ジャンル別食名鑑

バクテー / 肉骨茶

We Love バクテー / 肉骨茶 / Bak Kut Teh

「肉骨茶」という字面は怖め、香りは独特、でも味はやさしい。町を歩いていて、漢方の匂いがふわっと漂ってくればそこはバクテー店の近く。マレーシア人はもちろんのこと、日本人にもファンの多い料理、バクテーを紹介。


 マレーシアやシンガポールの中国系民族のソウルフード。漢方を使ったスープ料理で、具は豚の三枚肉、スペアリブ、臓物など。ほろほろに煮込まれた肉に注目しがちだが、この料理の主役はスープ。とくに香りが重要で、マレーシアはやわらかな甘い香り、シンガポールはスパイシーな胡椒の香りを効かせることが多い。


嗚呼。ごく飲みしたい
禁断症状が出るスープ

 漢方スープと聞くとクセが強そうですが、これが驚くほど食べやすいのです。豚肉のうま味がしみ出たスープは、ほのかに甘く、醤油系のやさしい味。漢方の香りは、最初は異国情緒満点ですが、何度か食べていると、いつの間にか懐かしい感じになり(あっ、おばあちゃん家の線香の匂いに似てる気がする!)、名前の「茶」のようにゴクゴク飲みたくなります。この欲望に応じて、マレーシアではスープを無料で継ぎ足してくれる店が多いのも、満足度が高い理由。


 マレーシアで暮らしていた時の記憶を思い返すと、現地に住むバクテー好きの日本人の顔が次々に頭に浮かびます。金曜日はバクテーの日と決めて毎週リピートしていたり。車で1時間かけて(それも高速道路をとばして!)お気に入りの店に足しげく通っていたり。マレーシア人だけでなく日本人の心もとらえる料理、それがバクテーです。


バクテーに必須の4アイテム

バクテーには、ご飯、揚げパン(油条)、中国茶、唐辛子とにんにくを混ぜた醤油タレを合わせよう。前の3つは別注文、タレは卓上に無料で用意されている。


おもな漢方の種類

血液サラサラの効能があるといわれる「当帰」のほか、「人参」「党参」「玉竹」「甘草」「クコの実」「川弓」「熟地黄」「八角」「ナツメ」など。漢方販売店ではオリジナルの漢方ミックスを購入できる。


早朝バクテーという風習に
黒と白のアツイ対決

 バクテー店の多くは、早朝から営業しています。とくにマレー半島の人々は、1日のエネルギー源として朝にバクテーを食べる風習があるので、週末ともなると朝7時ごろから店は大繁盛。円卓の中央に置かれた鍋を囲み、にぎやかに食事をする家族の姿があります。


 さて、バクテーのルーツには諸説あり、ひとつは港町クランの労働者が、廃棄されていた肉の骨と漢方を使って滋養強壮のために作り始めた、という説。また、中国福建省からの移民が、もともと故郷の料理にあった豚の醤油煮込み「肉骨」と漢方スープを合体させたのが始まり、とも。


 もうひとつ興味深いのは、隣同士のマレーシアとシンガポールでは、バクテーの味が異なる、ということ。これは、マレーシアは先の福建省の調理人が考案したレシピで、シンガポールは広東省潮州出身の調理人の味が広まった、といわれています。同じ中国系民族でも、出身地によって嗜好が異なるというわけです。スープの色の違いから、バクテー好き日本人の間では、マレーシアを「黒バク」、シンガポールを「白バク」とよぶ人もいます。おいしくて体にもいいバクテー。お気に入りの味から黒白談義まで、バクテー語りは尽きません。


バクテーいろいろ

 マレーシアのバクテーは、スープたっぷりの土鍋タイプが主流。そのほか、クラン発祥のドライ、部位別、海辺の町には海鮮バクテーもあります。

スープ/ 土鍋。漢方の香りが強め。中国醤油や漢方「熟地黄」を加えるため、スープの色は黒っぽい。見た目のガッツリ系とは違って味はあっさり。クアラルンプールをはじめ全土で人気の味。
ドライ/土鍋。漢方スープで煮込んだバクテーの肉に、唐辛子、スルメイカ、野菜などを加えて炒めたもの。しぐれ煮のような濃い味でジワッと辛く、ご飯がすすむ。クラン発祥。
スープ/皿。1人前を注文すると、皿で提供されることも。土鍋の場合、そのまま火にかけられて熱々だが、皿はほどよい温度で食べやすい。写真はペナンの屋台にて。
スープ少/小皿。「排骨」「豚脚」など、部位ごとに注文するタイプ。時間をかけて煮込まれた肉質はやわらかく、角煮のように濃い味。ぷるぷる食感の臓物も美味。クラン名物。
スープ多/小皿。肉の部位ごとに選べて、スープも堪能できるタイプ。肉の味がそれぞれ楽しめるのがポイント。写真はボルネオ島コタキナバルの店「佑記」にて。ここは豚団子も名物。
シンガポール。透明スープに、具はスペアリブのみ。胡椒のパンチが食欲をかきたてるのがシンガポールに多いバクテーのスタイル。漢方スープというより豚煮込みスープ。土鍋もある。

豚以外もあるよ!
変わり種バクテー


日本でバクテーを楽しもう!

東京・十条のバクテー専門店が人気
マレーシアの漢方メーカー「A1」提携店。約18種の漢方をブレンドした「元祖 あっさり」と「濃厚」の2種のバクテーを提供。さらに「味噌」「炙り」とオリジナルバクテーも。おつまみも充実。

A1 肉骨茶(エーワンバクテー)

エレンシェフ監修のバクテーレトルト
店の人気メニュー「肉骨茶」をレトルトで再現。トキワ漢方製薬とコラボし、10種の和漢ハーブをオリジナルブレンド。国産のスペアリブがゴロリと入っていて食べ応えも十分。

マレーシアバクテー3,300円(5個セット)
[36 cos]オンラインで販売

無印良品で冷凍バクテーを販売
湯煎で10分でできあがり。袋を開けた瞬間、漢方の香りに包まれる。スープは甘めで、豚のうま味が濃厚。オリジナルの大根に汁が染みていて美味。

バクテー(マレーシア風豚肉の煮込み)360円
無印良品店舗、またはオンラインにて


日本で購入できる漢方パック「A1バクテーの素」を使った簡単レシピ

 漢方効果で身も心もポカポカに。ご飯にオンで味わうべし!

材料
・A1バクテーの素 1パック ★
・豚肉(部位は好みで) 1kg
・にんにく 丸ごと1個
・乾燥しいたけ 6個
・油揚げ 1枚
・えのき 1袋
・レタス お好み
・オイスターソース 大さじ2
・しょうゆ 大さじ2
・塩 小さじ1/2~1
・水 1.5

★ネットで購入可。1袋(2パック入り)850円程度

レシピはこちら
豚肉は下ゆで。にんにくは外側の薄皮を剥く。油揚げは8等分、しいたけは水で戻してよく絞り、石づきを切り落とす。

鍋に分量の水、A1バクテーの素、にんにく、しいたけを入れ、沸騰したら弱火にし、漢方の香りが立つまで20分ほど煮こむ。

ふたたび強火にして豚肉を入れ、あくが出たらとり除き、弱火にしてオイスターソース、しょうゆ、塩を加えたら、そのまま20~30分。

油揚げ、えのき、レタスを加えて、火が通ったらできあがり。

※ クコの実やナツメを加えれば、彩りよく、スープがさらにふくよかな味わいに。
※ 刻みにんにくと唐辛子をしょうゆに混ぜたタレを添えよう。

出来上がり!‼


参考文献:『PEOPLES AND TRADITIONS』(ARCHIPELAGO PRESS)/『中国料理の世界史:美食のナショナリズムをこえて』(岩間一弘著、慶応義塾大学出版会)

(クレジット)
文・古川 音 Oto Furukawa 写真・うしぞー、杉生幸久、鈴木祥一、伊能すみ子、古川音 WAU誌面デザイン・Keiko Murate


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です