魚を具にした酸っぱ辛いスープ「アッサムプダス Asam Pedas」。マレー半島南部でよく食べられていて、とくにマラッカでは欠かせない味です。
マラッカ人のソウルフード
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アッサムプダスを初めて食べたのは、あるマラッカの夜。看板のASAM PEDASの文字が六本木のネオンのようにあやしく光っている店でした。座ったのが薄暗い外の席だったので、運ばれてきた皿の中身がほとんど見えない。いってみれば闇鍋状態で、おそるおそるスープを飲んでみたら、これがおいしかった!
サラッとしたスープはほどよく辛く、心地よい酸味。ご飯にかけて食べれば、なんとなくキムチ雑炊を彷彿させるなじみのある味。ちなみに、マレーシア料理には、何度か食べてじわじわ好きになるものと、これ好き!とすぐに太鼓判系があり、アッサムプダスは後者。意外に、酢っぱ辛い味って、トムヤンクンもしかり、万人向けなのですね。
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人気の魚はエイ
アッサムプダスで使う魚はさまざま。エイ、サラワ、クロダイ、サバ、ティラピア、さらに魚卵と言っためずらしいものまで。そのなかで、ぜひ試して欲しいのが、日本ではなかなか味えないエイ。骨が無く、あったとしてもするっと取れるので食べやすいこと。淡白な味がスープによくなじみ、やわらかい食感ながらも煮崩れしない弾力があとをひきます。
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スープの味は、しょうが、ターメリック、シャロットをベースに、タマリンドのまろやかな酸味、ブンガカンタンなどの香りの強いハーブ、発酵調味料のブラチャンなどを加えて、奥深い味になっています。
余談ですが、友人のマラッカ人に「アッサムプダスは、音さんにとって辛い料理ですか?」と真顔で聞かれたことがあります。どうも彼にとってアッサムプダスは辛くない料理の模様。たしかに、激辛ではないけど、辛くないわけでもない(ご飯無しで食べるとけっこう辛い)、ちょうどいいバランスの料理です。
全国のアッサムプダス事情
さて、マラッカ以外にもアッサムプダスが人気の地域があります。
マラッカ州の南に位置するジョホール州も、アッサムプダスのポピュラー度は満点。人気の魚はナマズに近いイカン・パティン Ikan Patinです。
マレー半島の北部、トレンガヌ州にもアッサムプダスがあります。ところがこれ、名前は同じですが、マラッカのとは似て非なる料理。まずは見ため。マラッカは唐辛子強めの赤色のスープなのですが、トレンガヌはターメリック強めの黄色です。酸味が強く、辛さは全体にひかえめなのがトレンガヌ・スタイル。魚は、イカン・クリシ Ikan Kerisiが人気で、魚醤のブドゥ Buduソースと一緒に食べるとか。なお、伝統的には、アッサムプダスではなく、「イカン・シンガン・プダス Ikan Singgang Pedas」という名前で、イカン・シンガンという酸味のある魚料理の辛い Pedasスタイルだそうです。
ほかに、こんなパターンもあります!
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ニョニャのアッサムプダス
そしてもうひとつ、大航海時代の歴史が育んだニョニャ料理にも、アッサムプダスがあります。ペナン出身のニョニャ、タリナさんによると「家庭によってレシピはさまざまです。私自身はコン・アッサム Kong Assamが好きで、辛くない酸味のある魚スープ。これに唐辛子を加えるとアッサムプダスですね。酸味のある味なので、タイ料理の影響では?」と教えてくれました。
タイ、シンガポール、インドネシアにある似た料理
タイの話しが出たので、マレーシアと国境を接する4ヵ国の似た料理を調べてみました。
タイ
・トムソム・プラー
魚が具の酸っぱいスープ。酸味はタマリンドによるもので、コクはカピによるもの。唐辛子無しなので辛くない。昔ながらの家庭料理。
・ゲーン・ルアン・プラー
発酵した魚タイプラーがメインの具。ターメリックはマストで、スープはほのかな黄色。南タイの料理で、野菜はタケノコが人気。
シンガポール
・アッサムプダス
マラッカとほぼ同じ味。マレー系料理の代表格で、とてもポピュラー。おかずが店頭に並ぶ経済飯のメニューの1つ、土鍋で提供されることも。
インドネシア
・クア・アッサム
魚が具の酸っぱいスープ。酸味はタマリンドではなく、ブリンビン・ウル(緑の小さい果物 )を使うことが多い。タマリンドを使った料理も多。
日本で購入できるアッサムプダスの素
アッサムプダスを食べてみたい方へ。日本でもペーストが購入できるので、ぜひ作ってみましょう。簡単でおいしくできますよ。
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おまけ:日本のアッサムプダス情報
NHK「世界はほしいモノにあふれてる~幸せのスパイス&ハーブをめぐる旅」で、マラッカ名物として「アッサムプダス」が紹介されました。2019年に開催されたマレーシアフェア新宿にて、アッサムプダス味のおでんが登場!こんな使い方があったなんてなるほど~。
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ということで、アッサムプダス、ぜひこれから注目してみてください。