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お互いの違いから学び、表現者として《共通の言語》を探る

現在、『BEAUTIFUL WATER』の滞在制作のためにマレーシアから来日しているシャリファ・アマニさんとイデル・プトラさんにインタビュー。

2016年秋、アマニさんとイデルさんは2人そろって、舞台『NADIRAH』(作:アルフィアン・サアット 演出:ジョー・クカサス)の東京公演に出演していました。シンガポールとマレーシアを舞台に、宗教、家族、友情、恋愛などを題材に描かれた同作は、多くの台詞が盛り込まれた台本をもとに演じられました。一方、今回の舞台『BEAUTIFUL WATER』は、日本、インドネシア、マレーシアの演出家3人と3カ国から12人の役者が集い、台本のない状態から1カ月間のリハーサルを通して、舞台を作り上げるという全く違った手法で作品制作が行われています。

今回の舞台に対する想いや3カ国から参加しているアーティストらとの共同制作を通して感じていることなどをアマニさんとイデルさんに語っていただきました。(インタビューは、2018年9月18日に《キラリふじみ》にて行いました)

Aki: 2016年の『Nadirah』の東京公演は、シンガポール/マレーシアから作品を持ってきて、日本で演じましたが、今回は日本やインドネシアのアーティストとの共演ですので全く違いますね。今回の舞台制作での経験やストーリーについて教えてください。

Iedil: 『Nadirah』のときは、すでに台本があり、台詞がありました。

Aki: 大量の台詞がね(笑)。

Amani: Akiさんは、字幕翻訳をやったから知ってるわよね。

Iedil: 『Nadirah』は、東京公演に向けて多少の変更はありましたが、同じ台本が使われました。今回の『Beautiful Water』は、(参加者の経験や知識、アイデアを出し合い、作品を創造していく)「デバイズド・シアター(Devised Theater)」です。3人の演出家たちは、日本でのリハーサルが始まる前から今回の舞台のキーワードやテーマを話し合ってきましたが、実際に役者たちが集まって動いてみないとどのようになるか分かりませんでした。現在、リハーサルは3週目に入りましたが、まだ私たちはテーマについて考えたり、どんな舞台構成にするか試行錯誤しているところです。

この舞台の面白いところは、異なる文化的背景を持った3カ国の役者が3つの異なる言語と、異なるエネルギーをぶつけ合いながらコラボレーションするところです。リハーサルでは、演出家だけではなく役者たちもアイデアを出すなど、積極的に創作に参加しています。フロアーでいろいろと試してみて、そこから演出家たちがアイデアを取り込む。そこが「デバイズド・ワーク」の面白いところです。

私たちは日本で本当に素晴らしい時間を送っています。お互いの文化や作品に向き合う姿勢の違いなども学んでいます。私たちがおかれている環境すべてが制作に影響しますから、マレーシアではやり方が違ってくるでしょうし、インドネシアでも違うでしょう。日本では全てが整然としていて、リハーサルには時間通り来るとか、そういう心構えから違ってきます(笑)。

                日本の物語をマレーシア人の役者が演じてみたり、他の国の物語を異なる文化的背景を持った役者たちが違った視点で演じてみて、どのようなぶつかり合いが生まれるのか、観客がどのように反応するのか、それを想像しながら作品を作っていくのも本当に面白いのです。

                本作では、7つのキーワード(Oversaturation(過飽和)/Happiness(幸福)/Safety(安全性)/Anxiety(不安)/Spirituality(精神性)/World(世界)/Acrobat(曲芸))にもとづいて、1時間のステージを構築します。そして《水(ウォーター)》を文字通り認識するのか、精神的な意味で捉えるのか、その言葉から何を創造するのかが問題です。

 

【他国のアーティストとの違いと《共通の言語》】

Aki: マレーシア人とインドネシア人は、言語的にも、文化的にも共通点がいろいろとあると思いますが、日本人はかなり違った面があるのではないですか?

Iedil: 物事にどうアプローチするのか、という点では違いがありますが、様々な事象に対する「感受性」に関してはとても似たものを感じています。環境汚染や自然災害などは、3カ国全てが経験していることです。福島にも視察に行きました。我々はみんな過去に様々な苦しみを乗り越えてきました。インドネシアでも日本でも自然災害があります。マレーシアでも水難事故があったりします。政治的な問題も同じです。どの国も経験していることです。それが、我々役者にとっては《共通の言語》になるのです。

実際のリハーサル空間では、日本語、インドネシア語、英語、3言語の通訳が必要で、リハーサルが始まった当初、これは時間がかかるな、と思いましたが、慣れてくると演出家の多田さんが何か話すと、たぶんこんなことを言っているな、と予測がつくようになりました。みんなのボディーランゲージも分かるようになり、多田さんのスタイルはこうだから、彼はこんなことを求めているな、と思ったり。本当に、このような環境での経験はとても貴重な機会だと思っています。

 

Iedil: 「デバイズド・シアター」は、リハーサルの最初と中間と終盤では変化してくるところは難しいですが、1カ月間集中して制作できるので助かっています。

Amani: その中で3カ国の演出家のビジョンと12人の役者の創造力がまとまらなければいけないんです。

Oto: 作品の中ではどの言語が使用されるのですか?

Iedil:日本語、英語、インドネシア語、アラビア語、中国語のミックスです。

Oto: 字幕がつくのですか?

Iedil & Amani: まだ分からないです。

Amani: ときには、他の言語を理解できないということも素敵だと思うの。私は、中国語はあまり理解できないけど、その場の状況でみんなが理解できる。

Iedil: それが舞台の醍醐味でしょうね。

 

Iedil: 今回の作品制作では、それぞれの役者が各々の意図と期待を持って参加していると思いますが、僕の場合はいろんな体の動きと《共通の言語》を探ることでした。そして、今はもうあまり言葉に頼らなくてもいい。言葉に出さなくても、体の動きでとてもシャープに、直接的に訴えかけることができる。そういうことを今は模索しているところです。

Amani: 特に日本の役者さんはそういったことが得意なんです。とても上手。それは、多くの日本人があまり他の言語を話さないからなのかもしれません。日本語しか話さない役者さんが多いから、舞台の中では、どのように外国のお客さんを魅了するか、言葉以外の方法を模索する必要があるのではないかと思います。マレーシア人もインドネシア人も多くの言語を使いますから、舞台でも台詞が多くなることがあるのですが、日本の役者さんは、言葉を使わずにとてもシンプルな動きで表現し、それが観る者に突き刺さることがあるのです。私は、そのような表現に出合えることをとても楽しんでいます。本当にとても勉強になるんです。もちろん、インドネシアの役者さんからも、私たちマレーシアの仲間からも多くのことを学んでいます。言葉を学ぶことがない日は、何かのやり方を学んだり、そうでなければ、物事をどう突破するか学んだり。そして、3週目の今はみんなの距離がとても縮まり、仲が深まりました。

 

Aki: 演出家が3人いる、というのも珍しいですし、興味深いです。

Iedil: そうなんです。もし演出家が一人なら何かを決めるのももう少し簡単だと思います。それに台本がある作品であれば分かりやすいと思います。でも、今回は「デバイズド・ワーク」ですから、何も定まっていないんです。だから、演出家3人はリハーサルの前後にミーティングがあって、一人はこの演出が良いと思っても、他の人には違ったアイデアがあったり、そういったプロセスを重ねているんです。そこに通訳も入ってくるから、本当に大変です。でも、3人とも演劇界でかなりの経験がある演出家ですから、僕たちは実際に演じることに専念しています。

Aki: 完成した作品を観られるのがとても楽しみです。

Iedil: 僕たちも、どんな作品に仕上がるのか楽しみです(笑)。リハーサル開始から2週間は、いろんなことを試してきましたが、少しずつ形を作り上げる段階にきています。

水の中の生命が人間にとって何を意味するのか、海の生物になって人間や環境汚染に対してどう感じるか想像してみたり。グローバリゼーションが、どう人々のつながりを変化させたかとか。かつて人々は「水」でつながっていましたが、今は「スマートフォン」でつながっていたり。自然災害による喪失がどのように社会に影響を与えるのか、政治や資本主義が私たちの生活にどう影響するのか、プラスチックの消費など、全て私たち人間が作り出していることで、私たち自身に責任があることなのです。これらをどう変化させていくことができるのか、そういう内容も劇中で描かれる予定です。日本にもインドネシアにも海の中に鬼がいる、というような民話があったりして、みんなつながっているんです。今は、いろいろと探っているところです。

Amani: 問題は、どのように表現するかですね。とにかく、この舞台にピッタリの言葉は「Interesting!!」ってこと。私たち自身、この作品を楽しみにしています。


3カ国の様々な文化的背景を持ったアーティストが集まって、いろいろな表現を探りながら作品を作り上げることの難しさと、その限りない楽しさを2人とも言葉があふれでるように語ってくれました。文化は違っても、お互いの違いから学び、私たちが経験する自然災害、環境問題、グローバル化における生活の変化の中で「人間」として共有する《感受性》を《共通の言語》と呼び、そこから物語を紡ぎ出す、というお話は印象的でした。どんな作品になるのか、とても楽しみです。

まだまだお話は続きましたが、まずは『BEAUTIFUL WATER』についてお届けしました。映画、舞台、TVドラマと活躍し、人気の高いアマニさんとイデルさんのその他の活動については、2019年春のWAUに掲載予定です。

 

文・上原亜季  取材/撮影・Hati Malaysia (上原亜季、古川音)

『BEAUTIFUL WATER』公演情報

キラリふじみ×東南アジア⁼舞台芸術コラボレーションvol.2
日本・インドネシア・マレーシア共同制作『BEAUTIFUL WATER』

日時:2018年10月5日(金)19:00、6日(土)13:00/18:30、7日(日)14:00
構成・演出:多田淳之介、Bambang Prihadi(インドネシア)、Jo Kukathas(マレーシア)
出演:〈日本〉伊東沙保 中林舞 永井秀樹 山崎皓司
〈マレーシア〉Sharifah Amani、Iedil Putra、Thian Siew Kim、Tung Jit Yang
〈インドネシア〉Achmad Chotib、Ilham Jambak、Komaruddin、Holifah Wira
会場:富士見市民文化会館 キラリふじみ ・マルチホール
料金:一般 3,000円、高校生以下 1,000円
お問合せ:富士見市民文化会館キラリふじみ 049-268-7788
主催:公益財団法人キラリ財団、国際交流基金アジアセンター

詳細はこちら ⇒ http://www.kirari-fujimi.com/program/view/555

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