工芸

伝統工芸が日常にある少数民族の村を訪ねて

マレーシア、サバ州にあるイヌキラン村。ここで暮らすルングス族の女性たちは、織物、籐雑貨、ビーズ細工といった伝統工芸品を今も作り続けています。たとえば、伝統布である織物イナボル。最近は布だけでなく、本のしおりに加工され、サバ州の人気のおみやげ品に。用途は変化しても、ていねいな手仕事からうみだされる手工芸品の数々は、昔も今も人々を魅了するのです。


風通しのいい縁側のような場所で作業するルングス族の人々

ボルネオ島北部の町コタキナバルから、海に突き出たKudat クダット半島に向かって北上すること車で約3時間。緑の陸稲畑やパームヤシが生い茂るダイナミックな景色を窓越しに眺めつつ、赤土のデコボコ道の揺れに体がなじんできたころ、イヌキラン村に到着しました。

イヌキラン村には約30世帯のルングス族が暮らしている。伝統的には長屋のようなロングハウス生活者だが、現在は政府の指導もあり、家族ごとの戸建て住居に住んでいる
イヌキラン村のコミュニティ・ツーリズム「Monungkus モヌンクス」メンバー、ジュリハさん(右)とエミーさん。ルングス族の伝統文化を外に発信する活動をしている

食事や伝統文化が体験できる宿泊プログラムに参加。庭で採れた食材(ウリやココナッツミルク)を使ったお母さんたちの手料理は絶品だった

籐製の雑貨、リナゴ

「Rinago リナゴ」は、しなやかで強度のある籐(ラタン)に、リンコンというやわらかい植物を巻きつけて編んでいく

ルングス族の伝統工芸リナゴ作り。籐にリンコンを巻き付けていく手仕事です。まるで針で縫うように、ひとめ、ひとめ、コツコツと。すき間なくぴったり巻き付けるには、リンコンをギュッと引っ張る力が必要で、体験してみると、かなり体力のいる作業。

お母さんたちの正確な手の動きに惚れ惚れ。平面に編むだけでも難しいのに、わずかに曲げていくことでカーブを描いたり、筒状に形を整えていくなど、膨大な経験値で身につけた技は、もう見事!のひとことです。

おみやげものとして人気の小物入れやキーホルダー。ほか、ランチョンマット、バッグ、トレー、カゴなどにもリナゴ製品があり、長く使い続けられる強度の高さと自然の美しさがとても魅力的です。


織物、イナボルInavol

イナボルは、ルングス族の伝統衣装に欠かせないパターン織。昔は、糸をつむぎ、染色するところから村で行っていたという
数種のイナボルを組み合わせたルングス族の伝統衣装。それぞれのパターンに意味があり、ルングス族の世界観が表現されている
イヌキラン村で制作されているイナボルは、本のしおりとして販売されている。パターンがそれぞれ違うので、比べてみよう

もともと、ルングス語には書き言葉がなく、このイナボルを使って伝達や記録をしていたのだそう。「モヌンクス」で保存されていたパターンは約50種。ヘビ、カエル、ヤモリ、やもり、花、指紋、ヒトなど自然をモチーフにしたものがほとんどでした。

紙に書き起こしたパターンをもとにイナボルが織られていた

ちなみに、先住民族の世界観を表現しているパターンや文様は、民族にとってとても大事なもので、この文化を後世に残す活動をしているのが「Canteek Borneo チャンティーク・ボルネオ」。サバ州の伝統衣装や伝統布、現代風にアレンジしたものもあります。


取材後、モヌンクス・メンバーのみんなと記念撮影。

リナゴやイナボル作りは、各自の家で毎日コツコツと行うほか、週末はみんなで集まって作業する。完成した作品は、コタキナバルのみやげ店や市場に納品

かつて森で暮らしていたルングス族が、住まいの近くにあった植物を加工して作り上げた伝統工芸。リナゴやリナボルを作っている女性たちの手元をみていると、ひとめ、ひとめ、と手作業で進んでいく動きは、きっと昔と変わらないものだ、と感じます。今はこの世にいない人たちの技や生活の喜びが、この伝統工芸に残り香のように漂っている、と感じるのは、空想しすぎなのかもしれません。でも、それぐらい、効率化や大量生産のような現代の価値観とはまったく違ったものが、ここにはありました。


さて、リナゴやイナボルの完成形を実際に見てみたい方は、イヌキラン村訪問、または、コタキナバル市内にあるサバ州観光局直営のおみやげ店「カダイク」の訪問をおすすめします。また、日本でもサバ州の文化に魅せられた方が運営する「ラヤンラヤン」では、イヌキラン村で作られたリナゴをネットで販売。ご興味のある方はチェックしてみてください。

■ カダイク Kadaiku – Sabah Souvenirs & Handicrafts (コタキナバル)

■ラヤンラヤン layanglayang_borneocraft (日本)

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