「ラヤンラヤン Layang Layang」は、マレーシア・ボルネオ島サバ州の手工芸品を日本で販売する店。植物で編んだ「リナゴ Rinago」「クラライ Kelarai」とよばれる伝統雑貨やビーズ「マニック Manik」で作るアクセサリーなど、ボルネオの自然と職人の手仕事のぬくもりを感じるクラフトがそろっています。
代表の岩﨑芙有子さんは、サバ州の大学院(Universiti Malaysia Sabah)で人類学を専攻。ボルネオ先住民の伝統文化に魅せられ、2021年にラヤンラヤンを立ち上げました。ボルネオクラフトの魅力、またラヤンラヤンの活動について伺いました。
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ボルネオの村で感じた自然のパワー
岩﨑さんが大学4年生のとき。所属していたゼミの国際協力プログラムで訪れたのが、ボルネオの山奥にある小さな村。たった10日間の滞在でしたが、村での体験が岩﨑さんの意識を大きく変えた、といいます。
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「日本ではあたり前にある電気や水。ところが、村ではそうではありませんでした。私が初めて訪問した12年前。村では水力を利用した発電機を使っていて、雨が降らないと電気の供給が不安定。日が暮れたらロウソクを灯し、お湯はないので涼しい夜でも水シャワー。ときに山水を飲んだり。そんな、私からみると大変な生活なのに、村の人たちはいつも明るくて、あったかいんです。あれっ、もしかして、電気や水がないのは不便なことではないのかもしれない。人の暮らしって一体何だろう、と考えるようになりました」
村の人をもっと知りたくなった岩﨑さんは、大学を卒業後、ふたたびドゥスンの村で単身3ヶ月ホームステイ。そして2015年、サバ州の大学院に入学。人類学を専攻して村でのフィールドワークを始めました。村に外国人が住むのは岩﨑さんが初めてであり、村の人たちが話すマレー語やドゥスン語は実生活のなかで習得というハードな環境でしたが、じぶんでも驚くほど村の生活にスムーズになじめた、と岩﨑さん。
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「村にいるとパワーをもらえるんです。山、土、植物、人、場。すべてのエネルギーにチャージされるような感覚。あらためて振り返ると、もし大学生のときにボルネオに出会っていなくても、私の人生のどこかで必ずつながる運命にあったと思います」
生活に密着した工芸品を伝えていく価値
ボルネオに引き寄せられた岩﨑さんに、あらたな転機が訪れたのは2019年のこと。州都コタキナバルでふらっと立ち寄ったクラフト展で、職人のマリオンさんに出会うのです。
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マリオンさんが作るリナゴは、整然と並んだ美しい編み目に、ゆがみのない均等なフォルムで、技術力の高さは一目瞭然。さらに岩﨑さんが惹かれたのは、マリオンさん独自のデザイン。
「単色のリナゴに色付きのビーズで飾りをつけたり、編みでパターンを作るなど、今まで見たことがないオシャレなリナゴでした。伝統の技を受け継ぐだけでなく、現代の感覚で技を変化させていくセンスのよさに惚れこみ、この作品を日本の方に紹介したいと思いました」
さて、リナゴについて詳しく岩﨑さんに教えてもらいました。リナゴ鑑賞のポイントは下記の2点。
1 リナゴの原材料は、リンコンとリアス(現在はラタンを使用)。
ジャングルに自生する「リンコン Lingkong」と「リアスLias」という2つの植物を用いています。
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シダの1種であるリンコンはジャングルで採取。やわらかいツタの部分を加工し、強度のあるリアス(またはラタン)に巻きつけるように編んでいきます。リンコンをキュッときつく巻きつけて編むことで、硬く丈夫な仕上がりになります。
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2 リナゴには伝統の形がある。
リナゴには、約5つの伝統の形があります。昔、ルングス人が使っていた銅製の器に由来し、その形を模倣している、といわれています。ちなみに銅器は、結婚の贈りものや噛みたばこ入れなど日常の調度品でありながら、財産としても扱われていました。
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現在もリナゴは、頑丈で、長持ちするため、ルングス人の家庭では欠かせないもの。日常のさまざまな場面で登場します。
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果物入れ、花瓶の装飾、コインやアクセサリー入れ、また食事を運ぶトレーや文具入れなど、用途は多岐にわたっています。
ボルネオの伝統と未来をつなぐラヤンラヤン
マリオンさんとの出会いによって、それまで漠然と考えていたラヤンラヤンの構想が具体化。岩﨑さんは2021年にボルネオクラフトを扱うオンラインショップ、ラヤンラヤンを立ち上げ、現在はリナゴを含む5種の伝統工芸品を販売しています。
◆1 インテリア雑貨として人気のリナゴ
ラヤンラヤンのリナゴはすべてボルネオの職人が手作業で作ったもの。日本のお客さんが満足できるように、クオリティのいいものを厳選して仕入れています。
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◆2 リナンキット柄の個性的なアクセサリー
寄木細工のような幾何学模様は、先住民ロトゥッド人に受け継がれているパターン刺繍「リナンキット」。花やマンゴスチンのような村の日常にあるものをパターン化して表現。伝統的には刺繍ですが、現代に合わせてレジン加工のアクセサリーにしたもの。
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◆3 クラライ編みのスタイリッシュな竹製バッグ
ドゥスン人とムルット人の伝統工芸、パターン編み「クラライ」。四角が4つ並んだモチーフ(右/青)は仲のよい4人の友人、四角が均等に並んだもの(左/黒)は宝石を表現。竹で編まれており、竹部分の黒色は、すす染めという伝統の技法です。
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◆4 手織りのあたたかさがにじむイナボルのしおり
ルングス人の手織り細工「イナボル」。織りのパターンは200以上あり、それぞれに物語や格言などの意味があります。もともと文字をもたないルングス人が、パターンを使って記録や伝言をしていたそうです。
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◆5 カラフルなデザインのビーズアクセサリー
左は(上に亀のランプ)ラヤンラヤンオリジナル配色のビーズネックレス。体のラインに沿うようにやわらかな糸を使用しちえます。右は、ルングス人が正装の際に身に着ける幅約5センチの大型ネックレス「ピナコル」。
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半年待ちでも構わない、と決意
ラヤンラヤンをスタートして3年。常連のお客さんに恵まれ、東京や千葉など関東で開催されるイベントに毎月出店するなど、活動の場は着実に広がっています。そんな順調にみえる岩﨑さんに、活動のなかで大変なことはありますか? と聞くと
「職人さんの多くは、村で自給自足の生活をしています。そのため農作業が忙しいときなどは、手工芸品制作はあと回し。ときに注文から半年も待ってようやく納品、なんてことも」と苦笑い。
「でも、それでいいんです」と岩﨑さん。なぜなら、大量生産ではない、職人さんが普段の生活のなかで作り出すものに価値があるから。
「先住民の方々は、その村やコミュニティによって独自の文化を持っています。村で暮らして感じたのは、村の伝統技術や文化、歴史を知る人々が少なくなっている、ということです。また、若い世代で、自分のルーツのエスニックグループの言葉を話せる人が減っている、とも感じます。そのことがちょっと寂しいな、と感じてしまって」
手工芸品とは、それを手作りし、普段の生活のなかで利用している村の人たちのアイデンティティの一部。だから手工芸品を大事にすることが、彼らのルーツを守ることにつながる。また、村に住みながら現金収入を得られる方法があれば、仕事の選択肢が増える意味でいいのでは、と岩﨑さんは語ります。
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職人さんが住む村に直接会いに行って、商品を受け取る岩﨑さん
めぐり合ったボルネオという運命の場所。そこで暮らす人々のルーツを守るためにできることを、と決意して始めたラヤンラヤン。だから、村に初めて出会ったときに感じた、じぶんの常識を押しつけないことを大切に。強い意志をもちながらも決して気負わないやわらかな笑顔の岩崎さんは、彼女自身がボルネオの自然のような、やわらかなパワーに満ちていました。
※岩﨑さんのボルネオ留学体験記はnoteで読むことができます。とても興味深い記事です。
https://note.com/layanglayang/n/n885c8381dc2b
「ラヤンラヤン」
マレーシア・ボルネオ島の手工芸品オンラインショップ。イベント出店(月に2〜3回)や委託販売(*)も行う。イベント出店の情報はIGにて。
https://shop.borneocrafts.com
https://www.instagram.com/layanglayang_borneocraft
*委託販売店(一部)
Lab-Terior(東京・蓮沼に店舗あり) ビーズネックレスを販売
https://www.instagram.com/labterior
helpinghandspenan_jp(イベント出店) リナゴとビーズ雑貨を販売
https://www.instagram.com/helpinghandspenan_jp
関連記事:WAU編集部がリナゴ作りに挑戦したときの記事はこちら