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映画監督 リュウ・センタット

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マレーシアに混在する 異文化に魅せられて

マレーシアの伝統的な引越し方法に、 “Angkat Rumah”(家を運ぶこと)というのがあります。村人が力を合わせて家ごと担いで運ぶのです。マレーシアの若手監督、リュウ・センタット監督は、この伝統的な文化を題材にした作品“Lelaki Harapan Dunia” (邦題『世界を救った男たち』)で、2015年のマレーシア映画祭において最優秀作品賞、監督賞、脚本賞の三冠を達成しました。ユーモアの中にもマレーシア社会を深く洞察したこの話題作は、どんな着想で生まれたのでしょうか。センタット監督にお話を伺いました。


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この映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

最初に、大勢の男が家を背負って運ぶという、マレーの伝統「Angkat Rumah」の写真を見たときは、とても衝撃的でした。それは、「家」というものの概念(自分の家、社会のアイデンティティ)を喚起させるもので、長い間私の心に残っていました。広義では、なぜ人は共に働くのか、そしてなぜ人が集まると足を引っ張り合うのかを深く考えさせられました。私たちは協働するという社会的な本能で、村、民族、国家を作り、すばらしいことを成し遂げることができます。逆にその本能は、悲惨なことの根源にもなります。例えば自分たちと違う人を恐れ嫌い、自分たちに理解できないことを憎みます。そして同じ仲間であるにもかかわらず獣と誤解します。本能は我々を団結させもしますが、同時に分裂もさせるのです。我々は皆獣であり人です。全ては、自分がどちらの側に立つか、または自分がどれだけ自分自身を理解できているかによるのです。

私はこの伝統を題材にした映画を作りたいと思いました。この伝統の迫力と特性を理解するために実際に経験する必要がありました。そのため私は家を建て、人を招待して、それを運びました。これが2010年のAngkat Rumahプロジェクトです。

2010年、センタット監督が発起人で行われた「Angkat Rumah プロジェクト」は、クアラルンプールの街の中を、いろいろな民族の若者が家を担いで運ぶという一大イベントだったそうですね。

若い時から「Angkat Rumah」というマレーの伝統に感心していました。家を自ら運ぶ人々の集団にビックリしない人なんていないでしょう!私にとってはただの面白い光景ではなく、それ以上のものでした。これは協調の精神を司る伝統であり、マレーシアのような多民族国家にとってはとても重要な価値観なのです。このようにして、私は「世界を救った男たち」を書き始めました。この伝統を勉強することは下調べの一環になりました。

気に入っているシーン、見所を教えてください。

ジャングルのシーンは全て好きです。特に家を運ぶシーンは皆がとても熱中しましたよ。ジャングルの地面は凸凹していて、俳優やエキストラたちは家を運びながら小川を渡ったり、坂を登ったりしなければなりませんでした。家はメインのロケ地の近くの村で買い取った3つの家からとった古い木から建てました。本物の木で家を建てたために、実際の家と同じくらいの重さになりました。そのため撮影は難しく、挑戦でした。本当に真剣に運んだので出来上がりも、とてもリアルなものになったので気に入っています。問題も沢山ありましたが、撮影することができて、とてもよかった。素晴らしいシーンです。

各種の国際映画祭で上映されましたが、反響はいかがでしたか。

いろいろな映画祭で上映していただきました。とても良い評価を頂き、観客の皆さんにも映画を気に入って頂きました。特に笑いのある部分ですね。私も観客の皆さんの反応を観察するためになるべく観客の皆さんと座って映画をみるようにしました。その時にこの映画は沢山の人とグループでみるべき映画だと気付きました。人とみるとよりいいですね、笑いが起こると伝染するんですよね。よりよい時間を過ごせますよ。


どこの国でも伝統的な文化や行事は、年々見られなくなっていくのが世の常です。現代っ子のリュウ・センタット監督が、マレーハウスを担ぐ男達の姿をみて感動し、それを映画にしようと思った気持ちは想像に難くありません。この作品は「家を担いで運ぶ」その様子、感動、さらには、その集団心理の核心までを巧みに表現しています。マレーシア国内で民族を超えて話題となった本作品。リュウ・センタット監督の出世作となりました

取材を終えて – Rie Takatsuka (ODD PICTURES)

“Lelaki Harapan Dunia”
邦題『世界を救った男たち』

94分/マレーシア/2014

マレーシア映画祭(2015)最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞。ロッテルダム国際映画祭(2008)のPrince Claus Fund Film Grant受賞。ロカルノ国際映画祭(2014)、シンガポール国際映画祭(2014)、コルカタ国際映画祭(2014)、香港国際映画祭(2015)、ノミネート。日本では、なら国際映画祭(2014)などで上映された。

<あらすじ> 娘の結婚祝いに、マレーハウスをプレゼントしたいアワンお父さん。村の仲間に協力してもらい、家をジャングルから担いで移動させることになりましたが、その家には、若い女を襲う「油男」と呼ばれる伝説のお化けが潜んでいると噂が広がり、村人は大パニック。疑心暗鬼になった人々が繰り広げるドタバタ劇に翻弄されるアワン。人々の誤解が誤解を生む大騒動の行方は…

リュウ・センタット / 刘城达

Liew Seng Tat

監督、エディター。 1979年、クアラルンプール生まれ、長編デビュー作『Flower in the Pocket』 (2007)は、日本では、東京国際映画祭アジアの風部門、福岡国際映画祭で紹介されたほか、多数の国際映画祭で高評価を得る。久しぶりの長編新作“Lelaki Harapan Dunia”(邦題『世界を救った男たち』)がマレーシア映画祭で三冠を獲得し、その実力を不動の物とした。


[この記事はWAU No.7(2016年3月号)の巻頭から転載しています。]

取材・文 Rie Takatsuka (ODD PICTURES)
写真提供 Liew Seng Tat
取材協力
Togari Yasuko(『Lelaki Harapan Dunia』字幕翻訳・マレーシア語翻訳者)
Kyoko Kugai(日本文化センター シニアプログラムオフィサー)

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