国際的に活躍するファッションデザイナー、メリンダ・ルーイ。母国マレーシアの民族性や文化を重んじ、伝統衣装のコレクションを毎年発表。現代と伝統が融合した世界感に魅了されます。
大胆な生地の切り替えに、インパクトのある装飾。その一方で、カラフルながらも全体的に温かみのある色合い、また露出の少ない女性の服。ときに前衛的、挑発的と評されるモダンな感性と、この地に生きる人々が受け継いできた伝統の尊重。一見、相反するようにみえる2つの価値観をみごとに共存させたメリンダ・ルーイの作品は、世界中のファッションショーに招かれるなど、国際的に高い評価を得ています。
手がけるジャンルは幅広く、セレブ向けのオートクチュール、一般向けの既製品、企業やスポーツ選手のユニフォーム、3Dプリンターによる最先端のファッション、さらにインテリアデザインまで様々。そのなかで、とくに力を入れているのが伝統衣装をモチーフにしたファッションです。マレーシアでは、祭事や宗教行事の際、それぞれの民族の伝統衣装を着て祝う習慣があり、この時期に新作コレクションを発表。たとえば、イスラム教徒のラマダン(断食月)明けの祭り「ハリラヤ・アイディルフィトリ」にむけた「ラヤ・コレクション」。中国系にとって大事な中国正月にも、毎年華やかなコレクションが登場します。
「マレーシア人として生まれ、小さいころから多民族、多宗教、多文化のなかで育った私にとって、この多様性はデザインに大きな影響を与えています。神からの贈り物といってもいいかもしれません。そして、この伝統や文化をどんなことがあっても守っていきたいです。たとえばラマダンは、母なる大地に赦しを請い、慈悲の心や連帯感を子どもたちに伝えるのに、とてもふさわしい時期ですから」とメリンダさん。
テーラーの娘として生まれた彼女は、1995年にマレーシアのヤングデザイナー賞を受賞。カナダの名門ファッション校に留学し、世界へと羽ばたきます。この輝かしいキャリアの原動力は同じテーラーである母と、それを支えた祖母にあります。「ふたりはとても強く、そして努力を惜しみませんでした。起業して今までチャレンジの連続でしたが、私がここまで続けてくることができたのは彼女たちの働く姿を見ていたから。何かを成し遂げたいなら、絶えずベストを尽くすことが大事です」。
夢はファッション・ミュージアムを作ること。「そこにはデザイナーの作品だけでなく、スタイリスト、メイクアップアーティスト、写真家たち、みんなの作品を集めたい」。ファッションという枠を超えた彼女の挑戦は、まだまだ続きそうです。
ラヤ2020 コレクション
Raya 2020 Collection
マレー系女性の民族衣装「バジュ・クロン」「バジュ・クバヤ」「バジュ・ケダ」の3つのスタイルがモチーフ。肌の露出を避けるイスラム教徒の型に沿ったデザインのなかに、女性らしい軽やかな動きを表現。袖口の大振りなレースの飾り、バティック調のプリントが印象的。
クルーズ2020・
ニョニャ・ティフル
Cruise 2020 – “Nyonya-Tiful”
中国から渡ってきた祖先をもつ「プラナカン」の人々の伝統衣装がモチーフ。チャイナ服に、マレー半島らしいバティック柄をアクセントに使ったデザインで、立て襟や美しい刺繍が目を引く。プラナカンのファミリーを想定したモデル写真は、おしゃれなヴィンテージ調。
Cross Culture
メリンダさんと日本の関係
西陣織を使ったファッションで
世界の人を魅了
「2014年に大阪城で開催したSAKURA COLLECTIONで、メリンダは西陣織で作った作品を披露してくれました。大阪城でのショーのあとフランスでも展示したところ、かなり好評でした。メリンダは、若手クリエイターの育成にも力を入れていて、アジア各国から応募2000作品を超えるコンテストの審査員も担当してくれています。彼女の作品が素晴らしいのはもちろんのこと、デザインという分野にとても真摯な人で、その姿勢にも学ぶことが多いです」 by 田畑則子さん(SAKURA COLLECTION実行委員会)
SAKURA COLLECTIONとは?
海外のデザイナーが、日本の素材を使った服飾デザインを考案。また若手クリエイターによる「日本」をテーマにしたコンテストも開催。デザインを通じて、アジアの若い人々が日本文化を知るきっかけを作ること、また日本のモノ作りとアジア文化の融合を目指している。
www.sakuracollection.com
https://www.instagram.com/explore/tags/sakuracollection/
メリンダ・ルーイ
クアラルンプールを拠点に活動するデザイナー。ファッション界の頂点ともいえるパリのファッション・ウィーク(2014年)のマレーシア代表を務めたこともあり、キャメロン・ディアスなど世界のセレブを顧客に持つ。ショールームはバングサにあり、ショッピングモール「パビリオン」内に店舗も構る。
www.melindalooi.com
取材・文/古川 音 Oto Furukawa
写真提供/Melinda Looi, Noriko Tabata(SAKURA COLLECTION)