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魚料理の定番「イカンバカール」がおいしいわけ

マレーシアで人気の魚料理「イカンバカール Ikan Bakar」。日本語にすると焼き魚で、魚の種類は、エイ、サバ、マナガツオ、ティラピア、ナマズなど。タレを塗って香ばしく、蒸し焼きにするのが特徴です。

カンポンバルの店でじゅうじゅうと

店特製の調味料サンバルをたっぷり塗り、香ばしく焼かれているエイ

大都会クアラルンプールの中心地に、まるで時間を巻き戻したかのような不思議な感覚にとらわれる場所があります。平屋の民家が建ち並び、軒先では洗濯物がパタパタとゆれ、小道にはオートバイのふたり乗り。1890年代にマレー系の農民のために整備され、現在も保護地区となっている町、カンポンバルです。

LRTカンポンバル駅から徒歩10分。写真家であり、料理上手のCDさんが連れてきてくれたのは、店先にさまざまな料理が並ぶ「Gerak23」。ご飯を中心に、好みのおかずを好きなだけ盛り付ける、いってみれば、完全カスタマイズ式の定食店。

ずらっと並んだおかずを見ながら奥に進むと、じゅうじゅうと音を立てて焼かれている魚料理が目に飛び込んできました。食欲をそそる香ばしい匂い。見るからにおいしそうな肉厚の魚。隣にいるCDさんを見ると、満面の笑み。なるほど、この料理がお目当ね、とわかりました。

鉄板で焼き上げるイカンバカール

看板の文字、Ikanは魚、Bakarは焼くという意味。Pari、Kembungなどは魚の種類

マレーシアの定番の魚料理、イカンバカール Ikan Bakar。日本語にすると焼き魚で、魚の種類は、エイ、サバ、マナガツオ、ティラピア、ナマズなどが人気です。こちらの動画にて、魚の名前をチェック。(店のBGMの音が大きいので、再生する際は驚かれないよう~!)

ターメリックと塩をまぶしてから、鉄板で焼くスタイルもある

イカンバカールは蒸し焼きが基本

さて、マレーシアの焼き魚には、3つのタイプがあります。イカンゴレン Ikan Goreng、イカンパンガン Ikan Panggang、そしてイカンバカール。経験から考察するに、3つの違いは調理方法にあるようです。

・ゴレンは中華鍋で火を加えること。多めの油で揚げることが多い。
・パンガンは炭火や薪で炙ること。竹の箸ではさみ、香ばしく焼き上げるのが基本。
・バカールは鉄板で焼くこと。バナナの葉で包むなどして、蒸し焼きにすることが多い。

英語にするとわかりやすいです。ゴレンはfry、パンガンはgrill、バカールはbake。つまりイカンバカールは、オーブンで熱するように、全体を包み込むようにじっくり加熱するのがポイント。そのため、バナナの葉で包む。アルミホイルで包む。また半円型の蓋を使い、蒸し焼きにすることもあります。

アルミホイルで包み、炭火の高温で蒸し焼きにするイカンバカール。KLのチャイナタウンにて
半円型の大きな蓋で魚を覆い、蒸し焼きにしているところ。トレンガヌ州の海辺の屋台にて

また、店頭に陳列する際は、バナナの葉に盛り付けるのがお決まりのスタイル。艶やかな天然のグリーンが、こんがり焼かれた魚をおいしそうに見せてくれます。

バナナの葉に載せるのは、バナナの葉の包み焼きをイメージさせる戦略では、と想像

クリスタン料理としてのイカンバカール

もうひとつのイカンバカールの特徴は、タレをぬって焼き上げること。唐辛子、シャロット、レモングラス、ターメリックなどで作るタレの味は店によってさまざまで、塗る量も料理人の好み次第。

カレーのような香りが食欲をそそり、酸っぱ辛いつけダレにつけて食べる。シャアラムのスリムダにて

そのなかで、絶大な人気を誇るのが、タレ(サンバル)をたっぷり塗って焼き上げるポルトガルスタイル。4枚上の写真をもう1度見てください。看板中央にPortuguese Grill Fishとありますよね。

アルミホイルを開けると、刺激的な辛い香りがふわっと立ちのぼった。野菜はオクラを入れることが多く、辛味ダレによく合う

このスタイルのイカンバカールをはじめて食べたとき、飛騨の郷土料理、朴葉焼きに似ている、と思いました。旨味、風味、辛味のハーモニー、タレの香ばしい感じ、葉の上で焼かれているところ。

さかのぼること16世紀。恵まれた立地のために東西貿易の拠点として栄えたマラッカは、130年間、ポルトガルの支配下にありました。その時代に移り住んだポルトガル人の末裔が自国の味と地元の食文化をミックスさせてうみだしたのがクリスタン料理。辛味ダレをたっぷり塗ったイカンバカールは、クリスタン料理のひとつと言われ、バカール(bake)という調理法も西洋由来のオーブンからきているそうです。

そのため、このタイプのイカンバカールは、ジョホール、マラッカ、クアラルンプールなどマレー半島南部でとくによく食べられています。

すり潰した唐辛子とシャロットをベースに、海老の発酵調味料ブラチャン、レモングラスなどを加えて作るポルトガルスタイルの辛味ダレは、一度食べると忘れられない風味豊かな味。ちなみに、魚だけでなくイカやエビバージョンもあり、それも絶品。

イカバージョンのイカンバカール。イカ、オクラ、タレのコンビネーションが最高にマッチ。ジョホールにて

ジョホール人いちおし「ボトッボトッイカン」

イカンバカールつながりで、もうひとつ紹介。わたしは未体験ですが、ジョホール州の郷土料理にボトッボトッイカンというのがあります。

魚をバナナの葉で包んで蒸し焼きにするのは、イカンバカールと同じ。辛味タレに加えて、フレッシュなハーブを加えるのが、ボトッボトッの特徴。タピオカの新芽、ミントの葉、パパイヤの葉、クンチュールの葉など種類豊富に加えるのだそう。

「ボトッボトッ、大好き!」と語るジョホール出身のマシータさんによると、ハーブの香りに、ほのかな苦みがたまらなくおいしいのとか。イカンバカールよりレアな料理なので、見つけたらマストトライです。

「Gerak23」で楽しむイカンバカール

話を最初にもどしましょう。「Gerak23」でCDさんが選んでくれたのはエイのイカンバカール。皿を持つ手にずしっと重みが伝わるほど肉厚で、2種の辛味タレ付き。ふっくら焼かれていて、臭みは一切なく、とっても上品な味。タレ焼きの香ばしさもいい!

魚の皿のタレ、左はタマリンドソースでフルーティーな酸味。右は黒醤油ソースで芳醇な香りがある。そしてどちらもしっかり辛い
「手で食べたほうが、ご飯とおかずを混ぜやすいよ」とCDさん

魚の旨味を余すところなく味わう蒸しという調理法。南国らしい辛味ダレをまぶして、食欲をそそる香ばしさもプラス。そこに、ポルトガルという外国の香りもあいまって、ご飯と一緒に口にほおりこめば、すべてを包み込むようなおいしさが広がるのです。


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マレーシア料理愛好家/ライター (ふるかわ・おと)首都クアラルンプールに4年滞在した経験を活かし、Webサイト「All About」にてマレーシア記事を執筆。「マレーシアごはんの会」にてイベントや料理教室を主催。 https://malaysianfood.org

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