東京のマレーシア料理店「マサマサ」にノスタルジックな2枚の絵が誕生。描いたのはクアラルンプールで活躍する画家ルナさん。作品について詳しく解説します。
コマで遊ぶ子どもたち
のどかな風景です。かがんでいる2人の少年はコマで遊んでいて、右の少年の手には長方形の物体。これはマレーシアでおなじみの持ち帰りスタイルのドリンク。日本でいう金魚袋にそっくりのビニール袋に飲みものが入っていて、ストローをさして飲みます。薄い茶色から察するに、中の飲みものはマレーシアで人気の「テタレ Teh Tarik」のようです。
左の少年の頭には、イスラム教徒の男性が身に着けるソンコ Songkokとよばれる帽子。ふたりが履いているのはビーチサンダル。多宗教の人々が共存しる南国マレーシアの日常を表現しています。
右のおじさんの膝の上にはマレーシアで発行部数No.1の英字新聞『The Star』が置かれています。
「マサマサ」の店主が絵にこめた思い
「子供のころコマでよく遊びました。マレー語でガシン Gasingといいます。ご飯を待っている間、近所の友だちと集まって、誰がいちばんガシンを長く回せるか、何度も競争しました」と教えてくれたのは「マサマサ」の店主ジェイソンさん。
ジェイソンさんはマレーシアのジョホール出身。ルナさんの絵が大好きなジェイソンさんが、店の開店記念にルナさんを招待して絵を描いてもらう企画を立てたのは2020年の春。ところがコロナ禍でずっと来日が叶わず、2022年10月にようやく実現。
ルナさんとジェイソンさんが絵にこめたメッセージは “幼いころ、ご飯を待ってる間に見た景色は、大人になってもよく覚えている”。「マサマサ」の料理のコンセプトである家庭料理と見事に響き合っています。
マレーシアの家庭にあるキッチン用具や菓子
2枚目の絵は店内にあります。左側から見てみましょう。
中華包丁で野菜を切る女性の右側にあるのが、マレーシア料理に欠かせない石うす。「唐辛子やスパイスは石うすでつぶすと、香りがとてもよく、フレッシュな味わいになる、と言われています」とジェイソンさん。
テーブルの上に並んでいる料理は、丸1羽の蒸し鶏、その右下は野菜たっぷりのヨントウフ、右上はマレーシアの国民食であるナシレマッ。そしてカラフルなおやつクエラピスに、バナナの葉にのっているのがイカンバカールです。
いちばん右側。イスの上に立っている女の子の手の近くにぶら下がっているのは、ランタンです。旧暦の中秋節、中国系のコミュニティーではランタンを飾って祝います。夜道や暗闇を照らすランタンの光は、福や光明をもたらす象徴と考えられています。
ちなみに、店内には、本物の水筒やティフィン(弁当箱)があるので、絵と見比べるのもおすすめ。また、下記インスタのリンク先のように、絵と一緒に写真を撮るのも楽しいです。
https://www.instagram.com/reel/ClImUTOAqi1/?igshid=YmMyMTA2M2Y%3D
料理を待っている間に絵を眺める。その時間はまるで、ジェイソンさんがお母さんの料理を待っていた時空にタイムスリップをしたかのよう。その時間もまた、料理の味をおいしくしてくれることでしょう。
■マレーシアのイポー出身のアーティスト LUNA LOW KAR FAI ルナ・ロウ・カル・ファイ
今マレーシアでもっとも注目されているアーティストのひとり。とくに、クアラルンプール・チャイナタウンにある老舗コピティアム「HO KAW KOPITIAM」の入口にある彼女の絵が話題に。2015年、マレーシア新興アーティスト賞Malaysian Emerging Artist Award (MEAA)のファイナリストに選出されたのを皮切りに、Nando Art Initiative、MBPJが主催する壁画で見事優勝を受賞。2016年、初の個展を台北で開催。2019年、UOBペインティング・オブ・ザ・イヤーで銅賞を受賞。描く絵のテーマは、ジェンダー、民族、文化。自身の実体験をもとに視覚的な表現を追求している。