アート

オランウータン・ハウスから世界に発信するアート

マラッカ在住の画家、チャールズさん。ジョンカー通りのすぐ近く、大きなオランウータンが壁に描かれた建物は、彼のアトリエであり、ショップでもあります。陰陽の世界を表現した絵画。クスッと笑える“マレーシアあるある”Tシャツはおみやげとしても人気。チャールズさんの画家としての歩み、アートとの向き合い方を聞きました。


「私にとって、描くのは考えること、色を塗るのは感じることです」とチャールズさん

5歳から運命の道へ

― チャールズさんと絵の出会いは5歳のときだそうですね。画家の描いた絵が現実のものになる、というファンタジー映画を見たのがきっかけだとか。

チャールズ そうです。私がうまれて初めて描いた絵は、台所にあった小麦粉を使って、床に表現した映画のなかの画家の顔でした。それから鉛筆やチョークで描いたり、ときに石や自分の爪で削ったり。ありとあらゆる平面は私のキャンバスになりました。

― 絵を学びにフランスに留学されたそうですね。なぜフランスですか?

チャールズ 直感です。事前に調べることはしませんでした。フランスは、故郷のマラッカと比べて、言葉も、天気も、食事も、人々の顔も、聞こえてくる音も違っていて、まるで別の惑星のようでした。

留学して3年で画家デビュー。それから、マラッカに戻ってアートを広めたいという気持ちが沸き起こり、ジョンカー通りのすぐそばの2階建てショップハウス(リンク)を購入。それが今のオランウータン・ハウスで、1993年のことです。

壁のオランウータンの絵が目印。2階がアトリエで、1階では絵画やTシャツを販売している。
 

― オランウータンの絵はチャールズさんが描いたものですよね。とても大きい!

チャールズ 当時、この絵を見た地元の人は、ゴリラかな、キングコングかな、いや、ガーフィールドかな、という人もいたんです。つまり、ほとんどのマラッカの人は、オランウータンのことを知りませんでした。

― えっ、知られていないのに、店のアイコンに?

チャールズ 知られていなかったから、アイコンにしたんです。私たちは、オランウータンの密猟や違法売買について、もっと知らなければいけません。パーム油のプランテーション拡大の影響で、彼らの住処である森が失われている現実も。

― それでオラウータンなのですね。

チャールズ そうです。あと、子供のころ動物園で見たオランウータンの姿も印象に残っていました。彼らはまるで人間のようで、とても近い存在に感じました。


Tシャツは身につけるアート

― フランスから帰国したチャールズさんは、1995年にクアラルンプールの国立美術館で初の個展を開催。国内のみならず国際的にも高い評価を得て、現在はシンガポール、香港、インドネシア、オーストラリア、フランス、イギリス、スイスなど世界各国にコレクターがいらっしゃいます。ところで、チャールズさんの作品といえば、ユーモアあふれる“マレーシアあるある”を表現したTシャツ。Tシャツを作ろう、と思ったきっかけは何でしょう?

チャールズ もともとフォーマルな服装が苦手で、カジュアルなTシャツが好きなんです。着たいと思うデザインのTシャツがあまりなかったので、だったら自分で作ろうと。

― キャンバスに描く絵とTシャツに表現するデザインは違いませんか?

チャールズ 違いはありません。Tシャツは布に印刷されていて、着ることができるだけ。想像してみてください。もし、Tシャツと同じデザインの絵がキャンバスに描かれて壁に飾られていたら、絵画としか思わないでしょう。

― たしかに、そうですね。Tシャツは絵画を着ているのと同じなのですね!

チャールズ Tシャツにしたのは、日常生活にアートを取り込んで欲しい、という願いもあります。メッセージ性のあるデザインであれば、そのTシャツを見た人が考えるきっかけにもなるでしょう。

Tシャツ左より「Everyone has the right to freedom of opinion and expression.」というメッセージが描かれたTシャツ / 中央:「to lar or not to lar」lar (ラー)というのは、マレーシア人の会話でよく出てくる「だよね~」のような接尾語で、マレーシアあるあるを表現 /右:ゴム栽培地であり、コンドームの生産国でもあるマレーシア。若い人の避妊への意識を高めて欲しいというメッセージ

― 私も友人もチャールズさんのTシャツの大ファンです。作ってくれてありがとうございます!

チャールズ Arigato!


正反対のものが同時に動くこと

― 話しは変わりますが、コロナ禍を経て、チャールズさんの表現したいことに変化はありましたか?

チャールズ 今までの常識をすべて覆したパンデミックの間、アトリエに引き込もって大量の絵を描きました。2年間で数百枚になりましたね。絵には、私が何を受け取り、何を感じているかが現れます。パンダミックが始まったばかりのときは、悲しみを感じる絵が多かった。それから、怒りになり、そして今は、希望を感じているようです。まだ、変化は続いていて、描きたい絵は、どんどん浮かんできます。

― チャールズさんの絵は、陰陽の哲学がベースになっていますよね。

チャールズ 命でいえば生と死。自然界では太陽と月、昼と夜など。世界は正反対のものが互いに引き寄せ合っています。目に見えるものだけでなく、見えないものの世界でも、すべてのものは反対の側面を持っていると考えています。

「#2755 – LA RENAISSANCE」。1枚のキャンバスに対照的な顔が描かれている
「#2731 INFECTION」。互いに誘因し合いながら、別の方向を向いている

― 陰陽の考えに変化はありましたか?

チャールズ いえ。陰陽のロゴのように、片方がピークに向かうと、もう片方は下降します。大切なのは、どちらか一方が動くのではなく、両方同時に動いて、どちらも機能していることです。

― コロナ禍でアトリエに訪れることができなくなったコレクターのために、インターネットでの販売、海外郵送の取り組みを始められたそうですね。日本からでも買えますか?

チャールズさん もちろん買えます。海外の多くのコレクターが私の絵を買ってくれて支えてくれていることに感謝しています。

― ありがとうございました。WAU読者のみなさん、マラッカを旅したらぜひオランウータン・ハウスに立ち寄り、チャールズさんのカラフルな陰陽の世界観を感じてみてください。


■画家 チャールズ・チャム Charles CHAM

5歳から絵を描き始め、マレーシアの大手新聞社の編集デザイナーを経て、フランスに留学。1993年に故郷マラッカにアトリエを創設。1995年に国立美術館「Yin Et Yang Et Cetera展」を開催。40か国を超える国にコレクターがいる。 Instagram www.instagram.com/orangutanhouse  

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