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行定勲監督作品「鳩 Pigeon」

[この記事はWAU No.9(2016年9月号)から転載しています。]

第29回東京国際映画祭上映『アジア三面鏡』行定勲監督作品「鳩 Pigeon」

ヤスミン映画ファン必見。
行定勲監督作品に シャリファ・アマニ登場!

2016年の東京国際映画祭で上映される、国際交流基金アジアセンター×東京国際映画祭の共同製作映画『アジア三面鏡』。日本とアジアの国の人々の交流テーマにした3つの短編からなるオムニバス映画で、3作品のうちの一つが、マレーシアを舞台にした行定勲監督の「鳩 Pigeon」です。マレーシアでの撮影について、行定監督にお話を伺いました。

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ペナンを舞台にマレーシアンクルーで撮影

行定勲監督といえば、「世界の中心で、愛をさけぶ」他で、日本アカデミー賞も受賞されている日本を代表する映画監督ですが、「鳩 Pigeon」は、マレーシアのインディーズ映画のクルーとともにペナンで撮影されました。マレーシアを舞台に選んだのはどういった経緯だったのでしょう。

「アジア三面鏡の話が来たときに思い出したのが、祖父の兄弟たちが、マレーシア戦線で戻ってこなかったという出来事でした。祖父は、一度マレーシアに行ってみたいとずっと言っていたけど叶わず他界。津川雅彦さん演じる主人公の老人には、そんな祖父を重ねました。さらに、ここ最近マレーシアをリタイア後の癒しの地として選ぶ人も多いと聞きました。そんな文化的背景を元に老人が主人公のマレーシアが舞台の作品にしたんです。」

シャリファ・アマニとの出会い

「鳩 Pigeon」には、WAU創刊号でもご紹介したマレーシア女優、シャリファ・アマニさんが参加しています。2015年に開催された「マレーシア映画ウィーク」の際に来日し、その聡明かつキュートな笑顔に多くのファンが魅了されました。行定監督との出会いはどんな感じだったのでしょうか。

ヤスミン監督の『細い目』の少女オーキッドのイメージをメイド役に考えていたけれど、実際の彼女に会ったら、当然、大人になっていて。でも、彼女から発せられる特別な女優が持っているオーラと、インディペンデントで国際的なクリエーションの感覚を持っている人だと感じました。それで、こちらが年齢の設定を変えて参加してもらったんです。メイドの名前は、当初、役のイメージでオーキッドだったのですが、彼女は、オーキッドはヤスミンの作品で生きているからと、別の名前を提案してきました。その名前は「ヤスミン」。彼女の口からそう発せられたときは感動しました。

「鳩 Pigeon」は裏切らない

タイトルにもなっている『鳩 Pigeon』ですが、今回、津川さん演じる頑固な老人、道三郎が、マレーシアの屋敷で鳩を飼うのですね。

「僕は子供の頃、レース鳩を飼っていたことがあるんです。よく訓練された鳩は、裏切らない。信じていれば鳩は絶対戻って来る。道三郎は、日本の家族と離れて心を閉ざし、鳩しか信じられない。鳩は、平和のシンボルでもあるし、日本的でもある。信じる拠り所の表現として登場させました。

マレーシアと日本との共同制作

『アジア三面鏡』は、「アジアで共に生きる(Live together in Asia)」をテーマに日本を含むアジアの監督3名が描く、共同製作プロジェクト。今回、日本、カンボジア、フィリピン、そしてマレーシアの四カ国で撮影を行ったオムニバス映画となっています。

異国間の共同製作ですから、想定外のことも多かったですよ。鳩はうまく飛ばないし(笑)。でも、計画通り、きっちりやりたいなら日本で撮ればいいんです。東南アジアに慣れてない津川さんに頑張ってもらい、コミュニケーションも不十分な撮影クルーとの間で、一種賭けでもありました。長編1本撮れるくらいのプロセスがありました。

アマニさんは、津川さん、永瀬さんの演技に感銘を受けていました。津川さんは、役作りで、カメラが回っていない時でもアマニさんに、役柄と同じ冷たいアプローチをしていたため、彼女も途中で心が折れそうになっていた事もありましたが、撮影後半は、津川さんもホッとしたのか二人とも仲良くなっていました。また、永瀬さんに対しては、彼が醸し出している演技だけではない人間性のようなものがむき出しになっている部分や、演技の一つ一つに、すごい俳優さんだと感銘を受けていました。ヤスミン監督作品のオーキッドと、日本を代表する俳優が同じフレームの中にいる。映画の歴史があるとすれば、ささやかですが両者が交わったこれこそが歴史的瞬間、こういうことがあるから映画は面白いんです。この『アジア三面鏡』というプロジェクトがなかったら実現しなかったショットだと思います。これが、異国で映画を撮るということ、『アジア三面鏡』の目指している意義だったと思います。

取材を終えて
ヤスミン映画ファンにはおなじみのシャリファ・アマニさん。ヤスミン監督が亡くなる直前に彼女がヒロインの日本を舞台にした映画を計画中だったこともあり、彼女の中で日本との共同製作には特別な思いがあるに違いありません。『アジア三面鏡』は、第29回東京国際映画祭で上映されます。(日程、上映スケジュールは後日webで発表)


「鳩 Pigeon」あらすじ

認知症気味の老人、道三郎は、息子の用意したメイド付きのマレーシアの屋敷に家族と離れて暮らしている。道三郎はメイドの若いマレーシア人女性ヤスミンにも心を閉ざしているが、少しずつ二人は心を通わせていく。主演の老人役に津川雅彦さん。マレーシア人メイド役は故ヤスミン・アフマド監督作品のオーキッド役で著名な、シャリファ・アマニさん。老人の息子役として永瀬正敏さんが出演します。

『アジア三面鏡』について

国際交流基金アジアセンター×東京国際映画祭co-produceアジア・オムニバス映画製作シリーズ。「アジアで共に生きる(Live together in Asia)を共通のテーマに、ブリランテ・メンドーサ(フィリピン)、行定勲(日本)、ソト・クォーリーカー(カンボジア)の三カ国の監督によるオムニバス。第29回東京国際映画祭にてワールドプレミア上映した後、世界各国の主要映画祭での上映を目指す。東京国際映画祭は2016年10月25日(火)〜11月3日(木・祝)開催。「アジア三面鏡」の上映スケジュールは東京国際映画祭のウェブサイトなどで発表。


Yukisada Isao

行定 勲

1968年、熊本県出身。『ひまわり』(2000)で第5回釜山国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。『GO』(2001)では第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め、数々の映画賞を受賞。『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)は観客動員620万人、興行収入85億円の大ヒットを記録。以降、『北の零年』(2005)、『パレード』(2010、第60回ベルリン国際映画祭パノラマ部門・国際批評家連盟賞受賞)。釜山国際映画祭のプロジェクトで製作されたオムニバス映画『カメリア』(2011)の中の一作『kamome』を監督。公開待機作は、日活ロマンポルノ『ジムノペディに乱れる』(今秋公開)と『ナラタージュ』(来秋公開予定)など。


取材・文 Rie Takatsuka(株式会社ODD PICTURES
写真提供 国際交流基金アジアセンター東京国際映画祭

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