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モダンクイジーン「Dewakan」を率いる話題のシェフ、ダレン・テオの哲学 [WAU No.25]

2015年にオープンするや、多くの美食家たちの心をとらえた「Dewakan」。マレーシアで採れる食材を使い、見ためは麗しく、食べれば驚きのある皿の数々が並びます。マレーシアを代表するスターシェフ、ダレン・テオさんに、料理に込めた想い、また現在の状況下におけるレストランとしての意義を語ってもらいました。

与えてくれる土地への感謝

 マレー語で“Dewa”は「神」、“Makan”は「食べる」こと。この2つの言葉を組み合わせたのが店名の「Dewakan デワカン」です。マレーシアは、まわりを海に囲まれ、稲作やフルーツ栽培がさかんで、ジャングルではめずらしい食材が採取できます。こんなに恵まれた土地に住んでいながら、私たちは日ごろ、このことを意識していません。海鮮や農産物などの食材は神の恩恵であり、デワカンで提供する料理は、神から授かった食事。私たちの料理を媒介に、豊かな自然の恵みをゲストに体感して欲しいと思っています。

 料理に使うのはマレーシアで採れた食材。なかには、地域固有のもの、また最近はあまり使われていない伝統食材もあります。たとえば「クリム kulim」。香辛料のような刺激のあるナッツで、ジャングル・ガーリックともよばれます。「クントゥパンアイル kentum pang air」は胡椒の一種、ハーブの「テンゲッ・ブルン tenggek burung」も、あまり知られていない食材でしょう。だいたい200〜300種の食材を常時扱っているので、食材の管理だけでも、かなり時間をかけています。

 これらの多様な食材をどのように料理するか。それには、食材がもつ性質の核の部分を探り、想像力を自由にふくらませて、既存の調理法にとらわれない新しいテクニックが必要です。それが“モダンクイジーン〞とよばれるデワカンの料理で、それぞれストーリーのある約20品のコースで組み立てられています。

調理法はエスプーマのような新しい調理法から、炭火で炙る伝統的な調理法まで食材に合わせて使い分ける。炭焼きの鳩は自家製の塩漬けサディンとともに提供

この土地の食材を使う意味

 さて、なぜ私たちがマレーシアのローカルな食材にこだわるのか。それは、マレーシア料理とは何か、という問いにつながります。よく“マレーシア人は食を大事にする国民〞といわれますが、本当にそうでしょうか。たしかに私たちは食べることが好きです。でも、料理に使われている食材がどこから運ばれてきて、その料理がどのように準備されたのか、ということに興味をもつ人はほとんどいません。たとえば、流行のタピオカティー。なかに入っているタピオカについて深く知っている人は少ないでしょう。これでは、マレーシアに成熟した食文化が根付いているとはいえません。

 また、マレーシア料理は歴史の影響で非常にさまざまな味があり、人によってマレーシア料理のとらえ方は違います。マレーシア料理の定義というものは、どこにもないのです。さらにいえば、豚肉の漢方スープ「バクテー Bak Kut Teh」といった典型的なマレーシア料理でさえ、食材に使われている漢方やにんにくは輸入品。これは本当にマレーシア料理といえるのでしょうか。

 そう考えたとき、私がひとつの答えとして出したのが、地元で採れる食材でした。これらは、この土地に結びついています。料理の芯ともいえる食材を地元の味で構成することで、マレーシア料理の本質に近づけるのでは、と考えたのです。

「テンゲッ・ブルン」は、日本語でゴシュユとよばれるミカン科のハーブ。生薬の一種としても知られている

パンデミックにおける考え

 私たちは、たえず変化をする人生を送っています。1つのステージが終われば、また次のステージがやってくる。それは前向きな変化かもしれないし、そうではないかもしれません。MCO(新型コロナウィルス禍における活動制限令)の間、私たちは働き続けました。むしろ時間がないくらいでした。まず、料理の腕を磨きました。そして、自宅で楽しめる「フードキット」の開発、オンラインストアの立ち上げ、プライベートパーティーのケータリングのサービス。この危機で打撃を受けている生産者たちを支援するための料理ツアーにも取り組んでいます。

 人の命を守ることと、生きるための経済活動を行うこと。この2つが同時に重要です。それは決して簡単なことではありませんが、人生に挑戦はつきものです。そして、そこで得られた経験は、次にかならず生きてきます。

 大事なのは、stay agile(機敏であること)、stay sharp(油断しないこと)。そして新しい解決法をたえず探し、変化を恐れないこと。また、店のスタッフだけでなく、各地のシェフ、食材の生産者、サプライヤーたちとも連携し、それぞれの知識と技を結集して進んでいきます。なぜなら私たちは同じ目標をもつ同志ですから。

 そして、マレーシアが食材に満ちた豊かな土地であることを知るように、私たちがすでにもっている尊い価値をちゃんと見い出せるようになれば、今よりもよくなると確信しています。たとえば、食材を大事にすることで、自然保護に関心をもつようになるでしょう。人々が歩んできた歴史を近くに感じれば、伝統を受けつぐ職人や彼らが作る工芸品について興味をもつ人が増えるでしょう。そのようなビジョンに向かって、私はチームとともに全身全霊をかけて取り組んでいくつもりです。



2015年、ダレン・テオさんが料理講師を勤めていたKDU大学の起業家育成プロジェクトとして大学内に設立。2019年、ゲストの要望に応えるべく、窓からツインタワーが美しく見えるクアラルンプール中心地に移転。現在も、KDU大学との関係は続き、スタッフの中には卒業生もいる。また、インターンを受け入れるなど、人材の育成にも力を入れている。

Level 48, Skyviews, Naza Tower, Platinum Park, No. 10 Persiaran KLCC, 50088 Kuala Lumpur
https://www.dewakan.my/


ダレン・テオ Darren Teoh

クアラルンプール出身。母の手伝いから料理に目覚め、料理学校を卒業後、クアラルンプール、シンガポールの有名店で経験を積む。2015年、KDU大学との共同事業として「Dewakan」を立ち上げ。2019年、世界が注目する「アジア・ベストレストラン50」にて、マレーシア初のランクインという快挙を達成。


取材・文/古川音 Oto Furukawa
写真提供(表紙含む)/Aaron Khor(Dewakan) 
参考文献/ 『Tatler Malaysia』『First Classe online magazine』
Special Thanks/Hiroshi Hisakado

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