マレーシアは名建築の宝箱。熱帯の気候、多民族のおりなす文化的な多彩さ、また施主と建設技術者の奮闘は、多くの魅力ある建築を生み出しました。それぞれの建物にはマレーシアの社会や歴史、日々の暮らしがよく表れています。また著しい経済成長は、新しい建築を次々に生み出しています。
ここでは、マレーシアの建築の魅力とともに、それぞれが建てられた時代や背景、その見どころに迫りたいと思います。
その3 コムタ(KOMAR):街になった巨大建築
名称:コムタ (KOMAR: Kompleks Tun Abdul Razak)
設計:リム・チョンキアッ(Lim Chong Keat)(Architects Team 3)
KOMTAR:ペナンの空を衝く巨大建築
コムタ。KOMTAR(Kompleks Tun Abdul Razak)。その名は、初代首相からとられました。多民族社会マレーシアらしく、コムタにはマレー語に加え、中国語、タミール語など様々な表記がなされています。中国語では「光大大厦」と表記されます。個人的には、この「光大」がなぜかしっくりきます。語感から「光」のオーラをまとった「巨大」な楼閣が天を突くさまを連想してしまいます。実際にコムタは、昼も夜も、今日も明日もペナンの空に屹立し、そして輝いています。
世界には「コンプレクス」、複合施設を名乗る建築物が多くあります。しかしコムタほどの巨大さに類例はそれほどない気がします。その巨体に、州や市をはじめとする行政機関、ショッピングセンター、ホテル、バスターミナル、そして数えきれない数の個店を吞み込んでいます。もはやコムタの出入り口はいくつあるのか、また建物の正面玄関がどれなのか、誰も答えることはできないのではないでしょうか。
そして、コムタの周辺には、ショッピングセンターやホテルなど、コムタの子分となる施設が年々増殖しています。またペナンのバス路線はほぼすべてがコムタ経由。景観的にも機能的にも、コムタは、ひとつの建築の枠を超えた「街」としてみた方がよさそうです。
文、写真、イラスト:宇高雄志
※ 【短縮版】 本記事は期間限定公開につき、2023年6月19日にて第3回「コムタ(KOMTAR)」本編公開を終了し、以降「短縮版」として掲載しております。
宇高 雄志(うたか・ゆうし) 兵庫県立大学・環境人間学部・教授
建築学を専攻。広島大学で勤務、シンガポール国立大学、マレーシア科学大学にて研究員などを経て、現職。都市や建築空間にみる多様性と調和について研究しています。学生時代から様々な建物を求めてアジア諸国を放浪。マレーシアの多様な民族の文化のおりなす建築の多彩さに魅かれています。ジョホール州に半年ほど、その後、ペナン州に足かけ3年間滞在しました。家族のように思える人とのつながりが何よりの宝です。(ウエブサイト:https://sites.google.com/site/yushiutakaweb/nyusu)
※ 本コラム「マレーシア名建築さんぽ」(著者:宇高雄志)は、最新版のみ期間限定掲載となります。写真、イラスト等を、権利者である著者の許可なく複製、転用、販売などの二次使用は固くお断りします。
*This column, “Malaysia’s Masterpieces of Architecture” (author: Prof. Yushi Utaka) will be posted only for a limited period of time. Secondary use of photographs, illustrations, etc., including reproduction, conversion, sale, etc., without the permission of the author, who holds the rights, is strictly prohibited.