ジャンル別食名鑑 注目の店

比較して見えること。マレーシアとインドのカレー文化

Part 2

ナシカンダーを深掘り。

その1 提供スタイルについて

―― さて、ここからマレーシアとインドのカレー文化を比較してみようと思います。まず提供スタイル。店頭に料理がずらっと並んでいて、そこから皿に盛り付けるナシカンダーのような食堂はインドにありますか? 

マレーシア、クアラルンプールのナシカンダー。店頭に並んだ料理から、食べたいものを好きな量盛り付け、その皿をレジ係にみせて会計。写真でビニール袋に入れているのは持ち帰りのパターン

まる インドではあまり見ないですね。

―― この仕組み、料理名を知らなくても指さしで注文ができるので、私みたいな観光客にも便利なんです。

まる インドの場合は、料理の前知識がないと、何を頼んでいいのか分からないと思います。料理写真もめったにありません。旅の前に、入念に下調べをして料理の検討がつくようになってから、僕は旅に出ています。

―― メニュー名はタミール語やヒンディー語?

まる 英語表記はありますよ。ただ、英語名をみてもどんな料理か想像できない。インド初心者の方であれば「recommend?」と店のおすすめを注文するのが鉄則です。


その2 料理の色について

まる あと、マレーシアとインドでは、料理の色が違いますね。

―― 色ですか?

まる 全体的にマレーシアのほうが色のバリエーションが豊かです。

オレンジ色はカレーで、鶏、羊、魚など様々な種類がある。薄い色は野菜炒めのことが多く、乾燥スパイスや発酵海老を調味料として使い、ご飯がすすむ味のものが多い

―― たしかに全体的に鮮やかな色が多いですね。

鬼頭 ビビッドな色はおいしそうに見えて食欲をそそりますね。

まる マレーシアは陳列スタイルなので、映えを意識していると思います。また、食材自体のバリエーションも多い。それがそのまま色の豊かさにつながっていると思います。

―― 食材の種類が違うんですね。

まる はい。たとえば、もやしを使うインド料理はほぼ無いので、白っぽい料理というのは見かけません。

伊能 もやしは、インドだとダールで食べますよね。芽を生やす前に食べてしまうのかしら。

まる そうですね。あと、インド人は腐りやすいものを徹底的に避けるんです。暑い気候下で、もやしは傷みやすいので好まれないのだと思います。腐りやすいものは不浄という宗教的な観点もありますね。

―― そうなんですね。

まる この緑色の炒めものもマレーシアらしい色ですね。

―― ヘビウリの卵炒めです。

左はヘビウリの炒めもの、右はもやし炒め。マレーシアのナシカンダーではよく見かけるメニュー

まる インドでもヘビウリはよく食べますが、こんなふうに色が綺麗な炒めものはありません。どう調理するかというと、みじん切りにして、汁気を飛ばすようによく炒める。できあがりは茶色っぽい料理です。彩りよりも、水分を無くして暑い気候のなかでも安全に食べる方が大事です。

―― オクラはどうでしょう?

まる オクラはインドでも人気の食材です。でも、この写真みたいにスチームして鮮やかな緑色にして食べることはしません。インドだと、スパイスで炒めたり、カレーにしたり、サブジにしたり、ポリヤルにしたり。色はほぼ茶色です。

―― そうなんですね。よくマレーシアは生野菜が無いといわれるのですが、インドよりは生に近い野菜料理が多いんですね。

まる マレーシアのナシカンダーの野菜料理は、食感のいいものが結構ありますよね。

―― そういえば、モツやレバーなどの内臓系、魚の卵はインドではあまり食べないそうですね。ナシカンダーで魚卵は定番ですし、内臓系も時々あります。

まる マレーシアとインドの違いでいちばん感じるのは、マレーシアのインド系コミュニティでは、浄不浄のしばりがインド本国に比べてだいぶん薄まっているな、と。そこが他民族とのフラットな関係にもつながっている気がします。インドの場合、内臓系は身分の低い人が食べるもの、という考えが昔からあるんです。

―― そうなんですね。

まる モツ、レバー、あとアサリのような小さな貝。これらは大都市の店のメニューにはありません。でも田舎にいくと食べることができて、これがね、すごくおいしんです。

―― 宗教観が料理に現れているのですね。

まる そうですね、マレーシアのほうが、いろんな食材を自由に使うことができ、そこにさらに東南アジアの調味料も加わっていて、ちょっとズルイなというか、そりゃ美味しくなるよな、と。

マレーシア、クアラルンプールのナシカンダーの名店「Kudu」にて、好みの料理を盛りつけたもの。もやし、奥のオクラ、その左となりの魚卵が、マレーシアらしい味

その3 地域性について

―― 以前、クアラルンプールとペナンのナシカンダーを比べると、ペナンのほうが本場インドの味に近い(※ナシカンダーは19世紀にインド系の行商人が天秤棒(マレー語でカンダー)を肩にかつぎ、ご飯(ナシ)とカレーなどのおかずをペナンで売り歩いたのが始まりといわれる)とおっしゃってましたよね。

まる この写真をみるとわかりやすいです。キチャップ・マニスの黒い料理を除くと、ここに並んでいるのは、ぜんぶインド料理の色。表面の油の浮き具合といい、赤茶色のグレービーの感じもそっくり。

ペナンで人気のナシカンダー「hameediyah」

まる こっちの写真は、クアラルンプールのナシカンダーですよね。

―― はい、そうです。こっちの店はマレー系のお客さんが多いですね。もしかしたら、ナシカンダーという看板を掲げつつ、オーナーはマレー系なのかもしれません。

クアラルンプールで人気のナシカンダー「Kudu」

まる あとこれ、気になるんですけど、なんですか?

―― これ?  赤玉ねぎの酢漬けです。ムルタバ(下写真)に付いてきますね。インドにはないですか?

まる ないですねぇ。ザワークラウトのような感じですか?

―― 発酵はしてませんが、酸味があってアチャール的存在です。口のなかがさっぱりしておいしいですよ。

まる 見ためが西洋料理っぽいですね。

―― イギリス植民地下にあったペナンでよく見かけるスタイルなので、もしかしたら影響を受けているのかも。今度調べてみます。

ムルタバ murtabakとは、スパイスで味つけしたひき肉を小麦粉の生地で包み焼きした軽食。鉄板で香ばしく焼き上げる。話題になっているのは、皿の奥、赤玉ねぎの酢漬け

(Part 3へ 続く)

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