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サペの歌姫アレナ・ムラン Alena Murang, the SAPE’ Songstress [WAU No.28]

うつろいゆく空を見上げ、祖先を想い、
森羅万象をめぐる歌の旅に出る

ボルネオ島サラワク州の先住民族 「クラビット」にルーツを持つアレナ・ムランさん。サラワクの伝統楽器サペの演奏家として、先祖から受け継いだ歌や物語を
サペ演奏をとおして後世に伝える活動を広げています。クラビットの先祖は、空と大地に暮らしたといわれ太陽、空、木々そして生きとし生けるものすべてを内包する森羅万象と独特な関係を築きました。最新アルバム 『Sky Songs』では、空模様の移り変わりを巡る歌の旅を表現しています。

アレナさんが手にしているのは、彼女が最も気に入っているDines Ngauさんが制作したサペ。サラワク州の伝統的なモチーフの繊細な柄が美しい。 ©Clash Donerrin

— 昨年、アレナさんが出演された映画『大海原のソングライン』(注1)が日本でも公開され、話題になりました。

この映画は、かつて海を渡って移動した人々が島々に残した伝統的な音楽を記録したドキュメンタリーです。私の故郷であるクラビット高原(注2)の村でも撮影がありました。プロジェクトの一環として他の国の音楽家とツアーをした際、驚いたことに、台湾南部のパイワン族の家で耳にした子守唄がクラビットの歌にそっくりで、歌詞の半分を私は理解できたんです。自然や先祖などを題材にした歌はとても似ています。この出会いと、台湾とボルネオの民族の文化的な繋がりの発見は本当に素敵でした。

注1 原題:『Small Island Big Song』:台湾・蘭嶼(らんしょ)から始まり、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、マダカスカル、そしてイースター島に至るまで16の島々を訪れ、当地の音楽家たちと共同で一つのソングラインを紡ぎだした音楽ドキュメンタリー。2019年製作、オーストラリア・台湾合作
注2 WAU28号ギャラリー「ボルネオ島の秘境:クラビット高原」を参照

— 11歳の頃にサペを習い始めたのですね。

もともとサペは男性の楽器だったため、私を含む従妹たちはサペ・マスターのマシュー・ンガウさんにとって初めての女性の生徒になりました。先生が演奏して生徒が真似する、という伝統的な指導法でした。また、先生が演奏を録音してくれたカセットを家で聞いて練習しました。楽譜がないので大変でしたが、今、私も同じ手法でサペを生徒に教えています。

— ここ20年ほどでサペの形は変化し、他ジャンルの音楽とも共演されるようになりましたね。

昔のサペは2、3弦でしたが、現在は5、6弦に増え、弦が2重に張られているものもあります。サイズも様々です。
 年配のサペ奏者が変化に対してオープンであったため、サペは柔軟に変化してきたのでしょう。でも、師匠たちは、まず伝統的な奏法と伝統曲を習得してから新しいスタイルに変更するように言います。たとえば、メロディパターンやリズム、一番上の開放弦を弾きながらメロディを演奏すること、弦を弾いて装飾音符をいれる演奏法などがサペらしさを出すのです。

©Clash Donerrin

新作アルバム『Sky Songs』

— 新作アルバム『Sky Songs』には、クラビット語とクニャ語の歌が収録されています。

地理的に近く、文化的にも関係が深いクラビット族とクニャ族ですが、言語は全く違い、どちらも消滅危機言語です。実は、サペの音楽はもともとクニャの文化でした。クラビットの歌はアカペラで歌われていましたが、私はその両方を組み合わせて表現しています。
 私たちは、先住民族にルーツを持ちながら都会で生まれ育った最初の世代です。私の母がイギリス人であるように、片方の親が先住民族以外の人も多く、家庭では英語やマレー語が主要言語になっているため、先住民族の言語を話す人は減っています。伝統的な歌や物語を通してクラビット語やクニャ語を後世に残したいです。

— 新曲『Warrior Spirit』のミュージックビデオについて教えてください。

かつてクラビットの男性は、ときに熱帯雨林で他の民族と戦う戦士でした。この曲は、戦いの朝、戦士たちが朝霧が立ち込める山の空を見上げ、心を鎮める様子を表したサペの伝統的な曲をベースにしています。
 撮影には、先住民族ルンバワンのメイクアーティストのほか、サラワク出身のデザイナーが参加。衣装とアクセサリーを担当してもらいました。クラビットの衣装の特徴であるビーズなど伝統的な要素に加え、私たち若い世代らしい都会的な独自のスタイルで映像を作り上げました。
 私、「アレナ・ムラン」がプラットフォームとなり、様々な文化遺産にもとづいた技術や経験を共有できる場になると嬉しいです。
 5月末に新作アルバムのデジタル配信とビデオが公開されますので、日本の皆さんもぜひお聞きください。

サラワク州の収穫祭「ガワイダヤク」に合わせて発表されたMV『Warrior Spirit』。アレナさんと約40名のダンサーが野外で撮影。モダンな衣装とアクセサリーが美しい。©Vignes Balasingam

NEW ALBUM “Sky Songs”

空と地上に暮らしたクラビットの祖先の物語にインスパイアされたこのアルバムは、戦いの朝、立ち込める霧をのぞむ戦士たちの歌、移住に適した時期を告げる雲の動きを見る歌、雷と月の嘆きの歌など、森羅万象をめぐる歌の旅。
この「Sky Songs」(2021)や、デビューアルバム「Flight」(2016)は、Apple Music、Spotify などで世界中どこでも視聴可。



profile:
サペ奏者/シンガーソングライター
サラワク州・クチン生まれ。クラビット人の父とイタリア系イギリス人の母をもつ。クラビット族やクニャ族の年配者たちから伝統的な歌や音楽、物語を受けとり、現代的な形で表現する。サペの師匠でリビングヘリテージであるマシュー・ンガウ・ジャウの初代の教え子の一人。女性初のプロのサペ奏者としてサペの復興運動にも携わる。Buenos Aires 2020 Music Video Festivalにて、ミュージックビデオ「Midang Midang」がベストスタイリング賞を受賞。

Web >>> https://www.alenamurang.com/
Facebook >>> @alenamurang
Instagram >>> @alenamurang
クラビット族の伝統的な子供の歌を集めるプロジェクト 「Project Ranih」
http://www.projectranih.com/

Alena Murang – Warrior Spirit (Official Music Video)

取材・文/上原亜季 Aki Uehara
取材協力・写真提供/Alena Murang 

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