Part 3
シンガポールのナシカンダー事情
―― 今回、シンガポールに詳しい伊能さんに来てもらっています。シンガポールのナシカンダー事情について教えてください。
伊能 2023年1月にシンガポールに行ったとき、リトルインディアでナシカンダー店を発見しました。すごく人気で、夜11時でも満席。
―― すごい! シンガポール全体でみると、ナシカンダーの店の数はあまり多くないんですよね?
伊能 はい、テーブルでオーダーするインド料理店のほうが多いと思います。でも、この店がとてもにぎわっていたので、今後は増えるかも。リトルインディアにある店としては、かなり広くて、扉も窓もない、マレーシアと同じオープンなスペースでした。料理が並んでいるカウンターで注文してワンプレートに盛ってもらうこともできるし、テーブル席に座って一品料理も注文できるハイブリッド式でした。
―― そうそう、マレーシアのナシカンダーも、ロティチャナイやミーゴレンといった一品料理はメニュー表から注文します。ちなみに、ナシカンダーというのはご飯とおかずのワンプレート飯を指していて、そのナシカンダー店に、ナシカンダー以外のロティチャナイなどの軽食も用意してある、ということです。
マレーシアらしい土地のシェア感
まる フードコートのような空間は、マレーシアやシンガポールらしいと感じます。大きなスペースに小さな店が複数入っている施設は、インドではあまり見かけません。
―― この施設をみんなで盛り上げようみたいな感じは、マレーシアっぽいですか?
まる そうですね……。ひとつのスペースをみんなでシェアして商売をする、のような感覚はあまりないかと。
―― たとえば親戚でフードコートを運営、というのはありますか? マレーシアだと、1番目のお兄さんがラクサ担当、2番目のお兄さんがクイティオ担当のように、それぞれが店を出し、1つのフードコートを親戚が経営、というのをときどき見かけます。
まる ファミリーであっても、家長がトップダウンで指示。つまりワンマン経営がインドの基本スタイルのように感じます。隣の店は常にライバルです。
―― マレーシアなど東南アジアの多くは、土地のシェア感がある気がしますね。
伊能 シンガポールの場合、ホーカーセンターのような屋台集合施設は政府が管理しているのがほとんどです。また、エリアによって割合は変わりますが、どのホーカーにも、中華系、マレー系、インド系の店主がいて、バラエティに富んだ料理を提供していることが多いですね。
―― あらためて考えると、小さな店が集まって大きな施設を作り出すフードコート文化は不思議な感じもしますね。マレーシアは移民の多い国なので、じぶんの土地というより、その土地にみんなで暮らしているという感覚が、自然にあるのかもしれません。
まる 国土に対しての人口の数が少ない、というのもありそうですね。あと、マレーシアの方って、あまり壁がないですよね。
―― 民族が多数いて、互いに違っているのが当たり前なので、壁を作ることにメリットがない、作っていられない、というのはあると思います。たとえば、自分が店の経営者だと仮定すると、同じ民族だけでなく、違う民族もお客さんになって欲しい。なので、相手を理解しようとする。そういう機会があちことにあって、違うもの同士が一緒に社会を盛り上げていっている気がします。
まる 壁を作らないというのは、心理的だけでなく、物理的にもですね。あのオープンな屋台の空間、窓もドアも扉もない空間が最高です。
―― わかります!
鬼頭 ナシカンダーは24時間営業のことが多いんですよね?
まる そう、時間的な壁もないですね、笑。ここ東京・大手町の場所にゼロツーをオープンしたのは、この店に壁がなかったからなんです。全面窓ガラスなので、これからの時期はオープンにして営業ができます!
―― 最高ですね!
今後のゼロツーの展望
―― これからのゼロツーについて教えて下さい。
まる マレーシアのナシカンダーを日本的に解釈したらどうなるのか、そこを追求していきたいです。
―― というと?
まる ナシカンダールって、マレーシアだとファストフードのようなものですよね?
―― ファストフードとファミレスの間みたいな感じかな。あらためてナシカンダーのよさを考えてみると、店と客、客同士、料理と私、のような色々な距離間がちょうどいいんです。具体的にいうと、軽食からガッツリ系まで多彩なので、そのときのお腹の空き具合やTPO合わせて楽しめる。空間が広いので、コーヒー1杯で長居しても誰からも文句をいわれない。駐車場付きのことが多いので、遠い場所に住む友人とも車でサッと集合できる。24時間営業なので、会社に行く前の朝食に。なんだったら、リモートオフィスがわりに仕事をしたり打ち合わせをしてもいい。そんな色々な使い方ができる空間です。
まる その気軽さって、日本でいうと居酒屋に近いのでは、と考えています。日本では、マレーシアのナシカンダーのように広いスペースを確保するのは正直難しい。そう考えたとき、気軽な居酒屋であり、狭い場所でも人々がおおらかに楽しめる空間といえば立ち飲みにも近い。ゼロツーの夜の営業は立ち飲みにして最後に小ぶりのナシカンダー皿でシメる、とか。
―― 進化を遂げるゼロツーですね! 現地の食文化に、日本という文脈を加えていくんですね。
まる はい、どんどん進化をしていきたいです。このゼロツーで、マレーシア人も日本人も、大人同士も子ども連れも、いろんな人が交流して欲しいです。日本で初めてナシカンダーの店をオープンできたので、これをもっと仕掛けていきます!
―― 本日はありがとうございました。これからも応援していきます!
ゼロツーナシカンダールトーキョー
zerotwo nasikandar tokyo
住所:東京都千代田区大手町1-9-2グランキューブ1F外部105区
アクセス:大手町駅から徒歩5分
営業時間:11:30~21:00(年中無休)
電話:03-5542-1203
Instagram: @zerotwo_nasikandartokyo ※売り切れ御免なので、来店前にインスタをチェック!