身近な自然の恵みをいただく
マレーシアでは、マレー半島内陸部、ボルネオ島サバ州、サラワク州という、おもに3つの地域に先住民族が暮らしています。食文化は様々ですが、ご飯とおかずのコンビが基本スタイル。味つけはおもに、塩とハーブ。ときには発酵食品を組み合わせ、素朴ながら滋味深い味わいです。
マレー半島内陸部:オラン・アスリ
Orang Asli
「私が調査したドリアン・タワール村では、畑で収穫した野菜、スープ、ご飯が普段の食事で、肉はめったに食べません。村の半数が母系制の家族で、料理担当の妻は一家の長。男性は、妻がご飯を作るまで口出しをせず、お腹が空いていてもじっと待つんですよ」(信田敏宏)
案内人:信田敏宏 Toshihiro Nobuta
国立民族学博物館教授。長年オラン・アスリの社会を研究し、村での呼び名が“お兄さん”から“おじいさん”に変化。
たとえばこんな料理です
ボルネオ島 サラワク州
Sarawak
「ドリアン、ジャックフルーツ、パイナップルから、胡椒、ハーブ、野菜まで、庭で育てています。鶏、豚もいるので、食材を買うことは滅多にありません。ドリアンは年に2回たくさん実をつけるので、ペースト状の発酵調味料トンポヤにして冷蔵保存しています」(マイケル)
案内人:マイケル Michael
クチン郊外の山を臨む丘陵地で暮らすビダユ族。鶏を飼い、野菜や果物を庭で育て、ほぼ自給自足の暮らし。
たとえばこんな料理です
ボルネオ島 サバ州
Sabah
「夫の実家で食べる義母の手料理は、スパイスをほぼ使わない素朴な味の伝統料理です。保存が効くご飯のおとも系が多く、トゥハウやボソウは市場で買うこともできます。ちなみに、都市で暮らす先住民族は、普段はいわゆるマレーシア料理もよく食べますよ」(今村志帆)
案内人:今村志帆 Shiho Imamura
コタキナバル在住のツーリストガイド。ルングス族の夫の実家で食べる家庭料理は野菜が多く、好みの味。
たとえばこんな料理です
シナラウ・バカス Sinalau Bakas
イノシシのBBQ。煙で燻すように焼き上げ、酸味のあるチリソースをタレに、ご飯と食べる。肉の旨味を味わう料理。キナバル山のふもとの道沿いに専門の屋台が並んでいる。
先住民族の料理 3つの特徴
[1]ハーブや果物を巧みに組み合わせる
ほぼ自給自足で暮らす人も多く、限られた食材で作る奥深い味は先人の知恵の結晶。
[2]ポピュラーな調理器具は竹
筒状になっている竹は、中に具を入れて煮込むのに最適。炭火で炙って火を加える。
[3]親睦を深めるには酒が大事
収穫祭や結婚式などの宴には、米や芋から作った自家醸造酒がふるまわれる。
文/古川音 Oto Furukawa
取材・写真協力/今村志帆、信田敏宏、スン、マイケル