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独楽で遊んだ幼いころ。何度も練習を重ね、放課後に友たちと競い、あの子よりも長くまわりますようにと、息をひそめてじっと独楽を見つめた。大人の手から勢いよく飛び出す本物の独楽は、どっしりと重く、小さな手ではうまくつかめない。だから、プラスチック製のおもちゃの独楽が、僕の相棒だったんだよ。——マレーシア人から聞いた独楽の思い出話です。
マレーシアの独楽は「ガシン」といいます。米の収穫後、村の男たちの遊びのひとつとして行われていたのがはじまりで、独楽が翌年の豊作を呼び込む、とも信じられていました。古い家の廃材で作られたものが多く、独楽職人がカンナやヤスリで削り上げ、命を吹き込みます。「ガシン・ジャントン」と名のついた独楽はバナナの花を模したもの、「ガシン・クランタン」はクランタン地域特有のものなど、形や地域性によって約100種の独楽があり、なかには重量5キロの壮大なスケールのものもあります。
地面に円を描くところから、独楽遊びはスタート。相手よりも長く回ったら勝ち。または、相手の独楽を倒すか、円の外に追い出せば勝ち。個人で戦ってもいいし、チームで対決することもあります。
近年マレーシアでも独楽で遊ぶ子どもは減ってきています。「独楽を古い伝統にしてはいけない。今をともに生きている文化だから」とはマレーシア人の言葉です。
よく作られ、うまく投げられた独楽は、約2時間もまわり続けるといわれる。独楽を楽しむ年代は子どもから大人まで幅広く、今でも田舎町では独楽の大会が開かれている。写真はセランゴール州で開かれた大会の様子。
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[この記事はWAU No.16(2018年6月号)から転載しています。]