映画FILM

銀幕の精神#18 Poochandi:古来の文化と若者文化の融合

Poochandi: A mixture of ancient and young culture

JK Wicky 監督作『Poochandi』 

JK Wickyの初監督作品『Poochandi プーチャンディ』(2022年)は、インドのタミルナードゥ州出身のジャーナリストである主人公、ムルガン(RJ Ramana役)が、マレーシアのタミル系住民に根付く超自然的な物語を掘り起こそうとマレーシアを舞台に描かれたホラースリラーです。

  ムルガンは、シャンカル(Tinesh Sarathi Krishnan)と出会い、古いコインを通して霊と交信する「スピリット・オブ・ザ・コイン」というゲームの体験について聞きます。シャンカルは、友人グル(Ganesan Manohgaran)とアンブ(Logan)と共に、最初は富や運勢について素朴な質問を霊に投げかけますが、現れた霊が謎の死を遂げた女性マリカ(Hamsni Perumal)であることがわかり、楽しみは一転して重苦しい雰囲気に包まれます。3人は知恵を絞りSNSを調べ、マリカの恋人が犯人であると確信します。彼らは、男の家に乗り込みますが、抗争の末、マリカがまだ生きていることが判明します!しかし、実は、この太古の霊は、邪悪な目的のために彼らを導いていたのです。

 シャンカルら3人は、女性が恋人に殺された真相を突き止めるためパソコンやスマートフォンなどを駆使してSNSを調べます。また、インターネットを使って、ヒンドゥー教の古文書や文化を調べ、霊を解放するための謎に立ち向かうのです。いわば、古来の知恵と新しいテクノロジー、現代の知識を融合させながら霊に挑むところにこの作品の面白さがあります。

 ホラーをベースとした『プーチャンディ』は、ヒンドゥー教の古い文明に由来するコインの起源から、自身のアイデンティティを模索するタミルナドゥ出身のジャーナリストまで描くことで、インド国外でもタミル人が様々な国に移り住み、異文化と混ざり合うことで彼らのコミュニティがそれぞれの土地に根付いていることを作品に盛り込んでいます。強い個性をもつ登場人物たちは、政府からの援助を受けず経済的に自立しています。この作品はタミルナドゥの外の世界に暮らすタミル系移民の苦境を描いた政治風刺でもあるのです。

 マレーシアで製作されるタミル語映画は、限られた予算で興行的に成功を収めるために、歌やダンスで盛り上がるメロドラマを中心としたボリウッド映画作品のリメイク版を製作することに注力してきました。マレーシア産のタミル語映画は、ボリウッド作品の魅力に敵わないとマレーシアの観客に考えられているためです。『Chemman Chaalai』 (The Gravel Road, 2005) や 『Jagat*(世界の残酷)』 (Brutal, 2017) のように、インド系マレーシア人を描いた、物語性のある作品もありますが、これらの作品が製作費を回収し、興行的に成功を収めることは非常に難しいのです。

 しかし、このような状況の中、『プーチャンディ』はコロナ禍によるロックダウンの規制が緩和され劇場が再開してすぐに公開されたにも関わらず、インド系のみならず中国系、マレー系の観客を動員し、80万リンギ(約2,380万円)という素晴らしい興行収入を記録。興行収入130万リンギットを記録したコメディドラマ『Vedigundu Pasangge』(監督:Vimala Perumal、2018)、90万リンギットのアクションコメディ『Maindhan』(監督:C Kumaresan、2014)に続く、マレーシアのタミル語映画史上で第3位となりました。

 本作はマレーシアのみならず、タミルナドゥでも成功を収め、現在、Netflix Malaysia にて配信中です。 

*『Jagat』サンジェイ・クマール・ペルマル監督インタビュー [WAU No.12記事完全版]

予告編:

POOCHANDI トレーラー

文/A・サマッド・ハッサン A Samad Hassan
翻訳/上原亜季 Aki Uehara


A・サマッド・ハッサン

マレーシアの映画製作者として受賞歴のあるインディーズ作品から大ヒット作まで約100の長編映画製作に携わる。非常勤講師のかたわら映画やマレーシア文化、黒魔術などについて講演もする。神戸にて留学経験があり、オヤジギャグを愛する。

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