画監督であるロジャーとは北京語、武術の師範とは広東語で会話し、さらにミャンマー語も話す、という設定。中国系マレーシア人の場合、中国語の方言も含めて4、5言語を操れることは珍しくありません。さまざまな言語が飛び交う、マレーシアの日常が感じられます。

劇中には、タン・チュイムイ監督はじめ、ピート・テオやジェームズ・リーなど、2000年頃からマレーシア映画の「ニューウェーブ(新潮流)」を築き上げてきた映画人が再集結。本作のプロデューサーを務めたウー・ミンジンも登場するなど、「マレーシア・ニューウェーブ」の時代から約20年にわたるマレーシア映画人のつながりの深さを感じました。また、現在マレーシア、インドネシアなど東南アジアの映画界で活躍するブロント・パラレも好演しています。

公開初日には、トークゲストとして女優の草刈民代さんが登壇。開口一番、「こういう展開だったのか」と物語の展開の面白さに触れてから、監督と主演を兼務したタン・チュイムイについて印象を語りました。
「本作の主演を務めたチュイムイさんは、もともと女優さんではなくて、映画監督だったことに驚きました。透明感があって、アジア女性特有の知性を感じる方でした」。また、アクションシーンをチュイムイ自身が鬼気迫る勢いでやりとげた本作。「40代であれだけ動ける身体を保つために鍛錬を続けていることは素晴らしい」と草刈さんも驚き、すっかり魅了された様子でした。

2025年6月28日より、ポレポレ東中野にて先行公開。神保町に新たに開館するミニシアター「シネマリス」でも開館記念公開予定。ぜひ劇場でご覧ください。
映画『私は何度も私になる』作品情報
(原題:野蛮人入侵)
【ストーリー】
出産と離婚を経て引退した名女優ムーン・リー。かつて仕事をともにしていた映画監督ロジャー・ウーは、 彼女にアジア版『ボーン・アイデンティティー』なアクション映画の主演を務めてほしいとオファーする。
ムーンは幼い息子ユージョウをロジャーのアシスタントに預けつつも、ロー師範のもとで撮影に向けての過酷な武術訓練に励む。
しかしある日、思わぬ知らせが届く。それは映画スポンサーからの「ムーンの元夫ジュリアードを相手役として起用したい」という提案だった。
一人の女性として、映画人としてムーンが模索する《己との闘い》と《自分》とは?
【キャスト・スタッフ】
出演:Tan Chui Mui タン・チュイムイ、Pete Teo ピート・テオ、Bront Palarae ブロント・パララエ、James Lee ジェームス・リー、Zhiny Ooi ニー・ウーイ
監督:Tan Chui Mui タン・チュイムイ
プロデューサー:Woo Ming Jin ウー・ミンジン
日本語字幕:神部明世
翻訳協力:ワイズ・インフィニティ
協力:大阪アジアン映画祭
配給提供:天画画天(Heaven Pictures)、HK株式会社
配給:Cinemago
2021/香港・マレーシア/106分/カラー/G
(C) 2022 By Heaven Pictures/HK/Cinemago