『夕霧花園』
第二次世界大戦の悲劇、日本とマレーシアの関係、時代に翻弄される人々。三つの時間軸からなる幻想的でミステリアスな恋物語。
7月24日(土)より渋谷ユーロスペースにて公開。全国順次公開。
マレーシアのキャメロンハイランドの美しい景色を舞台に、第二次大戦中、戦後、1940年代・1950年代と近代の1980年代の三つの時間軸から主人公ユンリンを通して描かれています。
日本を代表する俳優・阿部寛さんが、本作の要でもある、静かな内に様々な想い、強いものを秘めた日本人庭師・中村有朋(アリトモ)を好演。哲学的であり、深い信念を持って造園を続ける有朋は、秘密を握るスパイなのでしょうか。
主人公ユンリンは、自らも戦争という時代に虐げられ、妹を歴史の闇に葬り去られるという、悲しい過去を抱えています。姉妹という、何ものにも代えがたい関係を引き裂かれ、奪われるという、この上ない非情に潰されそうになりながらも、妹の夢であった日本庭園造りに挑み、凛と生きるユンリンの姿勢には目を見張るものがあります。そんな美しさと強さを持って生き抜く主人公ユンリンを演じるのは、主に台湾、香港を拠点に活躍してきたマレーシア出身の女優リー・シンジエ (Lee Sinje)。若き日のユンリンの美しさに、はっと息を呑む瞬間があります。
そして、約30年後、歳を重ね、過去の経験を乗り越えキャリアを積んだユンリンは社会的な地位を築いているものの、心の深いところにかつて愛した有朋を仕舞い込んでいる。そんな彼女の生き様を台湾の女優シルヴィア・チャンは味のある演技で観る者を魅了します。
これまで日本ではあまり語られてこなかった第二次世界大戦下のマレー半島における日本軍による支配。あの時代、戦時下のマラヤで起こった史実の一端を、マレーシア側の視点で描いた本作、目を、耳を覆いたくなる場面もあります。しかし、イギリス、マラヤ共産党(コミュニスト)、日本軍というキーワードを通してマレーシアの歴史を改めて見つめ直すきっかけにもなるのかもしれません。
中華圏で最も権威ある映画賞「金馬奨」第56回にて最優秀映画賞、監督賞、主演女優賞、脚色賞など9つの賞へのノミネートを果たし、最優秀スタイリングデザイン賞を受賞した本作は、時代を映し出すために作り込まれた小道具からファッション、建築物、美術のディテールが静かに場面を作り上げています。混乱の時代でありながら、ユンリンの装いも美しいのです。
時代性、歴史、美、痛み、映像から伝わる戦慄、そして愛。さまざまな要素を織り込んだ作品です。日本庭園という美の極みを題材にしたこともとても興味深いものです。それは、悠久の時間の流れに触れるものであり、そこにメッセージ性を込めた面白さがあります。
ぜひ、劇場でご覧ください!
公式ウェブサイト: 夕霧花園
リー・シンジエ、阿部寛 、シルヴィア・チャン
ジョン・ハナー、ジュリアン・サンズ、デビッド・オークス
タン・ケン・ファ、セレーヌ・リム
製作:Astro Shaw & HBO Asia
監督:トム・リン
脚本:リチャード・スミス
原作:タン・トゥアンエン
撮影:カルティク・ビジェイ
美術:ペニー・ツァイ・ペイリン
衣装:ニーナ・エドワーズ ヘアメイク:ニッキー・グーリー、ビビー・チャウ 特殊メイク:カレン・タン、グレース・チョン 編集:スー・ムン・タイ 音楽:オン・サン
2020/マレーシア/120分/カラー/ビスタ/5.1ch
提供:マクザム、太秦 配給:太秦
後援:在京マレーシア大使館
協力:大阪アジアン映画祭
字幕:川喜多綾子 字幕監修:山本博之
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