建築

マレーシア名建築さんぽ #8 コンウォーリス要塞と時計塔

マレーシアは名建築の宝箱。熱帯の気候、多民族のおりなす文化的な多彩さ、また施主と建設技術者の奮闘は、多くの魅力ある建築を生み出しました。それぞれの建物にはマレーシアの社会や歴史、日々の暮らしがよく表れています。また著しい経済成長は、新しい建築を次々に生み出しています。 

ここでは、マレーシアの建築の魅力とともに、それぞれが建てられた時代や背景、その見どころに迫りたいと思います。

マラッカ海峡に向かう大砲と要塞の壁(イラスト:©︎宇高雄志)

その8 コンウォーリス要塞と時計塔


マラッカ海峡に向かう大砲と要塞の壁

ライトのペナン上陸

無戦の要塞

要塞内の施設群:倉庫(写真:©︎宇高雄志)

街の繁栄とともに

界隈の配置図
オリジナル・グリッドにあるヒンズー寺院(写真:©︎宇高雄志)

女王に捧げられた時計台

ビクトリア女王記念時計塔(全景)(写真:©︎宇高雄志)
ビクトリア女王記念時計塔(揮毫が見える)(写真:©︎宇高雄志)
ビクトリア女王記念時計塔(ライオンの吐水口)(写真:©︎宇高雄志)

よみがえる要塞と時計塔

要塞を外周から見る(写真:©︎宇高雄志)
要塞を外周から見る(写真:©︎宇高雄志)


写真、イラスト:宇高雄志

(*1)  ライトは英国海軍でキャリアを積みその後、インドのマドラスに渡ったのち、タイ南部に交易拠点を立ち上げていた。サリナヘイズホイトの言葉を借りれば、ライトはアジア諸国で活躍した「country trader」だった(Sarnia H. Hoyt, 1996, p.14)。
(*2) Plan of Fort Cornwallis with the town on the east point of the island (Home Riggs Popham: 1799)
(*3) グリッド(格子)と呼ばれつつも、オリジナル・グリッドの街区の大きさや街路の幅は均一ではない。街区は最大のもので一辺168m(ビショップ(Bishop)通り)から最小29m(マーケット(Market)通り)と様々だ。また街路は直交しておらず、幅員も大きいものでは13m(チャイナ(China)通り)、最小9m(マーケット(Market)通り)だった。こうして区画された街区に建物が建てられてゆくが、建物の間口や棟の方向は、オリジナル・グリッドからみて、北岸の防衛・統治機能の集中する方向が主であり、港湾・経済機能が従であるとみてよいだろう。
(*4)  時計塔の建築を知らせる新聞記事(例えば、Pinang Gazette and Straits Chronicle, 1897.6.16.)にはチアの寄贈額は3万海峡ドルと記載がある。後に工事費が増額されたのだろう。
(*5) Cheah Chen Eok ・チア・チェンヨク[1852-1922]。ペナン生まれ。商人の一家に生まれる。名門のペナンフリースクールで学び、銀行などで勤務。その後なじみのあった船具商を立ち上げつつ、阿片や酒を扱う企業体(Penang Opium and Liquor Farm)に参加し巨万の富を得る。当時、阿片と酒は政府にとっても重要な財源だった。一時期はマラヤで最大の富豪として知られた。ビジネスの傍ら篤志家としても知られ、その一つが時計塔建設への寄贈として記憶されている。
(*6) マレーシア名建築さんぽ「#4 バングナン・スルタン・アブドゥル・サマド」2023.6.20.
(*7) Malay Mail, Penang clock tower: Standing the test of time, 2018.11.24.


主な参考文献

  • Chen Voon Fee (ed.), 2007, Encyclopedia of Malaysia V05: Architecture: The Encyclopedia of Malaysia, Archipelago Press.
  • M. R, Ismail, A. G. Ahrnad & H. Awang, 2003, Structural defects and solutions: A case study of Fort Cornwallis, Penang, Malaysia, Transactions on the Built Environment vol.66, pp.349-357.
  • Sarnia H. H., 1996, Old Penang (Images of Asia), Oxford University Press.

宇高 雄志(うたか・ゆうし) 兵庫県立大学・環境人間学部・教授
建築学を専攻。広島大学で勤務。その間、シンガポール国立大学、マレーシア科学大学にて研究員。その後、現職。マレーシアの多様な民族の文化のおりなす建築の多彩さに魅かれています。なによりも家族のように思える人のつながりが宝です。(Web:https://sites.google.com/site/yushiutakaweb

建物によっては一般公開されていない部分もあります。ご訪問の際には事前に訪問先の各種情報をご確認ください。

※ 本コラム「マレーシア名建築さんぽ」(著者:宇高雄志)は、最新版のみ期間限定掲載となります。写真、イラスト等を、権利者である著者の許可なく複製、転用、販売などの二次使用は固くお断りします。
*This column, “Malaysia’s Masterpieces of Architecture” (author: Prof. Yushi Utaka) will be posted only for a limited period of time. Secondary use of photographs, illustrations, etc., including reproduction, conversion, sale, etc., without the permission of the author, who holds the rights, is strictly prohibited.

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