バティックとは溶かしたろうを使って染色した布のこと。スカーフ、シャツ、巻きスカートなど用途はさまざまで、素材は木綿やシルクが一般的です。2023年7月、マレーシアのトレンガヌ州にあるバティック工房「Nysakapas ニサカパス」を訪問。以前オンライン取材(記事はこちら)をした工房で、リアル見学は初めて。バティックの制作の様子を見せていただきました。
工房は、トレンガヌ州の州都、クアラ・トレンガヌの町の中心から車で約1時間。町からずいぶん離れた木々が生い茂るなかにポツンとありました。ちなみにトレンガヌはバティックの生産地として有名で、質、デザインともにすばらしいといわれています。たとるなら、マレーシア人にとってトレンガヌのバティックは、日本でいうなら京都西陣の着物ぐらいのブランド度です。

工房に入ると、むわっと蒸した空気に包まれ、汗がしっとりにじんくる天然サウナな環境で、染色中の布がピンと張られている整然とした美しさにほれぼれ。
この日、作業していたのは、代表のニサさんを含む4人。全体の作業スペースはテニスコートぐらいでしょうか。正直、驚きです。ニサカパスのバティック製品は、クアラルンプールのセレクトショップで購入できるほどメジャーなのに、こんなにこじんまりした工房で、すべて手作業で作っているなんて。
真鍮製のブロックを使ったスタンプ型の染色
バティックのデザインには、手描きとブロックを使用したスタンプ型の2つのタイプがあり、ニサカパスは後者。工房オリジナルの真鍮製ブロックを使用しています。

溶かしたろうをブロックに塗布し、スタンプを押すように布にデザインしていきます。

次に染料で色づけ。すると、ろうの部分は色が混ざらず、独特の柄をうみだすのです。


リラックスした状態で自然を写し出すこと
ニサカパスのバティックの特徴は、身の周りにある自然や文化をモチーフにしたデザイン。なかでもニサさんが大事にしているのは、いきいきとした自然をバティックに映し出すこと。そのためには「私自身がリラックスをした状態でいること」とニサさん。

工房を見学して感じたのは、伝統的な手作業のバティック作りとは、自然とヒトの共同作業なんだな、ということ。これは比喩でもなんでもなくて、ニサカパスの場合はブロックのモチーフには自然からのインスピレーションがいきているし、制作工程のなかで、ろうや染料を天日干ししているから。毎日同じ天気ではなく、周りにある自然も刻々と変化する。そしてもちろん、ヒトの手作業にはゆらぎがあります。
そのためニサカパスのバティックはひとつひとつ微妙に色が異なります。それが唯一無二の美しさであり、おもしろい。同じ色を求める人には、手作業の工程をていねいに説明をしているそうです。
自然と会話をしながら、自然と一緒に作るバティック。モノに自然の命が宿っているような、そんな感覚になりました。



ニサカパスのWebはこちら