伝統芸能

影絵芝居民話『12人の姫』

[この記事はWAU No.10(2016年12月号)から転載しています。]

世界では、その土地に根ざした様々な民話が語り継がれています。マレーシアでも語り部や影絵芝居などの伝統芸能を通じて多様な物語が伝承されています。その多くは口承伝統であり、師匠から弟子に物語が伝えられてきました。

影絵芝居 Wayang Kulit Gedek
人形師のマジッドさん(2011)

民話 『12人の姫』

Puteri Dua Belas

私は留学時代、マレー半島北西部ケダ州に伝わる影絵芝居「ワヤン・クリッ・ゲデッ」の研究のため「Seri Asunスリ・アスン」というグループを4年間ほど追いかけていました。近年、人形師マジッドさん(Abdul Majid Bin Mohd Noh)と日本公演の可能性を探っていましたが、残念ながら今年7月に急逝されました。人形、音楽、上演スタイル、そして物語など、多くのことを学びましたが、今回は、マジッドさんから聞き取った物語をご紹介します。


物語

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ある日、アスン村に暮らす夫婦トッジャリとマッジャリは、子宝に恵まれるようタイ寺院の僧侶に相談に行きました。僧侶はマッジャリが用意した12本の蝋燭に呪文を唱え、自宅に安置するよう伝えます。程なくして、夫婦に12人の娘が生まれますが、貧しい夫婦は成長した娘たちに食事を与えることができず森に置き去りにすることにします。

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親に捨てられた姉妹は森を彷徨い、リゴール王国の王宮にたどり着きます。そこで王様は、12人の美しい娘をめとります。怒ったのは王妃レマン。実は、魔物が化けているこの王妃、姉妹を皆殺しにしてやろうと画策します。レマンは妊娠を装い、痛みを和らげるために少女たちの目玉を食べたいと懇願。王様は、12人姉妹の末の娘の片目を残して全員の目玉をくり抜き、王妃に与え、姉妹を地下牢に閉じ込めます。その後、子どもを生んだ姉妹たちは、目が見えず自分の子どもたちを食べてしまいます。片目だけ見える末の娘だけは、息子エプロットを育てます。

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エプロットは7歳になると、神が遣わした雄鶏の助けを借りて地下牢から逃げ出します。エプロットは、この雄鶏で闘鶏に勝ち続け、いつも賞金の代わりに12人分の食料を欲しがりました。王様の鶏にも勝ち、金を与えられますが、金よりも食べ物が欲しいというエプロット。不信に思った王様は、使用人エイトとヌヌイに調べさせます。エプロットが12人姉妹の息子だと分かった王様は、姉妹とエプロットを王宮に連れ戻します。

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これを不服に思い、困惑した王妃レマンは、再び娘たちの暗殺を画策。今度は、仮病を使い、魔物の国のライムを欲しがり、エプロット、エイト、ヌヌイをグヌン・ジェライの魔物の国へと送り出します。出発前、レマンはエプロットの馬にこっそり魔物の仲間に宛てた手紙を括り付けます。手紙には、「この少年を殺すように」と書かれています。

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グヌン・ジェライへの道中、ジトラで休憩していたエプロットたちは、僧侶トッタムと出会います。馬の首の手紙を解読したトッタムは、「エプロットたちを歓待するように」と内容を書き換えます。手紙を読んだ魔物たちは、彼らの到着を歓迎、ライムと12人姉妹の目玉を持ち帰らせます。王妃レマンが魔物であると分かったエプロットは、激しい戦いを繰り広げます。レマンは刺し殺され、体はシントック村へと飛ばされました。お話は、エプロットが王様になって、おしまい。


物語の特徴

この物語には、伝統的な影絵の物語の特徴がよく表れています。登場する地名は、その物語が伝わる地域に根ざした地名が多く、この物語ではマレー半島北西部からタイ南部に実際に存在する地名が登場しています。影絵グループの拠点は隣国タイとの国境「ジトラ」のアスン村であり、タイ系住民はタイ語を話し、タイ寺院がいくつもある地域です。

多くの物語は、まず森や山中にある王国の宮殿を舞台に、王家とその使用人(影絵では道化)、そして人間が登場します。そこで魔物による誘拐事件、人間と魔物など「善と悪」の戦いが繰り広げられます。今回は、誘拐ではなく12人姉妹が地下牢に閉じ込められていました。そして、最後にはエプロットが魔物と戦い、退治します。


取材・文・写真  Aki Uehara(Mutiara Arts Production)

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