ジャンル別食名鑑 注目の店

比較して見えること。マレーシアとインドのカレー文化

東京・大手町に店を構える「ゼロツー・ナシカンダール・トーキョー」*。日本初のマレーシアカレー専門店で、複数の料理をワンプレートに盛り付けるスタイルは、現地で “ナシカンダー” とよぶカレー食堂そのもの。今回は、開店2周年を記念し、店主のまるちゃんにインタビュー。ゲストに、カレー愛好家の鬼頭さん、シンガポール料理に詳しい伊能さんも迎え、さまざまなカレーカルチャーを比較。インド旅に欠かせない兄ちゃんから買うあれまで、Part1〜3に渡ってトーク(全公開!)。進行役はWAU編集部のオト(マレーシア食文化ライター)です。

(*)「ゼロツー・ナシカンダール・トーキョー」は、東京・三田で人気の南インドカレー店「ゼロワンA.o.D」の姉妹店。


Part 1

ゼロツーをオープンした理由

―― 開店2周年、おめでとうございます!(全員拍手!!) お客さんの評判はどうですか?

まる おかげさまで好評です。リピーターの方も多くいらっしゃいます。

―― 日本でナシカンダー(*WAU記事参照)はイケる、と最初から予想していたのですか?

まる いいえ、笑。ただ、マレーシア料理は日本人に舌に合う、という確信はありました。

―― そうなんですね。

まる 僕が初めてマレーシア料理を食べたのは、インドで1ヶ月ぐらい旅をした後、帰国途中のトランジットのときなんです。それまで散々インドでスパイス三昧の日々でしたから、正直、スパイスの効いた料理はもういいかな、と思っていました。ところが、マレーシアのナシカンダーでカレーを食べたら、なんじゃこりゃうめー!! ってぶっ飛んだんです。

カレー激戦区の大阪で腕を磨き、2019年に東京・田町に南インド料理店「ゼロワンカレーA.o.D」、2021年に東京・大手町に「ゼロツー・ナシカンダール・トーキョー」をオープン。日本のカレー界の盛り上げ役でもある店主のまるちゃん

―― インドのスパイス料理とはまったく違ったのですね。

まる 違いましたね。マレーシアのカレーには、パンダンリーフやコブミカン、魚醤などが使われていて、これらが日本人の味覚と相性がいいんだと思います。

―― たしかに、魚醤やコブミカンはアジア料理全般で使われているので、日本でのアジア料理のポピュラー度の高さから、けっこう食べ慣れているのかもしれませんね。

まる 南インド料理を提供している「ゼロワン」のメニュー開発は大変だったんです。これはなにも、ゼロワンが日本人の味覚に合わせているのではなく、多種多彩なインド料理のなかで、どれが日本人の味覚に合うのかを探すのに時間がかかって。自分の好きなケララ州の料理でいく、と決めるまでにさんざん悩みました。

―― 「ゼロツー」はそれがなかった、と。

まる そうです。マレーシアは何を食べてもおいしくて、日本人に合う味だと感じています。

左、シンガポール料理をはじめアジア料理全般に造詣の深い伊能さん(著書『マカオ行ったらこれ食べよう!』)、中央、東京や大阪のカレーの名店や各地のカレーイベントに足しげく通う、カレーをこよなく愛す鬼頭さん


ドアミラー無しの車でインド旅。

―― 話は変わって、インドでの料理調査は、どのように進めているのですか?

まる まず、お腹を壊してから、それから調査スタートです。

全員 お腹を壊す?!

まる はい。1度壊すと、翌日からは何を食べても平気という無敵のお腹になるんです。ある薬を飲んで、経口補水液とバナナを買って1日寝てればOK。

―― ある薬とは?

まる これがよく効くんです。インドでは道端でカジュアルに薬が買えるんですよ。

―― なんと!

まる 町の薬局に行くと、たいていカウンター内に兄ちゃんがたむろしていて、その人から1個単位でちゃんとした薬が買えます。黄緑色のノルフロックス。それ飲むと30秒で治ります。

全員 30秒?! すごい!(自己責任ですね…みんなの心の声)

まる もうひとつ、インドの薬局で購入できるお気に入りがあって。ブレスケアに似ているんですが、ブレスケアの5倍スースーする。食べ過ぎのときに飲むと、いやもう、食道や気道が無くなったんちゃうか!ぐらいスースーして、いい感じです。

ーー いいですね、私も飲んでみたい。

鬼頭 そうだ、インド旅で強烈に覚えているのは、ツアーで使っていた車にドアミラーがなかったこと。

――えっ、そんな車が路上を走っているんですね。

まる インドだと普通ですよ。きっと、いつの間にか何かぶつかってもげちゃうんでしょうね。インドを旅して感じるのは、インド人の身体能力の高さ。過酷な長時間のバス旅で、こちらは車酔いで辛いときでも、彼らはドライブインでチャイを飲んで、プーリーをけろっとした様子で食べている。もし彼らがスポーツに力を入れたら、オリンピックで金メダル量産ちゃうか?と思います。


旅に求めるドラクエ感

―― マレーシアでの調査はどうでしたか?

まる クアラルンプール、ペナン、マラッカを旅しました。この3都市、とてもいい場所なんです。人が親切で、ホテルは綺麗で、物価も手ごろで。すごくいい。すごくいいんですけど、良すぎてすこし物足りない。心でインドを欲してしまって、笑。

伊能 シンガポールはマレーシアよりも綺麗なので、まるちゃん、もっと物足りないかも、笑。でも、外側の綺麗さからは見えない、シンガポールの魅力があるんですよ。

まる たしかに。それは文化に触れたり、人と話したり、時間をかけて掘らないと見えてこない部分ですよね。

―― 旅って、ドラクエ感がありますよね。店が見つからなくてグルグル歩いたり、着いたと思ったら閉店していたり。失敗したり、ときに出会いがあって、そんなことをくり返して目的地にやっとたどり着く。物事がスムーズにすすまないのが、かえって難易度の高いRPGに挑戦しているようなワクワク感があります。

まる そうなんです。トラブルが起きると、来たな!とテンションの上がる中毒性がインドにはあります。そうそう、音さんの本『地元で愛される名物食堂 マレーシア』に掲載されていたマラッカの菓子店「プルフンティアン・クエ・カンポン」。あれはドラクエ感がありました(笑)。アプリでタクシーを呼んで行ったんですけど、途中でなぜか降ろされて歩いて到着。オープンエアの古い建物で、地元のお客さんで大賑わい。食事はおいしくて、こんなところにこんな店があるんだ、という驚きでワクワクしました。

(Part 2へ 続く)


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