日本と縁が深いマレーシア華人一家を、12才離れている兄弟ふたりがタックを組んでマンガで綴る連載「陳家物語」。第2回は陳ママが経営している仕立て屋「藝美裁縫所」について。
大工だった祖父が建てた木造2階建てショップハウスで隣町から嫁いできたママが裁縫教室をはじめたのが43年前。マレー人の民族衣装を生徒たちといっしょに作っているうちに、確かな腕が評判を呼び、たちまち人気店となり、今でもハリラヤ前は仕上がりが3ヶ月待ちというほど。ミシンの上で宿題をしたり、切れ端の山の中で遊んだりして育った私たちが思い返す子ども時代には、必ず働く母の後ろ姿があります。今年、この家も老朽化ということでついに取り壊され、店が移転しました。姉の元同僚で、マレー人と結婚した日本人常連客でもあるアティカさんから寄せられたお便りとともに、思い出が詰まった光景をマンガで振り返ってみます。
服につけるボタンはその服の生地からハンドメイドする。そのちょい役は学校帰りの私たちが担う。お手伝いに熱心なのはお小遣い稼ぎにもなるからだ(笑)
朝8時から深夜まで働きづめのママにとって、午後3時に昼ドラを横目でみるのが束の間の休息。夢中になって仕事が進まないときもあるけど。
いつも忙しくて飲み忘れるせいで、氷が溶けてしまい薄くなった出前の「テー・シー・ペン」(練乳ではなく生乳でつくるアイスミルクティー)がミシンの上にあった。
山積みの布の切れ端が猫にとって最高のベッドのようで、たまに野良猫によって占領される。朝、生まれたての子猫を発見したこともあった。
陳家のママのお店で初めてバジュ・クバヤを仕立ててもらったのは、もうかれこれ14年程前のこと。それは断食明けの大祭ハリラヤの2か月ほど前で、お店の中には順番を待つマレー系女性の長い列が!他にも仕立て屋さんはあるのに、どうしてこんなに人気なのかと不思議に思いましたが、まず採寸する箇所がとても多い=その人の体形により合ったものを作ろうとしているということ。たとえゆったりめのバジュ・クロンであっても、その人の体形に合ったラインで裁断されていると、見た目がずいぶんと違うのです。そう、あくまでもお客さんがそのバジュを着たところが完成図。数年前に仕立ててもらったものをまだ着ていると言うと、「あなたもうサイズが変わってるんじゃないの!?」と怒られるほどのこだわりです(笑)。そして今、私のクローゼットの中には、ウェディングドレスも含めて、ママに仕立ててもらったバジュが15着もあります。ママが仕立てる素敵なバジュはもとより、人情厚く、 家族の結束の強さが尋常でない陳家に惹かれ、今でも家族ぐるみのお付き合いをしています。
アティカ
[この記事はWAU No.8(2016年6月号)から転載しています。]
マンガ:
Windz Tan
(陳維哲)漫画家。88年生まれ。09年来日。文星芸術大学マンガ専攻にてちばてつや氏(代表作『あしたのジョー』)のもとで学んだのち、ビストロの調理補助として修業・料理研究。料理漫画以外もファンタジーから戦争、ギャグ、少女マンガまで。
https://windztan.com
文・構成:
TANJC
(陳維錚)デザイナー、メディアアート作家、大学講師。12才離れた実兄だが、Windzと瓜二つ。96年来日。東京→山形→京都。舞台撮影から、映画VFX、グラフィックデザイン、WEBまでマルチにこなす。WAUは創刊からデザイン担当。
https://tanjc.net