Craft and Goods from Malaysia
こんなにも旅に出られない日が続くとは。そんな悶々とした日々のなかで、新しい発見がありました。それは、マレーシアから持ち帰った雑貨のパワー。これはあの町で、これはあの人から。雑貨を通して思い出旅に出かけましょう。また行ける日を願いつつ。
WAU編集部 オトの私物を公開!
ステイホームがすっかり定着し、日本とマレーシアを自由に行き来していた時代が、まるで幻のようにも感じる今日この頃。せめておうち時間に旅気分を、とマレーシアで買った雑貨を部屋に飾ったり、食卓で活用したりしています。いわば苦し紛れの作戦ですが、やってみると、どのアイテムにも現地の文化がたくさん詰まっていることをあらためて発見。そして、さまざまな旅の記憶もよみがえってきます。
玄関に飾ったのはバティックで作ったファブリックパネル(01)。リビングには「ソンケット」(02)を目立つ位置に。どちらもマレーシアの伝統的な布地で、とくにソンケットはクアラルンプールの専門店で購入したお気に入り。マレー系男性の正装時の腰巻き用なので、履いたときに前がはだけないよう筒状になっています。「好きにカットして飾ったらいいわよ」と店の人に言われましたが、ハサミを入れるのはしのびなく、筒状のままボードに貼り付け。柄が位置によって変わるので、部屋の模様替えも簡単にできそうです。
ソンケットの横には、マレー凧「ワウ」(03)を。クランタン州の工房へ取材に行ったときに購入したもので、当時ワウを作り続けて46年の職人、シャフィーさんの姿を思い出します。工房に飾られていた多種のワウがとても美しく、取材陣が歓声をあげて写真をとりまくる横で、こちらを見ることなく黙々と作業していたシャフィーさん。骨組みとなる竹のしなり具合を何度も確かめながら、少しずつ、ていねいに削っていました。残念ながら数年前、シャフィーさんは亡くなられましたが、ワウは美しいままです。
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書斎には、同じクランタン州で訪れた影絵工房で購入したワヤンクリッ(影絵芝居)の人形(04)。このときの取材も思い出深いもので、「日本語で影絵をやってみたら」という、なんとも貴重なお誘いをうけ、ぶっつけ本番で影絵芝居のダラン役(人形を操り、ストーリーを語る人)に挑戦とっさに頭に浮かんだのが日本のおとぎ話『桃太郎』で、鬼退治のシーンを再現してみたものの散々たるできでトホホ……。そんなへなちょこな私が舞台を降りたあとも、音楽隊の方々が楽しそうに演奏を続けていたのが、今となっては美しい夢のような記憶です。
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そして食器棚の一番手前に、マレーシア好きの定番アイテム、ピューター製のビアマグ(05)を配置。これでビールを飲むと、口あたりがグッとまろやかになって、どんなに気分が落ち込んでいるときでもテンションが上がります。ロイヤルセランゴール社の工場見学でお会いした当時の取締役、ダティン・ムン・クエンさん(写真・)。「ピューターは使えば使うほど味が出るもの。傷もそのひとつよ」の言葉が古びた食器の見方を変えました。クエンさんも数年前、天国に逝かれました。
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窓際には、ジョホール州でふらっと立ち寄った雑貨店で購入した竹製の風鈴(06)を飾りつけ。かなり重いので、強風でないと風鈴の役目は果たしませんが、アジア感満点のやわらかな音色は心地よく、ときどき自分で揺らしています。もうひとつ、クローゼットで発掘したのが、直径1メートルの竹製の敷物(07)。トレンガヌ州の市場で購入した民芸品で、これは日常に使うのはもったいないので、ここぞという日が来るまで、またクローゼットに戻しました。
旅で持ち帰ったこれらの雑貨は、単なるおみやげではありませんでした。あの時の思い出や現地の文化につながる、いわばアクセスポイント。雑貨を眺めながら、脳を自由に開放&妄想すれば、行きたい場所に、行きたい時間に、いつでも飛んでいくことができる。皆さんのおうちにある雑貨も、今こそ出番です。
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バティックの ファブリックパネル(01)
ろうで絵を描いた染物、バティック。女性用のサロンとして売られていたものをボードに貼り付けて作成。ちなみに左端の絵柄が切り替わっているのは、昼と夜で着用の際に見せる柄を変えるため
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ソンケットのファブリックパネル(02)
金糸や銀糸を使った織物、ソンケット。着物の帯のようにずっしりとした重さがあり、持ち運びは多少苦労するが、それだけの価値あり。重厚な質感と輝きのある絵柄が上質なインテリアに
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マレー凧「ワウ」(03)
空飛ぶ芸術品とよばれるワウ。色紙の上に切り絵を貼りつけ、細やかでカラフルな模様に仕上げる。ワウの形は数種あり、このタイプは下部が三日月形なので「ワウ・ブラン(月型の凧)」とよばれる
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影絵人形(04)
なめした牛の皮に細かい彫りを施し、緑や黄、赤色などの色をつけるため、光をあてると、白い布にカラフルな影が映し出される。体の中心と片手に木の軸があり、それを動かして操作する
※赤文字の部分、本誌に間違いがございました。水牛ではなく牛の皮、竹ではなく木の軸です。お詫びして訂正いたします。
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ピューター製のビアマグ(05)
スズを主原料にした金属であるピューター製品は、マレーシアが世界に誇る伝統工芸品。創業130年の「ロイヤルセランゴール」社のビアマグは、わが家の食卓で大活躍。ワイングラスも愛用中
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竹製の風鈴(06)
カラン、コロンとなる音色の美しさに惹かれ、ジョホール州の日用雑貨店で購入。日本の風鈴のように自然の風で揺れない重さが特徴。玄関に付ければ癒しのドアチャイムになる
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竹製の敷物(07)
直径1メートルほどの大判で、4分の1サイズに折りたたむことができる。このような竹や籐で編んだ手さげバッグ、バスケット、ランチョンマットなどの民芸品はマレーシア各地にある
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バナナ型のボード
マレーシアでは本物のバナナの葉を料理によく使うが、バナナの葉を模った皿や雑貨も豊富。これはボルネオ島のクチンで買った木製のボード。鮮やかな緑が写真映えするので撮影時の飾りに
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木工細工の飾り
木製の工芸品を扱うブランド「アーチ」のアイテム。マレーシアらしいモチーフをデザインに施した作品が多く、これはツインタワーなどクアラルンプールの特徴的な建物が細工されている
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アルミのカレー皿
クアラルンプールのインド人街のスーパーで購入。割れる心配がなく、軽くて値段も手ごろなので、おみやげにぴったり。インドの神様であるガネーシャが型押しされた小皿は写真映えもする
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ご当地トートバック
左がペナン、右はボルネオ島のコタキナバルで購入した名所がデザインされたトートバック。マレーシアはトートバックの宝庫で、「ナシレマッ」のような名物料理が描かれたものなど多種販売されている
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小物入れとしおり
マレーシアのスターバックスが現地の伝統工芸とコラボして制作。パンダンの葉や松の葉を細く割き、乾かしてカラフルに色づけした「ムンクアン」製品。空港のスタバ店舗で販売していた
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ニョニャ・バスケット
マラッカで購入した伝統的な籠で、黒を基調に赤と金の色使いが特徴。持ち手付きなのは、結婚式のときに引き出物やお菓子を入れて持ち運びされていたため。わが家ではチョコやクッキー入れとして活用
出会いは一瞬ですが、思い出は永遠です
文・写真 Oto Furukawa / デザイン Keiko Murate
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