風習文化

ラマダンとハリラヤ・アイディルフィドリ

Ramadan and Hari Rraya Aidilfitri

マレーシアの約65%はイスラム教徒(ムスリム)です。彼らにとって大事なのがラマダン。イスラム暦(ヒジュラ暦)の第9番の月を指し、この約1か月間、断食を行います。ラマダンが終わると、ハリラヤ・アイディルフィトリという待ちに待ったお祭りです。今回はマレーシアの宗教行事をひもときます。


ラマダンとは?

イスラム暦の9番めにあたる月の名前。この期間、ムスリムが必ず実践しなければいけない崇拝行為のひとつである「断食」を行う。約1カ月間、地平線に夜明けの光がさしたとき(日本であれば、日の出より約1時間半前)から日没まで、いっさいの飲食を行わない。なお、イスラム暦はルナ(月)カレンダーで、西暦と比べると1年間は約11日に短く、ラマダンの時期も1年ごとに早く繰り上がる。これは世界中で暮らすムスリムが季節の影響を平等に受けるように、という意味もある。

断食明けに食べるデーツ。悪魔が嫌う食べ物といわれている

ファリダ先生、教えてください

Q1 2019年の開催日時は?

「5月5日(日没)〜6月5日(変更の可能性あり)です。マレーシアの場合、日程は肉眼での新月の観測によって決まります。国によっては計算で日程をわり出すところもあります。1日の開始と終了の時刻は国や地域で異なり、また日によっても太陽の動きに合わせて少しずつ変化します」

Q2 毎日の断食明けに食べるものは?

「日が沈むと断食は終了し、なつめやしの実(デーツ/クルマ)や水など軽いものを口に入れます。これはできるだけ日没後すぐに行った方がよいので、身近に断食をしている人がいたら理解してあげてください。私はまずクルマを一粒食べます。その後の食事は家族や友人ととります」

Q3 断食以外にしてはいけないことは?

「ラマダン中は普段よりもよい生活を心がけることが大事です。争い事をしない、悪口を言わない、喫煙、性行為、耳かき、精神が乱されるような猥談もしてはいけません。ただし無意識にしてしまった場合は断食のルールを破ったことにはなりません。日没後も問題ありません」

Q4 子供や妊婦さんも断食を行う?

「幼い子供、妊婦、重病人などは断食を免除されます。ただし断食を行う、行わないの判断基準は家庭や個人に委ねられています。また、妊婦は翌年の断食月までに、できなかった日数分を行わなければいけません。さらに「フィドヤ(補償金)」の支払い(米、または金銭)が必要です」


ラマダンは祝福をもたらす月

「私たちの両方の肩には天使がいて、行動はすべて記録されています。どれだけ誠実に、心から物事を行っているのか、神さまはすべてお見通しです。この1年間の記録をまっさらにし、過去の過ちを赦してもらうチャンスがラマダンです。とくに最後の10日間には天使が舞い降り、運命が変えられる可能性があると言われていて、人々は真剣に祈りを捧げます。実際、この期間には不思議な出来事がよく起こるのです。またラマダン中は、亡くなった人は皆、お墓から出て自由に行動できます。天使から罰を受けていた人も、ラマダン中だけは罰を受けなくて済みます。ラマダンが終わるとまた罰を受けなければいけないので私たちは悲しみます」(ファリダ先生)


ハリラヤ・アイディルフィトリとは?

ラマダン後のお祭りのこと。ハリラヤ・プアサともいう。宗教的行事というより文化的な風習。同じお祭りのことを中東では「イード」、インドネシアでは「レバラン」とよぶ。マレーシアではラマダン明けの2日間が国の祝日。初日、ムスリムの男性はモスクの集合礼拝に参加。その後、民族衣装で着飾った家族が集まり、マレー式の挨拶「サラーム」をしながら過去一年間の過ちの許しを請う。オープンハウスとよばれるホームパーティを開く風習があり、ムスリムでなくても参加できる。

ハリラヤに欠かせないもの


ハリラヤの祝い料理

 ハリラヤには、日本のおせちのように定番の料理がある。ひとつは、ヤシの葉を編んだ容器に米を入れて茹でた「クトゥパ」。ご飯がギュッと固まった、具無しのちまきのようなもの。地域性があり、北部はもち米を使った三角系が多く、南部はうるち米の四角形が多い。もうひとつは、ココナッツミルクで濃厚に煮込んだ肉料理「ルンダン」。時間をかけて、やわらかく煮込む牛肉のルンダンが定番で、クトゥパと一緒に食べる。竹筒で炊いた「レマン」も大事。ココナッツミルクで香り付けしたもち米で、これもおかずと一緒に食べる。


オープンハウス

 親戚やお世話になった人を家に招くホームパーティ。手作りの料理でもてなすこともあれば、ケータリングを頼んだり、屋外席をセットして盛大に行われることもある。また、この期間、多くの人が家に訪れるため、「クエラヤ」とよばれるクッキーなどのお菓子を用意する。オープンハウスでは、子ども達はクエラヤを食べ、「ドゥイッラヤ」とよばれるお年玉をもらうことができる。また「近所の女性がグループになり、歌いながら家を訪ねて許しを請う、マルハバンという風習があります。それぞれの家で用意した料理や菓子を包んで渡すのです」とファリダ先生。


監修:ファリダ・モハメッド先生

Faridah Mohamed/東京外国語大学特任准教授(Special Associate Professor)。1993年より講師を務め、日本におけるマレー語教育の第一人者。現地でのホームステイ・プログラムを企画するなど、言語の習得に加えて、文化の相互理解を深める活動にも力を入れている。著書に『ニューエクスプレス マレー語』(白水社)、『マレー語を勉強しよう 会話中心』(Universiti Sains Islam Malaysia)などがある。

監修:ファリダ・モハメッド先生(東京外国語大学特任准教授)
文/古川音 Oto Furukawa
写真/Hamza, Syahir, Oto
デザイン/Keiko Murate

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