日本にあるマレーシア大使公邸で腕をふるう料理人サフラ・タウィルさん。25歳という若さで大使料理人の座を射止め、カナダ、アイルランドでの任期を経て、日本へ。今年11月、淡路島で開催された『ワールドシェフ王料理大会2024』では、植物由来の食材でマレーシア料理を披露し、見事サステナビリティ賞を受賞。世界を舞台に、食の外交官として活躍するサフラさんに、受賞への想いや公邸料理人として大事にしていることを聞きました。
日本人審査員が絶賛したマレーシアの味
――『ワールドシェフ王料理大会2024』での受賞、おめでとうございます。
ありがとうございます。多くの方のサポートのおかげで、受賞できたことをうれしく思います。
この料理大会は、肉や魚を使わないプラントベースがテーマ。そこでマレーシアの伝統料理「ナシウラム」を思いつきました。ナシウラムで1番大事な食材はハーブで、植物なのです。
ハーブの香りのバランス、風味のよさが審査員の方に好評だったようです。大使館の庭で育てているフレッシュなターメリックリーフとラクサリーフ、また現地では使いませんが、日本の紫蘇を加えて、日本の大会ならではの味にしました。
――在アイルランド時代、2020年に料理大会「シェフ・アイルランド料理大会」に出場され、ここでは優勝されたそうですね。
祝いのメッセージが多数届き、SNSのフォロワーが一気に増えました(笑)。この大会ではマレーシアの国民食「ナシレマッ」を作りました。ココナッツミルクで炊いた香り豊かなご飯に、深みのある辛さのサンバルソース、鶏の煮込み料理ルンダンをそえました。
新卒でカナダの大使公邸料理人に抜擢
――料理の道を志したきっかけを教えて下さい。
両親がレストランを経営していて、子どものころからよく手伝いをしていました。高校を卒業し、進路で迷っていたら、その当時、博士号取得のために日本に留学していた姉から「手に職があった方がいい。サフラは料理が得意だから、その道にすすんだら」とアドバイスをもらって、私もその気になったのです。
ただ当時は、世間一般の料理人への見方は“単に食事を作る人”で、プロの道という考えはあまりありませんでした。
ところが、大学の調理学科で勉強を始めてみると、これがもう大変で。料理のテクニックはもちろんのこと、栄養学、経営学、法律と、さまざまな知識を身につける必要があり、かなりハード。課題についていけずに辞めていった友人もいるほどです。
そして卒業後、ある料理大会に参加をするために学校で実習を続けていたら、カナダに赴任予定のマレーシア大使が料理人を探しに訪れ、私が選ばれました。新卒で、海外で、公邸料理人を務めるという予期しない進路でしたが、チャレンジしてみよう、と飛び込みました。幸いにも大使がとてもやさしい方で、いろいろサポートをして下さいました。カナダに3年滞在し、その後アイルランドに2年、そして日本滞在は2年目になります。
得意料理は生地から作るロティチャナイ
――公邸料理人としての仕事を教えて下さい。
大使ファミリーの毎日の食事を担当しています。ナシレマッ、チキンカレー、ミールブスといったいろいろなマレーシア料理を作ります。ナシレマッはバナナの葉に包んで。ロティチャナイは生地から手作りなど、できるだけ現地の味を再現するよう心がけています。
ちなみに、今までいろんな国の大使館イベントでロティチャナイを披露しています。とても人気がありますよ。海外とマレーシアでは気候が違うので、寒い時期はエアコンで室温をコントロールして生地を作るのが腕の見せどころです。
また、大使公邸でのゲストとの会食も大事な仕事です。前菜、スープ、メイン、デザートの4つのコースでマレーシア料理を楽しんでいただきます。たとえば前菜は、軽く食べられて食欲をそそるサテー、ムルタバ。メインは、ギーで炊いたご飯のナシミニャなどに鶏のトマト煮などのおかずを合わせたワンプレート。ゲストの興味を惹くように、見ための美しさも大事にしています。
デザートは(6枚目写真)は、ゆでたタピオカを冷たくして黒蜜をかけた「サゴ・グラマラッカ」が定番です。
日本のVIPには、辛さと色を控えめに
――日本人のゲストとの会食で、心がけていることはありますか?
そうですね、日本人の方に提供する場合は、トウガラシの辛さをひかえめにしています。とはいえ、私自身もそんなに辛いのが好きではないので、ちょっとおさえる程度です。あともうひとつ、色がカラフル過ぎないよう心がけています。マレーシアらしい色にすると、どうしても色鮮やかな料理になってしまい、日本の方はびっくりしてしまうので。
以前、日本のあるVIPの方が料理を完食してくださり、おいしかったと御礼を言って下さったことがあります。とてもうれしく、はげみになっています。
――大使館主催のパーティーでも料理を担当されていますよね。
今年は、フォーシーズンズホテルでのナショナルデー・レセプションの料理を担当しました。大使館提供のマレーシア料理、ホテル提供の西洋料理という2つの料理ジャンルがあったので、伝統の味を楽しんでいただけるよう、よりオーセンティックな味にしました。
料理とひとことでいっても、メニューを決める、食材を仕入れる、食材の下準備をする、調理をする、皿に飾りつける、ゲストに提供する、のようにいくつもステップがあり、やらなければいけないことがたくさんあります。
私は、公邸料理人という仕事で、料理の技と同じぐらい大事なのは、タイムマネージメントのスキルだと考えています。どのように準備をすすめて、どうしたらいちばんおいしい状態でおもてなしができるか。これにはスケジュールを組み、それをちゃんとクリアしていく必要があります。
世界での活躍からじぶんの店へ
――これからの夢を教えて下さい。
カナダ、アイルランド、日本と赴任したので、次は中東地域の大使公邸で働いてみたいです。さまざまな文化圏を体験することは、私の経験値にプラスになると思っています。そして将来的には、自分のレストランを経営することに興味があります。WAU読者の皆さん、東京に“サフラ”レストランがあれば、食べにいらっしゃいますか?(笑)
――もちろんいきます! その日を楽しみにしています。本日はありがとうございました!
プロフィール
サフラ・タウィルさん/1991年生まれ マレーシア出身
UITM大学の調理学科で5年半学び、公邸料理人の道へ。在カナダ・マレーシア大使館(2016年〜2018年)、在アイルランド・マレーシア大使館(2019年〜2020年)、在日本・マレーシア大使館(2022年〜在職中)
※本記事の写真はすべてサフラさん提供。Special Thanks to Ms Safura san!