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ポテヒと糸あやつり人形の共演(7/29 &30 ペナンにて必見!)

「鬼婆の愛」
The Monkey King Adventures: Love of Onibaba

ペナンにて2023年7月15日から7月30日まで、芸術、文化、文化遺産の盛大な祭典として知られる「ジョージタウン・フェスティバル2023」が開催。第14回めとなる今年は、50以上のプログラムが展開されます。地域のアートに大きな影響力をもつこのフェスティバルでは、伝統的な芸能から現代的、実験的、複合的なパフォーマンスまで、マレーシア国内外のアーティストによるさまざまな分野の優れた作品が紹介されます。

この活気に満ちた約2週間の芸術祭にて、地元ペナン島の指人形劇グループ「Ombak Potehi (オンバッ・ポテヒ)」と、日本の糸あやつり人形劇「Team ITO」 がステージを共にし、名作『西遊記』の続編の創作作品を上演します。

物語は原作同様、唐の伝説的な僧侶である三蔵法師は、孫悟空、猪八戒、沙悟浄の3人を伴い、経典を求めてインドへ旅立ちます。しかしインドからの帰路、日本の鬼婆の妖術によりペナン島で下船することになります。鬼婆は美しい女性の姿をしていますが、実は人を襲って食べてしまう恐ろしい妖怪です。そして、前世で叶わなかった恋の相手を何世にもわたり探し求め、やっと見つけたのが三蔵法師だったのです。鬼婆は日本から連れてきた手下の妖怪たちに、三蔵法師をさらってくるよう命じます。

三蔵法師と孫悟空のポテヒ人形(Photo courtesy of Ombak Potehi

指で操る小さな人形劇《布袋戯 ポテヒ Potehi 》

ポテヒは、中国の泉州で生まれた福建省の手袋型人形劇の一種で、20世紀初頭に中国からマラヤに持ち込まれました。ペナンはポテヒの重要な拠点の一つであり、戦後にはペナン島に約10の劇団がありました。ポテヒは、寺院の祭礼や中国系の祭事「ハングリーゴースト」などで神々に奉納するために演じられてきたほか、娯楽としても多くの観客を集めていました。現在は、4つの劇団が残っており、神々の誕生日などに合わせて寺院が一座を雇い、上演が行われますが、お客さんはほとんどいない状況です。

今回、舞台に登場する「Ombak Potehi (オンバッ・ポテヒ)」は、ペナンのポテヒ人形劇を復興させるために、2015年にタン・スイベン教授が若者たちを集めて設立しました。人形遣い兼脚本家のマーカス・リムが率いるオンバッ・ポテヒは、伝統的なポテヒの上演形態、登場人物の役割分担、音楽をベースに、マレーシアの多様な民族のキャラクターや衣装を新たに創作し、多言語を用いて創造的な物語を展開することで知られています。マレーシアのローカル社会に合わせた演出や、寺院に限らずフェスティバルなどでも上演することで、人種、性別、年齢などを問わず幅広い層の人々を魅了しています。

猪八戒、沙悟浄のポテヒ人形(Photo courtesy of Ombak Potehi

息づかいさえ感じられる《糸あやつり人形》

一方「Team ITO」は、「江戸糸あやつり人形」を中心に、東京を拠点に活動するグループです。「江戸糸あやつり人形」は、江戸時代に生まれ、民衆の娯楽として楽しまれてきた芸能です。その魅力をより身近に知ってもらうため、江戸糸あやつり人形やその他の人形、オブジェを使った公演やワークショップなどの活動を行っています。

「江戸糸あやつり人形」の特徴は、「手板(ていた)」と呼ばれる操り板です。ヨーロッパのマリオネットは通常棒を組み合わせたものに糸がつながっていますが、「江戸糸あやつり人形」では、手板に十数本の糸がつながっており、この糸を操ることで、まるで生きているかのように人形を操ることができます。

異なる2つの人形劇の魅力とコラボへの想い

今回のコラボレーション公演のプログラム・コーディネーターであるタン・スイベン教授 Prof. Tan Sooi Beng に糸あやつり人形とポテヒの魅力、見どころを伺いました。

— どちらも人形劇ですが、操作方法も上演のスタイルも違いますね。まず、日本の糸あやつり人形劇で特に魅力的だと感じるところを教えてください。

糸あやつり人形は、人形の構造や作り、遣い方がユニークなところです。鬼婆の人形は美しく、操り方はとても複雑で巧妙です。胴が二つに割れるという「江戸糸あやつり人形」独特の技法を上演で見られることを楽しみにしています。

— 手袋型の人形劇ポテヒは日本ではあまり馴染みがありません。特徴を教えてください。

まず、指を使って操作するポテヒの遣い方は糸あやつり人形と全く異なります。男性、女性、道化、神々など、それぞれのキャラクターに特化した遣い方があり、人形遣いのスキルによって、人形はとても素早く動いたりします。特に、戦いのシーンを演じるためには、高度な技術を要します。
 シーンによって異なる感情が表現されるのも特徴の一つです。例えば、戦いのシーンでは、より強いエネルギーと高度な技術が求められ、上演を盛り上げます。コミカルなシーンでは、お客さんを笑わせます。今回の上演では、そのどちらのシーンも見ることができます。

— 今回、日本チームでは三味線と唄が伴奏しますが、マレーシア側はどのような楽器が用いられますか?

オンバッ・ポテヒでは、伝統的な人形劇に使用されてきた中国系の楽器に加え、マレーの太鼓や銅鑼(ゴング)、ウッドブロックなどの打楽器を使い、人形の動きや戦いのシーンに躍動感を与えます。ポテヒは、伝統的に野外で上演されてきたため、音が大きい打楽器はアンサンブルの中で重要です。旋律を奏でる楽器としては、中国の弦楽器・二胡、筝、中阮(チョンルアン)のほか、竹笛などがあります。今回はペナンでの上演のため、演奏曲には地元で親しまれてきたマレーの民謡なども取り入れています。

— 今回のコラボレーションへの想いを聞かせてください。

両チームはオンライン会議を重ね、台本、演出、動き、音楽、について対話し、議論し、問題点を洗い出しながら共同製作をしてきました。 そうすることで、両チームのメンバーがそれぞれの人形劇の仕組みをより深く理解し、自分たちの手でこの作品を作り上げていることを実感しています。その成果をぜひご覧いただきたいと思います。

マレーシアと日本の伝統的な人形劇、ポテヒと糸あやつり人形、両者の魅力をかけ合わせたコラボレーションはとても貴重な機会です。ぜひ、この機会にご覧ください!

The Monkey King Adventures: Love of Onibaba
「鬼婆の愛」

日時:
2023年7月29日 | 8.00pm
2023年7月30日  | 3.00pm
2023年7月30日  | 8.00pm

会場:Majestic Theatre(ペナン島ジョージタウン)
チケット: RM50, RM180 (グループ:4人)(公式ウェブサイトよりオンラインで購入可)
言語:福建語、マレー語、日本語
字幕:英語、マンダリン
公式ウェブサイト: https://georgetownfestival.com/2023/programmes_/the-monkey-king-adventures-love-of-onibaba/ 

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