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Food: 大地のパワーに満ちた先住民族の伝統料理[WAU No.32]

身近な自然の恵みをいただく

マレーシアでは、マレー半島内陸部、ボルネオ島サバ州、サラワク州という、おもに3つの地域に先住民族が暮らしています。食文化は様々ですが、ご飯とおかずのコンビが基本スタイル。味つけはおもに、塩とハーブ。ときには発酵食品を組み合わせ、素朴ながら滋味深い味わいです。


マレー半島内陸部:オラン・アスリ

Orang Asli

「私が調査したドリアン・タワール村では、畑で収穫した野菜、スープ、ご飯が普段の食事で、肉はめったに食べません。村の半数が母系制の家族で、料理担当の妻は一家の長。男性は、妻がご飯を作るまで口出しをせず、お腹が空いていてもじっと待つんですよ」(信田敏宏)

案内人:信田敏宏 Toshihiro Nobuta

国立民族学博物館教授。長年オラン・アスリの社会を研究し、村での呼び名が“お兄さん”から“おじいさん”に変化。

たとえばこんな料理です

魚のトマト煮込み(右)と野菜スープ。魚は近くの川で釣ったもの
母系制の家族でも料理担当は女性。一方、男性は買い出し担当で、妻の指示に従って買ってくる
イノシシ肉をうれしそうに食べる子供たち。味つけは塩とレモングラスのみ。過度な調味料を使わないのは、狩猟時の矢尻の毒の影響を避けるためといわれている
イノシシを狩ると、村人みんなで調理する

学校が休みの期間は結婚式などの宴が月に何度もあり、そのときは豪華な料理がふるまわれる



ボルネオ島 サラワク州

Sarawak

「ドリアン、ジャックフルーツ、パイナップルから、胡椒、ハーブ、野菜まで、庭で育てています。鶏、豚もいるので、食材を買うことは滅多にありません。ドリアンは年に2回たくさん実をつけるので、ペースト状の発酵調味料トンポヤにして冷蔵保存しています」(マイケル)

案内人:マイケル Michael
クチン郊外の山を臨む丘陵地で暮らすビダユ族。鶏を飼い、野菜や果物を庭で育て、ほぼ自給自足の暮らし。

たとえばこんな料理です

赤米入りご飯のまわりに並ぶのは、タケノコ、チャンコ・マニス(やわらかな葉っぱ)を炒めたものなど、ほとんどが野菜。肉は竹筒で調理したバンブーチキンのみで、これにも野菜がたっぷり

先住民族にとって竹筒は大事な調理器具。米を炊くこともある

バンブーチキンを取り出しているところ。チキン、タピオカの葉、タケノコを竹筒に入れて蒸し焼きにした料理
キャッサバをふかしたおやつ。サツマイモのような味


ボルネオ島 サバ州

Sabah

「夫の実家で食べる義母の手料理は、スパイスをほぼ使わない素朴な味の伝統料理です。保存が効くご飯のおとも系が多く、トゥハウやボソウは市場で買うこともできます。ちなみに、都市で暮らす先住民族は、普段はいわゆるマレーシア料理もよく食べますよ」(今村志帆)

案内人:今村志帆 Shiho Imamura
コタキナバル在住のツーリストガイド。ルングス族の夫の実家で食べる家庭料理は野菜が多く、好みの味。

たとえばこんな料理です

野菜を多く使い、素材の味を生かしたヘルシーな料理が多い。また、先住民族の料理は名前のないものが多いが、サバ州の料理は共通の呼び名があるのが特徴
葉っぱ包みご飯「リノポッド Linopod」とおかず。リノポッドとは、果物タラップの葉などで、白米、赤米、陸稲のもち米などを包んだもの。結婚式などの祝い料理によく提供され、写真のように葉っぱを皿変わりにし、おかずを盛って食べる

トゥハウ Tuhau

生姜の一種、トゥハウを細かく刻んで柑橘類の果汁と唐辛子であえたもの。繊維質で食感は硬く、パクチーのような華やかな香りがある。口の中がさっぱりする箸休め的存在。

ヒナヴァ Hinava

生の魚を柑橘類の果汁でしめ、唐辛子やゴーヤなどを加えたもの。カダザン・ドゥスン族の伝統料理。バジャウ族の料理「キニラウ」、サラワク州の料理「ウマイ」もよく似た味。

ピナサカン Pinasakan

ターメリックで色と香りをつけた魚料理。イワシやアジのような小型の魚を使う。酸味のあるバンバンガンや塩魚を加えてコクを出すこともあり、滋味深い味で、ご飯がすすむ。

ボソウ Bosou

生の魚、炊いたご飯、塩を混ぜて長期発酵させたもの。保存が効くおかずで、日本のなれずしに近い。塩気が強く、独特の香りがあり、地元の人でも好き嫌いがわかれる味。

バンバンガン Bambangan

野生種のマンゴー、バンバンガンを酢漬けにしたもの。白っぽいのは種の仁の部分で、これもすりおろして混ぜることで、酸味の中にコクが出る。和食の梅干しのような存在。

サバベジ Sayur Manis

クセのない野菜で、茎のコリッとした食感が特徴。発酵海老ペーストのブラチャンや塩で炒めて食べる。正式名はサユール・マニスだが、サバ州で人気なのでサバベジと呼ばれる。

アンブヤ Ambuyat

サバ州西部やブルネイで食べられている伝統料理。サゴヤシのでんぷんに熱湯を加えて混ぜたもので、もちのような食感。これ自体に味はなく、ソースやスープにつけて食べる。

シナラウ・バカス Sinalau Bakas

イノシシのBBQ。煙で燻すように焼き上げ、酸味のあるチリソースをタレに、ご飯と食べる。肉の旨味を味わう料理。キナバル山のふもとの道沿いに専門の屋台が並んでいる。



先住民族の料理 3つの特徴

[1]ハーブや果物を巧みに組み合わせる

ほぼ自給自足で暮らす人も多く、限られた食材で作る奥深い味は先人の知恵の結晶。

左より、ショウガの花、シャロット、トゥハウ、バンバンガンなど

[2]ポピュラーな調理器具は竹

筒状になっている竹は、中に具を入れて煮込むのに最適。炭火で炙って火を加える。

具は鶏肉や野菜で、味つけは塩やハーブなど。蒸し煮なのでジューシー

[3]親睦を深めるには酒が大事

収穫祭や結婚式などの宴には、米や芋から作った自家醸造酒がふるまわれる。

「サバ州では米の酒タパイが人気。祝いの日は朝まで飲みます」と今村さん


文/古川音 Oto Furukawa
取材・写真協力/今村志帆、信田敏宏、スン、マイケル

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